日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成12年広審第85号
件名

貨物船新栄丸漁船米岩丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年7月12日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(坂爪 靖、竹内伸二、中谷啓二)

理事官
上中拓治

受審人
A 職名:新栄丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(履歴限定)
B 職名:米岩丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
新栄丸・・・左舷船首部に擦過傷
米岩丸・・・船首の槍出し部、船体後部の天幕用スタンション等を破損、船長が頸椎捻挫、甲板員が右腎部打撲傷

原因
新栄丸・・・居眠り運航防止措置不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
米岩丸・・・法定灯火不表示、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、新栄丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、黄色回転灯や作業灯などを掲げて極低速力で接近する米岩丸を避けなかったことによって発生したが、曳網中の米岩丸が、法定灯火を表示しなかったばかりか、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年6月7日23時45分
 瀬戸内海 愛媛県高井神島西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 貨物船新栄丸 漁船米岩丸
総トン数 199トン 4.9トン
全長 59.48メートル  
登録長   11.15メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット  
漁船法馬力数   15

3 事実の経過
 新栄丸は、徳島県徳島小松島港を基地として京浜港から九州にかけての諸港間において、製紙などの雑貨輸送に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか2人が乗り組み、空倉のまま、船首1.3メートル船尾2.6メートルの喫水をもって、平成11年6月7日15時10分徳島小松島港を発し、山口県岩国港に向かった。
 ところで、A受審人は、定期検査のため前月31日徳島小松島港港内のドックに入渠し、同検査や工事などを終了後前示のとおり出港したもので、船橋当直を自らと機関長の2人で単独6時間交替制とし、自らは毎6時から12時までの同当直のほか、狭水道通過時や出入港時などには昇橋して操船に当たることとしていた。
 A受審人は、発航操船に引き続いて鳴門海峡を通過して広い海域に出るところまで船橋当直に当たったのち、機関長と交代して1時間ほど休息し、18時ごろ地蔵埼の手前で再び昇橋して同人から当直を引き継ぎ、法定灯火を表示して備讃瀬戸及び備後灘を西行した。
 23時22分少し過ぎA受審人は、備後灘航路第3号灯浮標(以下、灯浮標名については「備後灘航路」を省略する。)を左舷側700メートルに見る、高井神島灯台から326度(真方位、以下同じ。)1.5海里の地点に達したとき、針路を備後灘の推薦航路線に沿う236度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて11.6ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、操舵室前部中央の舵輪後方に置いたソファーに腰掛け、レーダーと目視による見張りに当たって進行した。
 定針して間もなくA受審人は、左右前方2ないし3海里のところに操業中と思われる十数隻の小型漁船の灯火を視認し、レーダー画面を一瞥(いちべつ)してそれら漁船の映像を認めたものの、自船の進路上には他船が映っていなかったので安心して続航した。
 ところが、A受審人は、同日朝から出渠前の後片付けなどで忙しかったうえ、長時間の船橋当直で疲れ気味であったことから、23時35分ごろから眠気を催すようになったが、ソファーから立ち上がって身体を動かしたり外気に当たったりするなどの居眠り運航の防止措置をとらないで、ソファーに腰掛けたまま当直を続けるうち、やがて居眠りに陥った。
 こうして、23時40分A受審人は、高井神島灯台から260度3.7海里の地点に達したとき、右舷船首2度1.1海里のところに極低速力で接近する米岩丸の紅、紅2灯と白色作業灯を、間もなく黄色回転灯を視認でき、その灯火や速力模様から同船が何らかの作業に従事していることが認められ、その後同船とほとんど方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、居眠りをしていてこのことに気付かず、同船を避けないまま進行し、23時45分高井神島灯台から255度4.6海里の地点において、新栄丸は、原針路、原速力のまま、その左舷船首部が米岩丸の左舷船首部に前方から10度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の初期にあたり、視界は良好であった。
 また、米岩丸は、小型機船底びき網漁業に従事し、汽笛を装備していないFRP製漁船で、B受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.1メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、同日17時50分愛媛県桜井漁港を発し、19時30分同県伯方島南東方2海里ばかりの漁場に至り、操業を開始した。
 ところで、B受審人は、トロールにより漁ろうに従事している船舶が表示しなければならない法定灯火の緑、白の連掲する全周灯2個及び船尾灯を掲げないで、操舵室上部のマスト頂部に紅色全周灯1個を点灯したほか、同室前端両舷側の舷灯、同室前部の白色作業灯1個及び船尾甲板上の白色作業灯2個をそれぞれ点灯し、直径約10ミリメートル長さ約185メートルのワイヤロープに直径約25ミリメートル長さ約15メートルのワイヤ入りナイロンロープを取り付けて漁網を1時間15分ばかり曳いたのち、40分ばかりかけて漁獲物を取り込む作業を繰り返した。
 23時29分B受審人は、高井神島灯台から256度5.1海里の地点で投網し、3回目の曳網を行うこととして船首を第2号灯浮標に向く084度とし、機関を回転数毎分2,600にかけて2.0ノットの速力で、手動操舵によって進行した。
 B受審人は、曳網を始めて間もなく舵中央として舵輪を放置したまま操舵室を離れ、前部甲板で、甲板員とともにいけすに入れた漁獲物の中からえびを選別して他のいけすに移す作業を行い、その間漁場に沿うように網を曳くため時々船尾甲板に赴いて手足で左舷側曳網用ワイヤロープをはじくことによって船首をわずかに左転させながら同じ速力で続航し、23時40分高井神島灯台から255度4.8海里の地点に至り、船首が071度を向いたとき、左舷船首13度1.1海里のところに新栄丸の白、白、紅、緑4灯を初めて視認し、その動静を監視したところ、自船に向かって衝突のおそれがある態勢で接近してくることを知って操舵室に引き返し、新栄丸が自船を避航することを期待して前示紅色全周灯の下方に設けた黄色回転灯を点灯したのち、再びいけすのところに戻って船尾方を向いてかがんだ姿勢で同作業を続けた。
 その後、B受審人は、わずかずつ左転しながら新栄丸の動静を監視していたところ、23時43分同船が自船に840メートルまで接近し、依然として新栄丸の方位がほとんど変わらず、自船を避けずに衝突のおそれがある態勢で接近してくるのを認めたが、汽笛不装備で警告信号を行うことができず、その後新栄丸が間近に接近するのを認めても、黄色回転灯や作業灯などを掲げて漁ろう中の自船を新栄丸が避けてくれるものと思い、速やかに曳網用ワイヤロープを延ばして右舵をとるなどの衝突を避けるための措置をとることなく進行中、同時45分少し前新栄丸が船首方至近に迫ったので衝突の危険を感じ、慌てて操舵室に戻り右舵をとったが効なく、米岩丸は、船首が066度を向いたとき、原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、新栄丸は左舷船首部に擦過傷を生じたのみであったが、米岩丸は船首の槍出し部、船体後部の天幕用スタンション等を破損し、のち修理され、また、衝突の衝撃でB受審人が頚椎捻挫を、米岩丸甲板員Cが右臀部打撲傷をそれぞれ負った。

(原因)
 本件衝突は、夜間、瀬戸内海の愛媛県高井神島西方沖合において、西行中の新栄丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、黄色回転灯や作業灯などを掲げて極低速力で接近する米岩丸を避けなかったことによって発生したが、曳網中の米岩丸が、法定灯火を表示しなかったばかりか、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、単独の船橋当直に就き、瀬戸内海の愛媛県高井神島西方沖合を西行中、眠気を催した場合、朝から出渠前の後片付けなどで忙しかったうえ、長時間の船橋当直で疲れ気味であったから、居眠り運航とならないよう、ソファーから立ち上がって身体を動かしたり外気に当たったりするなどの居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、ソファーに腰掛けたまま当直を続け、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、黄色回転灯や作業灯などを掲げて極低速力で接近する米岩丸を避けないまま進行して同船との衝突を招き、新栄丸の左舷船首部に擦過傷を生じさせ、米岩丸の船首槍出し部、船体後部天幕用スタンション等を破損させ、B受審人に頚椎捻挫を、同船甲板員に右臀部打撲傷をそれぞれ負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、夜間、瀬戸内海の愛媛県高井神島西方沖合において、法定灯火を表示せずに前部甲板でえびの選別を行いながら曳網作業に従事中、左舷前方に新栄丸の灯火を視認し、その後同船が自船を避けずに衝突のおそれがある態勢で間近に接近するのを認めた場合、速やかに曳網用ワイヤロープを延ばして右舵をとるなどの衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、黄色回転灯や作業灯などを掲げて漁ろうに従事中の自船を新栄丸が避けてくれるものと思い、速やかに衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:41KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION