日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成13年横審第26号
件名

漁船清彰丸貨物船オリエント ベンチャー衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年7月5日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(長谷川峯清、葉山忠雄、小須田 敏)

理事官
古川 隆一

指定海難関係人
A 職名:オリエントベンチャー船長

損害
清彰丸・・・転覆、全損、船長が頭頂部等打撲擦過による窒息死
オ号・・・球状船首に擦過傷

原因
オ号・・・見張り不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
清彰丸・・・警告信号不履行(一因)

主文

 本件衝突は、オリエント ベンチャーが、見張り不十分で、漁ろうに従事している清彰丸の進路を避けなかったことによって発生したが、清彰丸が、警告信号を行わなかったこともその一因をなすものである。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年2月19日13時30分
 遠州灘

2 船舶の要目
船種船名 漁船清彰丸 貨物船オリエント ベンチャー
総トン数 14トン 4,268トン(国際総トン数)
全長 21.70メートル 99.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 160  
出力   2,500キロワット

3 事実の経過
 清彰丸は、小型底びき網漁業に従事する船体中央に操舵室のある軽合金製漁船で、船長Bほか3人が乗り組み、あんこう漁の目的で、船首0.5メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成12年2月18日03時00分愛知県形原漁港を発し、遠州灘の漁場に向かい、06時30分同漁場に到着して操業を開始した。
 ところで、B船長は、清彰丸が建造された平成5年から同船の船長職に就き、周年にわたって遠州灘で底びき網漁を行い、出港から帰港まで2日間ないし3日間の航海中に1回約3時間の操業を繰り返し、昼間には水深300メートル以上の深海域で自ら船橋当直に就き、夜間には水深100メートル付近の浅海域に移動し、投揚網時以外の曳網中(えいもうちゅう)の同当直を他の乗組員に交代で当たらせて休息をとっていた。また、B船長以外の乗組員は、夜間の同当直のほか、毎回投揚網及び揚網後の漁獲物処理各作業に当たり、同作業が終われば船尾甲板下に設けられた居室で休息していた。
 清彰丸の操業は、漁具として直径30ミリメートルで1丸200メートルのコンビネーションロープ5丸に、沈降力をつけるために細い繊維ロープを巻き付けて同じ直径としたワイヤロープ約60メートル6本を、ところどころに配置して接続したひき綱に、長さ1.8メートル高さ0.8メートルの網口開口板、長さ約75メートルの手綱及び袋網を含む長さ約75メートルの底びき網を順に連結したものを使用し、深海域では、投網に約10分間、曳網に約2時間ないし2時間30分、揚網及び漁獲物処理にそれぞれ約30分間を要していた。また、B船長は、曳網時の機関回転数を、全速力前進の毎分1,650のところ毎分1,200とし、魚群探知器(以下「魚探」という。)により水深を確認しながら、適宜舵輪を操作して等深線に沿うように曳網を行っていた。
 こうして、B船長は、トロールによる漁ろうに従事している船舶が表示する形象物及び灯火を昼夜間にそれぞれ表示して操業を繰り返し、翌19日11時50分第10回目の投網を開始してひき綱を1,200メートル繰り出し、12時00分舞阪灯台から198度(真方位、以下同じ。)15.6海里の地点で、針路を230度に定め、機関を曳網時の毎分回転数にかけ、折からの海潮流により右方に5度圧流されながら、2.2ノットの対地速力で、曳網水深とした約320メートルの等深線沿いに、手動操舵により進行した。
 13時25分B船長は、舞阪灯台から204度18.2海里の地点に達したとき、左舷船尾46度1,670メートルのところに、オリエント ベンチャー(以下「オ号」という。)を視認することができる状況で、その後その方位に変化がなく、衝突のおそれがある態勢で接近したが、オ号に対して警告信号を行わないまま続航中、13時30分舞阪灯台から204.5度18.4海里の地点において、清彰丸は、原針路、原速力のまま、その左舷船尾に、オ号の船首が後方から40度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の北北西風が吹き、潮候は上げ潮の初期にあたり、衝突地点付近には流向約250度、流速約0.6ノットの海潮流があった。
 また、オ号は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、パナマ共和国の海技免状を受有するA指定海難関係人及びインドネシア共和国国籍で同免状を受有する二等航海士Cほか日本人1人、フィリピン人6人及びインドネシア人7人が乗り組み、木材1,685立方メートルを積載し、船首3.40メートル船尾5.45メートルの喫水をもって、同月16日17時24分秋田船川港を発し、津軽海峡を経由して和歌山県新宮港に向かった。
 これより先、A指定海難関係人及びC二等航海士は、同月6日岩手県宮古港で他の乗組員2人とともにオ号に初めて乗船し、同8日同港を出港して翌々10日秋田船川港に入港し、積荷の陸揚げを行ったのち発航に至ったものであった。同指定海難関係人は、乗船直後に、オ号の船首マスト並びに船体中央部及び船橋前面の各両舷にあるデリックポストが、それぞれ2度ないし3度の範囲で前方の見張りの妨げとなる死角を生じていることに気づき、船橋当直者に対し、見張りを厳重に行うこと、他船や漁船が多数いたり危険を感じたりした場合には昼夜を問わず船長に報告することなど、船橋当直中の注意事項について英文で記載した文書を船橋右舷側の壁に掲示したほか、船橋のウイングに出るなどして同死角を補う見張りを十分に行うよう、宮古港出航後繰り返し口頭で指示していた。
 A指定海難関係人は、船橋当直体制を、00時から04時及び12時から16時をC二等航海士、04時から08時及び16時から20時を一等航海士、並びに08時から12時及び20時から24時を三等航海士にそれぞれ受け持たせ、各直に甲板員1人を配する2人1組の4時間3直制としていた。
 こうして、同月19日12時00分C二等航海士は、舞阪灯台から146度19.8海里の地点で、相直の甲板員とともに昇橋して船橋当直を引き継ぎ、針路を270度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの海潮流により左方に1度圧流されながら、12.5ノットの対地速力で、自動操舵により進行した。
 C二等航海士は、12時30分相直の甲板員が甲板錆(さび)打ち作業に降橋したため、単独の船橋当直に就き、自らの経験から当直中の海域で漁船が操業していることを知っていたので、13時00分の船位を海図に記入したのち、同時15分に周囲を一瞥(いちべつ)したところ、航行中の他船を認めなかったので安心し、操舵室の右舷側に置いたいすに腰掛け、船体中央部両舷のデリックポストにより左舷船首14度ないし17度及び右舷船首6度ないし9度並びに船首マストにより左舷船首2度ないし3度の各範囲に前方の見張りの妨げとなる死角が生じた状態で続航した。
 13時25分C二等航海士は、舞阪灯台から201度17.9海里の地点に達したとき、死角となった右舷船首6度1,670メートルのところに、形象物を表示してトロールによる漁ろうに従事している清彰丸がおり、その後同船の方位が変わらず、衝突のおそれがある態勢で接近したが、いすに腰掛ける前に周囲を一瞥して航行中の他船を認めなかったので、接近する他船も操業中の漁船もいないものと思い、いすから立ち上がって船橋のウイングに出るなどして死角を補う見張りを十分に行うことなく、清彰丸に気づかず、同船の進路を避けないまま、同じ針路、速力で進行中、前示のとおり衝突した。
 C二等航海士は、衝突に気づかないまま続航するうち、右舷中央部デリックポストの死角から船尾方に出現した清彰丸の赤褐色の船底を右舷側至近に初めて認め、慌てていすから飛び降りてA指定海難関係人に報告しようとしたとき、同指定海難関係人がすでに同船底を認めて昇橋して来たので、転覆していた船を発見した旨報告したが、その後海上保安庁による塗料の鑑定結果から、オ号の球状船首に付着した塗料と清彰丸の塗料とが一致したことが明らかとなり、両船が衝突したことを認めるに至った。
 一方、A指定海難関係人は、自室で事務を執っているとき、衝突に気づいた甲板錆打ち作業中の甲板員から報告を受け、転覆した清彰丸の船底を右舷船尾後方約50メートルの航跡上に認めたのち直ちに昇橋したところ、C二等航海士から自船は衝突していない旨の説明を受け、清彰丸の周囲に人影などを認めなかったことから、海上保安庁にVHFにより転覆船発見の通報を行い、引き続き新宮港に向けて続航中、鳥羽海上保安部から停船命令を受け、三重県鳥羽港に回航して事後の措置に当たった。
 衝突の結果、オ号は、球状船首に擦過傷を負っただけであったが、清彰丸は、左舷舷側を押し付けられて右舷側に転覆し、のちサルベージ船による曳航作業中に沈没して全損となった。また、操舵室内に閉じ込められたB船長(昭和22年11月17日生、一級小型船舶操縦士免状受有)は頭頂部等打撲擦過を伴う溺水吸引による窒息死し、居室内に閉じ込められた他の乗組員全員は自力で脱出して船底にしがみついていたところを、海上保安庁のヘリコプターにより救助された。

(原因)
 本件衝突は、遠州灘において、オ号が、見張り不十分で、漁ろうに従事している清彰丸の進路を避けなかったことによって発生したが、清彰丸が、警告信号を行わなかったこともその一因をなすものである。

(指定海難関係人の所為)
 A指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。

参考図
(拡大画面:42KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION