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平成12年神審第49号
件名

漁船第2勝丸漁船ゆき丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年7月9日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(大本直宏、西田克史、西山烝一)

理事官
野村昌志

受審人
A 職名:第2勝丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士(5トン限定)
B 職名:ゆき丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
勝丸・・・船首部に擦過傷
ゆき丸・・・船尾部に破口し浸水、のち廃船

原因
勝丸・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(主因)
ゆき丸・・・見張り不十分、注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第2勝丸の定針とゆき丸の減速とが近距離で同時に行われ、衝突のおそれが生じた際、第2勝丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、ゆき丸が、見張り不十分で、後方から接近する第2勝丸に対し、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年12月8日06時40分
 和歌山県串本港東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第2勝丸 漁船ゆき丸
総トン数 4.8トン 3.17トン
全長 14.35メートル  
登録長   11.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 382キロワット  
漁船法馬力数   35

3 事実の経過
 第2勝丸(以下「勝丸」という。)は、船尾寄りに操舵室を有し、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、空倉のまま、船首0.15メートル船尾1.30メートルの喫水をもって、操業の目的で、平成11年12月7日17時00分和歌山県古座西向港を発し、大島東岸沖の漁場に至って操業を行い、ぶり460キログラムを獲て、翌8日05時30分漁場を発し、同県串本港に向かった。
 ところで、大島南端付近の早間島と通夜島との間には、長さ400メートル幅4メートルの狭水路があり、その南口を今戸口と称して、地元の小型船は、専ら満潮時期の通航に利用していた。
 A受審人は、06時33分周囲が明るくなり、所定の灯火を消灯して今戸口から狭水路に入り、機関を前進と中立とに適宜かけ、約3ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、手動操舵により進行した後、狭水路を抜けて機関を全速力前進にかけ、8.0ノットの速力で北上した。
 06時38分半A受審人は、白野漁港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から240度(真方位、以下同じ。)115メートルの地点において、針路を292度に定め、くしもと大橋中央部の西方寄りに向首したとき、右舷船首3度270メートルに、ゆき丸を認め得る状況であったが、前方近くに航行の支障となる船舶はいないものと思い、遠方の向針目標等に気を取られ、前方の見張りを十分に行うことなく、そのころゆき丸が減速を開始したことにも、その後同船に衝突するおそれがある態勢で接近していることにも気付かなかった。
 こうして、A受審人は、転舵するなどして、衝突を避けるための措置をとらずに進行中、06時40分北防波堤灯台から280度450メートルの地点において、勝丸の船首部が、原針路原速力のまま、ゆき丸の船尾部に後方から10度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、視界は良好で潮候は下げ潮の初期にあたり、日出時刻は06時49分であった。
 また、ゆき丸は、昭和41年12月20日進水の底はえ縄漁業に従事する木製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、平成11年12月8日05時30分串本港を発し、衝突地点付近の海域に至り、同時50分はえ縄1組両端部の各標識として、青色旗付ボンデン(以下「漁具標識」という。)を用い投縄を開始した。
 B受審人は、06時35分2組の投縄を終え、北防波堤灯台から279度320メートルの地点で漂泊待機した後、所定の灯火を表示して、同時38分同地点を発し、揚縄予定の漁具標識に向首して、針路を282度に定め、徐々に増速しながら手動操舵により進行した。
 06時38分半B受審人は、北防波堤灯台から280度350メートルの地点において、4.0ノットの速力から減速を開始したとき、左舷船尾13度270メートルに、勝丸を認め得る状況であったが、後方から来る船舶はいないものと思い、前方の漁具標識に気を取られ、後方の見張りを十分に行うことなく、そのころ勝丸が左回頭を終えて定針したことにも、その後衝突のおそれがある態勢で接近していることにも気付かなかった。
 こうして、B受審人は、後方の勝丸に対し、避航を促すための有効な音響による注意喚起信号を行わず、その後転舵するなど、衝突を避けるための措置をとらずに漁具標識へ近づいたとき、ゆき丸が原針路のまま、1.0ノットの前進行き脚で前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、勝丸は船首部に擦過傷を生じ、ゆき丸は船尾部に破口を生じて浸水し、のち廃船となった。

(原因)
 本件衝突は、日出間近の薄明時、和歌山県串本港東方沖合において、勝丸の定針とゆき丸の減速とが近距離で同時に行われ、衝突のおそれが生じた際、勝丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、ゆき丸が、見張り不十分で、後方から接近する勝丸に対し、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、日出間近の薄明時、和歌山県串本港東方沖合において、くしもと大橋中央部の西方寄りに向け針路を定める場合、ゆき丸を見落とさないよう、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前方近くに航行の支障となる船舶はいないものと思い、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、その後ゆき丸に衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、転舵するなどして、衝突を避けるための措置をとらずに進行して衝突を招き、自船の船首部に擦過傷を生じさせ、ゆき丸の船尾部に破口を生じさせて浸水を招き、同船を廃船させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、日出間近の薄明時、和歌山県串本港東方沖合において、漁具標識に向け減速して近づく場合、勝丸を見落とさないよう、後方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、後方から来る船舶はいないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、その後勝丸が衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、転舵するなどして、衝突を避けるための措置をとらずに漁具標識へ向かい、わずかな前進行き脚となって衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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