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平成13年広審第35号
件名

貨物船第二十八かねと丸防波堤衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年7月26日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(高橋昭雄、坂爪 靖、伊東由人)

理事官
岩渕三穂

受審人
A 職名:第二十八かねと丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:第二十八かねと丸次席一等航海士 海技免状:三級海技士(航海)

損害
かねと丸・・・球状船首を圧壊、防波堤の一部を損傷

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件防波堤衝突は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aに対しては懲戒を免除する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年10月24日03時00分
 瀬戸内海 大畠瀬戸西方

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第二十八かねと丸
総トン数 499トン
全長 65.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,176キロワット

3 事実の経過
 第二十八かねと丸(以下「かねと丸」という。)は、砂利運搬に従事する鋼製貨物船で、A及びB両受審人ほか4人が乗り組み、石灰石1,200トンを載せ、船首3.40メートル船尾3.70メートルの喫水をもって、平成12年10月23日21時30分大分県津久見港を発し、広島県広島港に向かった。
 ところで、A受審人は、当時津久見港を積地基地とした石灰石の輸送にあたり、揚地である広島港のほか愛媛県、鹿児島県及び宮崎県の各港への運航に従事していた。積地での荷役は24時間体制なるも揚地では昼間のみの荷役体制であったので、ほぼ1日1往復の行程で運航し、船橋当直体制を昼間航海では航海士兼クレーン士を含めて船長及び航海士との3人による単独3交替制、また夜間航海ではクレーン士を除いた船長及び航海士との2人による単独2交替制で行っていた。しかし、A受審人は、各船橋当直要員が平成9年3月の進水時以来乗船した各航路の航海に慣れた者ばかりであったので、進水時当初ころ大畠瀬戸の通航時には船長への連絡と機関当直者の昇橋を指示していたものの、その後必ずしも実行されず、注意事項として「強い自覚を持つこと、機関当直者も昇橋すること」を乗組員食堂に掲示する程度であった。
 こうして、A受審人は、広島向けの夜間出航につき船橋当直をB受審人と2交替で行うことにし、出航操船に引き続いてその後の単独当直に就いて周防灘を東行した。翌24日01時37分八島灯台の西方約1海里付近に至り、昇橋してきたB受審人と当直を交替した。その際、針路及び速力などの引継ぎ事項を告げたのみで、当直者が慣れた航路による当直の単調さ等による気の緩みから居眠り運航に陥ることを考慮する必要があったものの、同航路の当直に熟知したB受審人に対して何も指示を与えるほどの理由もないと思い、居眠り運航防止の措置に関して何らの指示や措置もとらず、自室に退いて休息した。
 B受審人は、夕食時少量の風邪薬を服用して自室で睡眠をとって当直に就き、その後いすに腰掛けた姿勢で単独で当直にあたって平郡水道を横切り、02時22分下荷内島灯台から242度(真方位、以下同じ。)0.9海里の地点で、針路を358度に定め、機関を全速力前進にかけて11.2ノットの対地速力で下荷内島西側を北上し、同時32分同灯台から327度1.6海里の地点で、針路を347度に転じて自動操舵により続航した。
 ところが、B受審人は、いすに腰掛けたままの姿勢で当直を続けていたところ、定針後間もなく大畠航路第1号灯浮標を航過したころから眠気を覚えるようになったので、いったん立ち上がって外気にあたるなどして一時的に眠気を払い、再びいすに腰掛けた姿勢で当直にあたった。しかし、そのままいすに腰掛けたままの姿勢で当直を続けると居眠りに陥るおそれがあり、やがて笠佐島に並航して大畠瀬戸に向かう状況でもあったものの、立直して外気に触れたりまたは機関当直者に見張りの補助を頼むなりして居眠り運航の防止措置をとることに努めることなく、しだいに緊張を欠いた状態となっていつしか居眠りに陥ってしまった。
 こうして、02時55分かねと丸は、笠佐島に並航した際に大畠瀬戸に向けて予定の転針が行われず、柳井港東部付近に向首した同じ針路のまま続航し、03時00分柳井港新東防波堤西灯台から062度480メートルの地点において、原針路、原速力のまま山口県大畠町鳴門漁港遠崎地区の沖防波堤に衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
 防波堤衝突の結果、かねと丸は、球状船首を圧壊し、防波堤の一部を損傷させた。

(原因)
 本件防波堤衝突は、夜間、山口県屋代島西方を北上して大畠瀬戸に向かう際、居眠り運航の防止措置が不十分で、同瀬戸西方の漁港防波堤に向首したまま進行したことによって発生したものである。
 運航が適切でなかったのは、船長が船橋当直者の居眠り運航の防止に関する措置及び同当直者に対する同防止の指示が十分でなかったことと、船橋当直者が居眠り運航の防止措置が十分でなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、夜間、山口県屋代島西方を北上して大畠瀬戸を通航する際、単独で船橋当直中に眠気を覚えた場合、少量の風邪薬の服用や休息後とはいえ睡眠半ばでの深夜の単独当直であったから、仮にも居眠り運航に陥らないよう、立直して外気に触れたりまた機関当直者に見張りの補助を頼むなりして居眠り運航の防止措置に努めるべき注意義務があった。しかし、同人は、一時的に眠気を払ったものの、居眠り運航の防止措置に努めなかった職務上の過失により、いすに腰掛けたままの姿勢で当直を続けているうちに居眠りに陥り、大畠瀬戸西方の漁港防波堤に向首したまま進行して、同防波堤への衝突を招き、球状船首の圧壊等の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、夜間、瀬戸内海の運航に際し、その船橋当直体制を維持する場合、船橋当直者が運航航路の慣れ過ぎによる単独当直の単調さあるいは気の緩みから居眠り運航に陥ることのないよう、できるだけ単独当直を避けて機関当直者の見張り補助など具体的な居眠り運航の防止措置及び指示を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、運航航路に慣れ熟知した船橋当直者に特に指示を与える必要もないと思い、具体的な居眠り運航の防止措置及び指示を十分に行わなかった職務上の過失により、単独で当直中の船橋当直者が気の緩みなどで居眠りに陥り、大畠瀬戸西方の漁港防波堤に向首したまま進行して、同防波堤への衝突を招き、前示のとおりの損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告すべきところ、同人が多年にわたり船員として職務に精励し海運の発展に寄与した功績によって平成12年7月20日運輸大臣から表彰された閲歴に徴し、同法第6条を適用してその懲戒を免除する。

 よって主文のとおり裁決する。





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