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平成12年広審第96号
件名

漁船碧漁丸引船列漁船豊漁丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年7月12日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(高橋昭雄、伊東由人、西林 眞)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:碧漁丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:豊漁丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
碧漁丸・・・右舷船首外板に亀裂
豊漁丸・・・船首防舷材に損傷

原因
碧漁丸・・・見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
豊漁丸・・・動静監視不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、碧漁丸引船列が、見張り不十分で、前路を左方に横切る豊漁丸の進路を避けなかったことによって発生したが、豊漁丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年12月8日17時00分
 日本海南西部 隠岐海峡

2 船舶の要目
船種船名 漁船碧漁丸 漁船102天峰丸
総トン数 19トン 19トン
全長 23.05メートル  
登録長   17.74メートル
  3.92メートル
深さ   1.65メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 478キロワット  

船種船名 漁船豊漁丸
総トン数 6.6トン
登録長 13.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 80

3 事実の経過
 碧漁丸は、船橋が船体中央部に設けられたFRP製漁船で、A受審人ほか甲板員1人が乗り組み、島根県西郷港外で推進器にロープを絡ませて航行不能状態に陥っていたFRP製漁船102天峰丸(以下「天峰丸」という。)を同県恵曇港に明るいうちに曳航する目的で、船首0.3メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、平成11年12月8日07時40分恵曇港を発し、12時ごろ西郷港外で天峰丸と会合した。
 A受審人は、直ちに曳航準備作業に取り掛かり、曳索を約30メートル伸長して引船の船首から被引船の船尾までの長さが約70メートルの引船列とし、単独で船橋当直に就き、甲板員を船橋下船員室から曳索等の監視にあたらせ、また被引船には同船船長を操舵に配し、恵曇港に向かった。
 こうして、12時27分A受審人は、西郷岬灯台から117度(真方位、以下同じ。)0.5海里の地点で、針路を207度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて7.5ノットの対地速力(以下速力は対地速力である。)で隠岐海峡を南下した。
 ところで、A受審人は、隠岐海峡が日本海南西部沖合漁場で操業する小型漁船や東西方向等に向かう大小の船舶が行き交うところであり、折りから風力4の南西風の影響で前方から波浪を受ける状況でもあったので、甲板員と連絡を取りながら被引船を監視し、一方で海面反射の影響を考慮して感度を減衰させたレーダーにより見張りを行いながら当直にあたっていた。16時40分ころ左舷正横少し後方約5海里に前路を横切る態勢の貨物船と見られる明瞭なレーダー映像を認めるようになり、その後はレーダー画面を見張る度に同映像のみが目に付き次第にその動静に気を取られ、付近海域には他に他船がいないものとみなすようになり、目視などによる見張りを十分に行わないまま当直を続け、さらに日没も間近になって被引船と灯火の点灯や曳索の状態などについて無線連絡を取るなどしていた。
 ところが、16時49分少し前A受審人は、右舷船首73度2海里のところに豊漁丸を認めることができ、さらに同時55分その方位が明確に変わらず、同船と衝突するおそれがある態勢で互いに接近する状況であったが、依然前示レーダー映像のみに気を取られ、右舷方に対する見張りを十分に行わなかったので、前路を左方に横切る態勢で接近する豊漁丸に気付かず、その進路を避けないまま続航中、右舷正横至近に同船の船首部を初めて視認したもののどうする間もなく、17時00分多古鼻灯台から321度4.5海里の地点において、碧漁丸引船列は、原針路、原速力のまま、碧漁丸の右舷船首部に豊漁丸の船首が後方から70度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力4の南西風が吹き、海上は波浪の高い状態で、日没は16時52分であった。
 また、豊漁丸は、ぶり曳縄釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、隠岐海峡での操業の目的で、船首0.3メートル船尾0.4メートルの喫水で、同日07時00分同県瀬崎漁港を発し、潜戸鼻の北北西約12海里の漁場に至って操業を行い、その後16時過ぎ操業を打ち切り、同時30分多古鼻灯台から319度10.5海里の地点で、針路を137度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて12.0ノットの速力で帰途に就いた。
 B受審人は、船橋中央部に置かれた肘掛いすに腰掛け少し眠気を覚えながら当直にあたっていたところ、16時49分少し前左舷船首37度2海里に碧漁丸引船列の2隻の船影を初めて認めたが、一見しただけで同船が自船の前路を替わるものと思い、その動静監視を十分に行わなかったので、その後同船が自船の前路を右方に横切り、衝突するおそれがある態勢で互いに接近する状況に気付かず、避航を促すよう警告信号を行うことも、さらに間近に接近した際に衝突を避けるための協力動作をとらないまま続航し、豊漁丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、碧漁丸は右舷船首外板に亀裂を生じ、豊漁丸は船首防舷材に損傷を生じた。

(原因)
 本件衝突は、日没後間もない薄明時、日本海隠岐海峡において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、碧漁丸引船列が、見張り不十分で、前路を左方に横切る豊漁丸の進路を避けなかったことによって発生したが、豊漁丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、日没後間もない薄明時、隠岐海峡において、同業船を曳航して単独で船橋当直にあたる場合、付近海域が操業から帰航する漁船など他船と出会いの多いところであったから、前路を左方に横切る態勢で漁場から帰航中の豊漁丸を見落とすことのないよう、右舷前方に対する見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、たまたまレーダーで左舷正横方に探知した貨物船と見られる明瞭な映像に気を取られ、更に折から波浪等の海面反射の影響などもあって小さな映像を見落とすなど右舷前方に対する見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で互いに接近中の豊漁丸に気付かず、その進路を避けないまま進行して、同船との衝突を招き、碧漁丸の右舷船首外板に亀裂を生じさせ、豊漁丸の船首防舷材を破損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、日没後間もない薄明時、隠岐海峡において、沖合漁場での操業を終えて単独で船橋当直にあたって帰航中、左舷前方に碧漁丸引船列の2隻の船影を認めた場合、衝突のおそれがあるかどうか判断できるよう、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、一見しただけで同2隻が自船の前路を替わるものと思い、その動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、その後碧漁丸引船列が何らの避航動作もとらないまま衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況に気付かず、避航を促すよう警告信号を行うことも、さらに間近に接近した際に転舵または行きあしを止めるなどの衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行して、碧漁丸引船列との衝突を招き、両船に前示のとおりの損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:40KB)





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