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平成12年第二審第18号
件名

油送船大港丸遊漁船第十八大吉丸衝突事件〔原審仙台〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年8月3日

審判庁区分
高等海難審判庁(山崎重勝、宮田義憲、根岸秀幸、吉澤和彦、川本 豊)

理事官
亀山東彦

受審人
A 職名:大港丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:大港丸一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)
C 職名:第十八大吉丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
大港丸・・・船首部に擦過傷
大吉丸・・・船体中央部で切断、船体後半部沈没、釣客1人が行方不明、のち遺体で発見、釣客8人が骨折(入院加療)

原因
大港丸・・・狭視界時の航法(信号・速力・レーダー)不遵守
大吉丸・・・狭視界時の航法(信号・速力・レーダー)不遵守

二審請求者
理事官大本直宏、受審人C

主文

 本件衝突は、大港丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、第十八大吉丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
 受審人Bの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Cの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年8月7日06時06分
 宮城県塩釜港南東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 油送船大港丸 遊漁船第十八大吉丸
総トン数 999トン 9.7トン
全長 84.00メートル 19.54メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 2,059キロワット 463キロワット

3 事実の経過
 大港丸は、ガソリン等の輸送に従事する船尾船橋型の鋼製油送船で、A、B両受審人ほか8人が乗り組み、精製油2,618キロリットルを積載し、船首4.10メートル船尾5.35メートルの喫水をもって、平成11年8月6日23時05分福島県小名浜港を発し、宮城県塩釜港塩釜区に向かった。
 ところで、A受審人は、船橋当直を、00時から04時までと12時から16時までを甲板長と甲板員1人、04時から08時までと16時から20時までを一等航海士と甲板員1人及び08時から12時までと20時から24時までを自らと二等航海士でそれぞれ行う3直制とし、平素から機会ある毎に各船橋当直者に対して、視界制限状態となったときには速やかに報告するよう指導していた。
 A受審人は、出港操船に引き続いて船橋当直を行い、24時00分塩屋埼灯台の東南東約5海里沖合で、甲板長に当直を引き継ぐ際、視程が約3海里であったので、視界制限状態となったときには速やかに報告するよう指示したものの、そのことを次直者にも申し送ることを指示することなく、自室に退き就寝した。
 翌7日04時00分B受審人は、相馬港南防波堤灯台の東南東約8海里沖合で当直を交替するため昇橋したところ、霧により視界が制限された状態となっており、前直者から針路、速力及び02時ごろから視界が悪くなった旨の引き継ぎを受けたものの、視界について船長への報告の有無を確かめずに当直に就き、その後自らもA受審人に報告することなく、霧中信号を行わないまま、あらかじめ指示されていた船長昇橋予定地点に向けて航行を続けた。
 05時27分少し過ぎB受審人は、塩釜港仙台南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から161度(真方位、以下同じ。)11.1海里の地点に至ったとき、針路を011度に定め、機関を全速力前進にかけ、12.4ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし、依然として霧中信号を行わず、また、安全な速力に減じることもせず、所定の灯火を表示して自動操舵により進行した。
 B受審人は、甲板員を、船橋中央の操縦スタンド左舷側に設置された1号レーダーと自動衝突予防援助装置(以下「アルパ」という。)付きの2号レーダーによる見張りに当たらせ、自らも各レーダーのレンジを時々切り替えて監視していたところ、05時58分少し前南防波堤灯台から133度6.5海里の地点に至り、視程が100メートルとなっていたとき、3海里レンジとした2号レーダーで、左舷船首18度3海里のところに第十八大吉丸(以下「大吉丸」という。)の映像を初めて探知した。
 B受審人は、大吉丸の映像を見ながら操船に当たり、06時00分少し過ぎ同船が左舷船首17度2海里に接近したとき、アルパによって同映像に表示された相対ベクトルの方向が自船の少し前路に向いているのを目測して知ったものの、最接近距離の表示を確かめるとか、同映像のプロッティングを行うなどしてレーダーによる動静監視を十分に行わなかったので、同船と著しく接近することを避けることができない状況であったことに気付かず、自船の前路を300メートルないし400メートル隔てて無難に替わるものと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを停止することなく続航した。
