日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成12年神審第116号
件名

漁船第三透容丸プレジャーボートスクモプリンセス衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年7月30日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(阿部能正)

副理事官
蓮池 力

受審人
A 職名:第三透容丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:スクモプリンセス船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
透容丸・・・船首材を破損
ス 号・・・操舵室右舷側及び同舷後部外板破損
同乗者1人が肋骨骨折、船長が鼻骨骨折

原因
ス 号・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守、狭い水道の航法(右側通行)不遵守(主因)
透容丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は、スクモプリンセスが、狭い水道の右側端に寄って航行しなかったうえ、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、第三透容丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。

適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年3月31日19時20分
 高知県片島港

2 船舶の要目
船種船名 漁船第三透容丸 プレジャーボートスクモプリンセス
総トン数 11トン  
全長   6.01メートル
登録長 13.88メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力   66キロワット
漁船法馬力数 160  

3 事実の経過
 第三透容丸(以下「透容丸」という。)は、船体前部に操舵室を備えたまき網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾1.7メートルの喫水をもって、平成12年3月31日19時15分高知県片島港巡視船桟橋の東方にある船着場を発し、所定の灯火を掲げ、同県沖ノ島南方沖合の漁場に向かった。
 ところで、透容丸は、半速力になると船首が浮き上がり、船首楼上の錨台や係船柱により、操舵室中央部の操舵位置から正船首各舷約8度の死角を生じる状況であった。また、片島港は、池島及び片島の各南岸線と大島北岸線とに狭まれ、片島港口灯台(以下「港口灯台」という。)付近から東方に、長さ約1,000メートル可航幅約150メートルの狭い水道(以下「航路筋」という。)内に位置していた。
 A受審人は、19時16分半わずか過ぎ港口灯台から083度(真方位、以下同じ。)920メートルの地点において、針路を航路筋の右側端に寄る275度に定め、機関を半速力前進にかけ、6.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、手動操舵により進行した。
 19時19分少し前A受審人は、港口灯台から072度500メートルの地点に達したとき、左舷船首17.5度560メートルのところに、スクモプリンセス(以下「ス号」という。)の緑灯1灯を視認することができる状況であったが、船首目標とした池島漁港の南防波堤(仮称)端の灯火を見ることに気を取られ、ス号の緑灯1灯を見落とさないよう、見張りを十分に行うことなく、ス号の存在に気付かず、航路筋の左側に向かっている同船に対し、警告信号を行うことなく西行した。
 A受審人は、ス号との接近状況に気付かないまま、19時19分少し過ぎ港口灯台から067度420メートルの地点で、針路を航路筋の右側端に沿う265度に転じて続航し、同時19分半少し前ス号が、右転して死角に入り、左舷船首5度330メートルのところに衝突のおそれがある態勢で迫っていることに気付かず、右転するなどして衝突を避けるための措置をとることなく進行中、19時20分港口灯台から057度270メートルの地点において、透容丸は、原針路原速力のまま、その右舷船首部が、ス号の右舷後部に前方から45度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の北北東風が吹き、視界は良好であった。
 また、ス号は、船体中央部に操舵室を備えた船外機装備のFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、同乗者2人を乗せ、魚釣りを行う目的で、船首0.4メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、同日15時45分片島港験潮所西方の船着場を発し、同港南西方沖合の沖ノ島付近の釣り場に向かい、16時10分目的地に到着し、錨泊して魚釣りを行ったのち、19時00分同所を発進し、帰途についた。
 B受審人は、マスト灯に代えて操舵室中央部の操舵位置前面風防ガラス上に設けた白色の全周灯を点じたほか、両舷灯を表示し、19時17分少し過ぎ港口灯台から242度1,050メートルの地点において、航路筋の西口に向け針路を059度に定め、機関を全速力前進にかけ、20.0ノットの速力で、手動操舵により進行してまもなく、全周灯をまぶしく感じたので消灯し、点灯中の両舷灯を残して続航した。
 B受審人は、19時19分少し前港口灯台から291度80メートルの地点で、速力を半速力前進の9.0ノットに減じ、このころ右舷船首18.5度560メートルのところに、透容丸の白、紅2灯を視認することができる状況であったが、この時間帯に出航する船舶はいないものと思い、同2灯を見落とさないよう、見張りを十分に行うことなく、速やかに進路を右にとり、航路筋の右側端に寄って航行しなかった。
 19時19分半少し前B受審人は、港口灯台から022度110メートルの地点に達し、針路を航路筋の左側寄りに向け076度に転じたとき、依然見張り不十分で、右舷船首4度330メートルのところに、透容丸が衝突のおそれがある態勢で迫っていることに気付かず、右転するなどして衝突を避けるための措置をとることなく東行中、同時20分少し前前方至近に透容丸の船影を初めて視認し、左舵一杯を取ったが及ばず、ス号は船首を040度に向けた状態で、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、透容丸は船首材に破損を生じ、ス号は操舵室右舷側及び同舷後部外板にそれぞれ破損を生じたが、のち両船とも修理された。また、ス号の同乗者1人が肋骨骨折を、B受審人が鼻骨骨折などを負った。

(原因)
 本件衝突は、夜間、高知県片島港において、ス号が、航路筋の右側端に寄って航行しなかったうえ、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、透容丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、夜間、高知県片島港の航路筋を東行する場合、透容丸の白、紅2灯を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、この時間帯に出航する船舶はいないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、透容丸の存在と接近とに気付かず、衝突を避けるための措置をとらずに進行して同船との衝突を招き、透容丸の船首材に破損を生じさせ、また、自船の操舵室右舷側及び同舷後部外板にそれぞれ破損を生じさせたほか、同乗者1人に肋骨骨折を負わせ、自らも鼻骨骨折などを負うに至った。
 A受審人は、夜間、高知県片島港の航路筋を西行する場合、ス号の緑1灯を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、船首目標の灯火に気を取られ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、ス号の存在と接近とに気付かず、衝突を避けるための措置をとらずに進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、ス号の同乗者1人及びB受審人を負傷させるに至った。


参考図
(拡大画面:64KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION