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平成13年函審第7号
件名

漁船第三開運丸漁船第二十八豊福丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年7月18日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(織戸孝治、安藤周二、工藤民雄)

理事官
大石義朗

受審人
A 職名:第三開運丸漁労長兼一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:第二十八豊福丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
指定海難関係人
C 職名:第二十八豊福丸漁労長

損害
開運丸・・・船首部の塗装剥離
豊福丸・・・左舷船首部を圧壊

原因
豊福丸・・・居眠り運航防止措置不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
開運丸・・・見張り不十分、警告信号不履行(一因)

主文

 本件衝突は、第二十八豊福丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路で漂泊中の第三開運丸を避けなかったことによって発生したが、第三開運丸が、見張り不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aに対しては懲戒を免除する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年1月17日05時45分
 北海道石狩湾

2 船舶の要目
船種船名 漁船第三開運丸 漁船第二十八豊福丸
総トン数 160トン 9.7トン
全長 38.36メートル 19.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,029キロワット 354キロワット

3 事実の経過
 第三開運丸(以下「開運丸」という。)は、かけ回し式沖合底びき網漁業に従事する鋼製漁船で、船長DとA受審人のほか16人が乗り組み、操業の目的で、船首1.4メートル船尾4.5メートルの喫水をもって、平成12年1月17日01時00分北海道小樽港を発し、航行中の動力船の灯火を表示して、同港北北西方20海里ばかりの漁場に向かった。
 ところで、A受審人は、同11年8月30日から開運丸に漁労長兼一等航海士として乗り組んでいたもので、過去に底びき網漁船の船長職及び漁労長職をそれぞれ約15年及び約20年執って運航経験などが豊富であった。
 02時15分A受審人は、小樽港の北北西方約14海里の地点に達したとき、D船長から船橋当直を引き継いで通信長とともに付近海域の魚群探索を行ったのち、03時30分日和山灯台から350度(真方位、以下同じ。)18.9海里の地点で、夜明けまで待機するつもりで、225度を向首して機関を停止し、折からの北西風の影響により135度方向に1.1ノットの対地速力で圧流されながら漂泊した。
 漂泊後、A受審人は、単独で船橋当直に当たっていたところ、05時30分日和山灯台から355度17.0海里の地点で、左舷船首25度2.6海里のところに第二十八豊福丸(以下「豊福丸」という。)の表示するマスト灯及び紅色舷灯を視認し得る状況で、その後同船が衝突のおそれのある態勢で接近していたが、自船は航行中の動力船の灯火と多数の作業灯を点灯して漂泊しているので、接近する他船が避航するものと思い、操舵室中央に設置されたトロールウインチ操作用の回転椅子に腰を掛けて右舷斜め後方を向き、周囲の見張りを十分に行うことなく、豊福丸に気付かず、警告信号を行わないまま、漂泊を続けた。
 その後、開運丸は、05時45分日和山灯台から355度16.8海里の地点で、225度を向首して漂泊したまま、その船首部に豊福丸の左舷船首部が前方から20度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力3の北西風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
 D船長は、船員室で休息中、A受審人の船内放送により衝突したことを知り、事後の措置に当たった。
 また、豊福丸は、たら固定式刺し網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人とC指定海難関係人のほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.55メートル船尾1.90メートルの喫水をもって、同日03時40分ごろ北海道余市港を発し、航行中の動力船の灯火を表示して、同港北北東方25海里ばかりの漁場に向かった。
 ところで、B受審人は、実兄の経験豊富なC指定海難関係人が豊福丸の運航及び操業を指揮してほとんど1人で船橋当直を行っているので、平素、同人に対して眠気を催した際には起こすよう指示し、自ら時々、航海当直に当たるほか他の甲板員と同様に甲板作業を行っていた。
 発航後、C指定海難関係人は、単独で船橋当直に当たり、港外に出たところで、機関を全速力前進にかけ10.0ノットの対地速力で進行し、04時10分日和山灯台から286度8.5海里の地点に至り、針路を自動操舵により025度に定めたとき、B受審人と当直を交代し、操舵室内のベッドに入り仮眠をとった。
 05時10分日和山灯台から341度12.1海里の地点で、C指定海難関係人は、再びB受審人と交代して単独の船橋当直に就き、同じ針路、速力で続航し、同時20分同灯台から346度13.4海里の地点に至り、操舵室内右舷側の後壁に背中をもたせ掛けたまま、立って腕組みをして当直に当たっていたとき、付近に航行の支障となる他船が見当たらず、海上平穏の状況の下、閉め切って暖房が効いた操舵室内でそのままの姿勢で当直を続けると、居眠りするおそれがあったが、操舵室の窓を開放して冷気にあたるとか体を動かすなどして居眠り運航の防止措置をとることなく、当直を継続するうち、いつしか居眠りに陥った。
 05時30分C指定海難関係人は、日和山灯台から350度14.7海里の地点に達したとき、左舷船首5度2.6海里のところに漂泊中の開運丸のマスト灯、紅色舷灯及び多数の作業灯を視認し得る状況で、その後衝突のおそれのある態勢で接近していたが、居眠りしていてこのことに気付かず、同船を避けることなく続航中、05時45分少し前はっと目覚めて船首方を見たとき、同船の灯火を視認し、慌てて機関を後進にかけるも及ばず、豊福丸は、ほぼ原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
 B受審人は、操舵室内のベッドで睡眠中、衝突の衝撃で目覚めて事態を知り、事後の措置に当たった。
 衝突の結果、開運丸は、船首部の塗装剥離を生じ、豊福丸は、左舷船首部を圧壊したが、のち修理された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、漁場に向け航走中の豊福丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路で漂泊中の開運丸を避けなかったことによって発生したが、開運丸が、見張り不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、夜間、石狩湾において、漂泊待機する場合、左舷船首方から衝突のおそれのある態勢で接近する豊福丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船は航行中の動力船の灯火と多数の作業灯を点灯して漂泊しているので、接近する他船が避航するものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、豊福丸に気付かず、警告信号を行わないまま漂泊を続け、同船との衝突を招き、自船の船首部に塗装剥離を生じ、豊福丸の左舷船首部を圧壊させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告すべきところ、同人が多年にわたり船員として職務に精励し海運の発展に寄与した功績によって平成12年7月20日運輸大臣から表彰された閲歴に徴し、同法第6条を適用してその懲戒を特に免除する。
 C指定海難関係人が、夜間、単独の船橋当直に当たる際、居眠り運航の防止措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
 C指定海難関係人に対しては、勧告しない。
 B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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