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平成12年広審第95号
件名

貨物船海運丸漁船繁恵丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年7月18日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(伊東由人、竹内伸二、勝又三郎)

理事官
岩渕三穂

受審人
A 職名:海運丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:海運丸一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)
C 職名:繁恵丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
海運丸・・・右舷船首部に擦過傷
繁恵丸・・・右舷船首部に亀裂

原因
海運丸・・・横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
繁恵丸・・・見張り不十分、注意喚起信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、海運丸が、前路を左方に横切る繁恵丸の進路を避けなかったことによって発生したが、繁恵丸が、見張り不十分で、避航を促す有効な音響信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Cを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年5月25日05時30分
 山口県徳山下松港

2 船舶の要目
船種船名 貨物船海運丸 漁船繁恵丸
総トン数 498トン 4.9トン
全長 75.60メートル  
登録長   11.33メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力   735キロワット
漁船法馬力数   90

3 事実の経過
 海運丸は、船尾船橋型鋼製貨物船で、A及びB両受審人ほか2人が乗り組み、空倉のまま、船首1.10メートル船尾2.80メートルの喫水をもって、平成12年5月25日04時50分山口県徳山下松港第1区東ソー原石桟橋を発し、大分県津久見市落ノ浦に向かった。
 A受審人は、離桟に引き続き単独で操船にあたって港内を南下し、富田航路に入って針路を南西方に転じて同航路に沿って進行中、昇橋して来たB受審人から船首配置を終えた旨の報告を受け、同人が本船での航海士としての経験も長く漁船の船長としての経験もあるので単独で操船を任せても良いと思い、引き続き港内操船の指揮をとることなく、05時05分富田航路第7号灯浮標の北東方300メートル付近で、操船を引き継いで降橋し、朝食の準備のため食堂に赴いた。
 B受審人は、機関を全速力前進にかけて10.0ノットの速力で手動により操舵して富田航路を出て、黒髪島と大津島の間の中谷ノ瀬戸を南下して徳山湾に入り、05時26分岩島灯台から333度(真方位、以下同じ。)2.2海里の地点で、針路を港口に向く167度に定めて操舵を自動に切り替えたとき、右舷船首28度1.3海里のところに、前路を左方に横切る態勢の繁恵丸と後続する僚船らしき漁船1隻を認め、その後繁恵丸と衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況で進行した。
 05時28分B受審人は、繁恵丸の方位が変わらず衝突のおそれのある態勢のまま1,200メートルまで接近したのを認めたが、同船が小型の漁船なので自船の進路を避けるものと思い、大きく右転するなどしてその進路を避けることなく続航した。
 05時29分少し過ぎB受審人は、繁恵丸が500メートルに接近したとき、注意喚起のつもりで短音5回を吹鳴したところ後続していた漁船は転針したものの、繁栄丸が同じ針路、速力で接近するので再度短音5回を吹鳴して進行し、同船が至近に迫ったとき、衝突の危険を感じて機関を全速力後進にかけたが効なく、05時30分岩島灯台から327度1.5海里の地点において、海運丸は、原針路のまま9.0ノットの速力で、その右舷船首が繁恵丸の船首部に前方から54度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期で日出は05時04分であった。
 また、繁栄丸は、主としてはえなわ漁業に従事するFRP製漁船で、C受審人が単独で乗り組み、前日の漁獲物を水揚げする目的で、船首0.4メートル船尾1.4メートルの喫水をもって、父親が乗り組んだ漁船と共に、同日05時22分徳山湾湾口西側の大津島(馬島)漁港を発し、徳山市築港町の漁業協同組合に向かった。
 ところで、繁恵丸の操舵室の前面にはほぼ同じ大きさの3面の窓があったが、左舷側の窓を隠すような状態でレーダーとGPSプロッターが設置されていたので、中央部の舵輪の後方に立って見張りをすると左舷船首方に死角を生じる状況であった。そのため、C受審人は、左舷側壁に体を寄せて同壁に設けられた窓を通すか、右方に体を移動して中央の窓を通して左舷船首方を見るなどしてその死角を補っていた。
 C受審人は、同漁港外側の一文字防波堤の南端を替わしたのち、05時24分半岩島灯台から289度1.6海里の地点で、針路を041度に定め、機関を全速力前進にかけて11.0ノットの速力で父親の船の20メートルほど前を先航して手動操舵で進行した。
 05時26分C受審人は、左舷船首26度1.3海里のところに、前路を右方に横切る態勢の海運丸を視認でき、その後同船と方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況であったが、早朝には中谷ノ瀬戸からの出航船はほとんどないことを知っていたこともあって、右舷正横方となる粭島の漁港から同じ漁業協同組合に向かう同業船が出航してこないかと同方を見ることに気を取られ、操舵室内を左右に移動するなどして死角を補う見張りを行っていなかったので、これに気付かないまま続航した。
 05時29分少し過ぎC受審人は、自船の機関音が大きくて海運丸が吹鳴した汽笛信号に気付かないまま進行し、同時29分半同船が自船の進路を避けないで300メートルまで接近したものの、依然死角を補う見張りを行わなかったのでこのことに気付かず、避航を促す有効な音響による信号を行うことも、機関を後進にかけて行きあしを止めるなど衝突を避けるための協力動作をとらないまま続航し、繁恵丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、海運丸は右舷船首部に擦過傷を、繁恵丸は右舷船首部に亀裂などそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、山口県徳山下松港において、両船が互いに針路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近した際、南下する海運丸が、前路を左方に横切る繁恵丸の進路を避けなかったことによって発生したが、北上する繁恵丸が、見張り不十分で、避航を促す有効な音響信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 海運丸の運航が適切でなかったのは、船長が自ら港内操船の指揮をとらなかったことと、船橋当直者が繁恵丸の進路を避けなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、徳山下松港において離桟して同港内を航行する場合、港内は水揚げに向かう小型漁船などと行き交うところであったから、自ら操船の指揮をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、B受審人が本船での航海士としての経験も長く漁船の船長としての経験もあるので単独で操船を任せても良いと思い、自ら操船の指揮をとらなかった職務上の過失により、繁恵丸との衝突を招き、海運丸の右舷船首部に擦過傷を、繁恵丸の右舷船首部に亀裂など生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、徳山下松港内を南下中、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する繁恵丸を認めた場合、大きく右転するなどしてその進路を避けるべき注意義務があった。しかし、同人は、小型の漁船なので自船の進路を避けるものと思い、繁恵丸の進路を避けなかった職務上の過失により、同じ針路、速力で進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は、左舷船首方に死角を生じた状態で徳山下松港内を北上して徳山市漁業協同組合に向かう場合、左舷船首方から接近する他船を見落とさないよう、操舵室内で左右に移動するなどして見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、右舷正横方の漁港から同じ漁業協同組合に向かう同業船が出航してこないかと同方を見ることに気を取られ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で自船の進路を避けないまま接近する海運丸に気付かず、衝突を避けるための協力動作をとらずに進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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