 06時06分少し前B受審人は、船長昇橋予定地点に近付いたことをブザーでA受審人に知らせて間もなく、船首方に船影が見えるとの甲板員の叫び声で前方を見たところ、ほぼ正船首至近に大吉丸の船体を初めて視認し、同船が自船の前路を右方に航過するものと思っていたので、直ちに操舵を手動に切り替えて左舵10度をとり、続いて機関を微速力前進に減じたが及ばず、06時06分南防波堤灯台から119度5.9海里の地点において、大港丸は、舵効が現れないうち、原針路、原速力のまま、その船首が大吉丸の右舷船首部に前方から37度の角度で衝突した。
 当時、天候は霧で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の初期にあたり、視程は100メートルであった。
 A受審人は、昇橋予定地点に接近した旨の連絡を受けて昇橋したとき、大吉丸と衝突したことを知り、事後の措置に当たった。
 また、大吉丸は、FRP製遊漁船で、C受審人ほか甲板員1人が乗り組み、最大搭載人員を2人超えた14人の釣客を乗せ、遊漁の目的で、船首0.60メートル船尾1.80メートルの喫水をもって、同月7日05時33分宮城県花淵浜漁港を発し、予定の釣り場としていた同港南東約10海里沖合の漁礁に向かった。
 C受審人は、操舵室左舷側のいすに腰掛け、甲板員を同室右舷側に、釣客1人を船首部の甲板上に、同13人を操舵室後方の甲板上にそれぞれ位置させ、発航時から既に視界が制限された状態であったので、所定の灯火を表示するとともに、平素から視界制限時には、自船の周囲に小型船舶が存在するかどうか探知し易くするため、1.5海里レンジのレーダー画面に1海里の範囲を拡大表示させて監視するようにしていたことから、同範囲を表示させ、備え付けの電気ホーンによる霧中信号を行わないまま、自動操舵として操船に当たった。
 05時44分C受審人は、花淵灯台から111度1.5海里の地点に至り、視程が100メートルとなっていたとき、針路をGPSプロッターに表示した漁礁の北西端を示す地点に向首する154度に定め、機関を半速力前進にかけて15.0ノットの速力で進行したところ、波しぶきが甲板に打ち込んで釣客にかかるようになったので、同時48分速力を少し減じて12.0ノットとしたものの、依然として霧中信号を行わず、また、安全な速力に減じることもせずに続航した。
 06時00分少し過ぎC受審人は、大港丸が右舷船首20度2海里のところに存在し、同船と著しく接近することを避けることができない状況であったが、レーダーを1海里の範囲に拡大表示させたまま、付近に小型船舶がいないかどうか探知することに気を奪われ、適宜レーダーレンジを遠距離に切り替えるなどしてレーダーによる見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを停止することなく進行した。
 06時03分C受審人は、南防波堤灯台から116度5.5海里の地点に至ったとき、監視していたレーダー画面上、右舷船首21度1海里のところに大港丸の映像を初めて探知したが、もう少し接近するまで様子を見ることとし、そのまま続航した。
 C受審人は、06時05分少し前大港丸が0.3海里に接近したとき、ようやく衝突の危険を感じて8.0ノットに減じ、更に0.2海里となったとき機関を順次中立、微速力後進に操作し、同時06分少し前行きあしを停止して右舷方を見ていたところ、霧の中から現れた同船を初めて認め、自船に向首して急迫するので、直ちに機関を全速力後進にかけたが及ばず、大吉丸は、船首が154度に向いたまま後進を始めたとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、大港丸は船首部に擦過傷を生じ、大吉丸は船体中央部で切断され、船体後半部が沈没した。
 海中に投げ出された大吉丸の乗組員及び釣客のうち15人は、大港丸と付近を航行中の他の遊漁船に救助されたが、釣客D(昭和27年11月7日生)が行方不明となり、のち遺体で発見され、釣客8人が骨折などの入院加療を要する傷を負った。

(原因)
 本件衝突は、霧のため視界が制限された塩釜港南東方沖合において、北上する大港丸が、霧中信号を行うことも、安全な速力に減じることもしなかったばかりか、レーダーによる動静監視が不十分で、前路に探知した大吉丸と著しく接近することを避けることができない状況となったとき、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを停止しなかったことと、南下する大吉丸が、霧中信号を行うことも、安全な速力に減じることもしなかったばかりか、レーダーによる見張りが不十分で、大港丸と著しく接近することを避けることができない状況となったとき、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを停止しなかったこととによって発生したものである。
 大港丸の運航が適切でなかったのは、船長が、降橋する際、引き継いだ船橋当直者に対し、視界制限状態となったときには速やかに報告するよう次直者にも申し送ることを指示しなかったことと、次直の船橋当直者が、同報告を行わなかったこと及びレーダーで前路に探知した大吉丸の動静監視を十分に行わなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、霧のため視程が100メートルに制限された塩釜港南東方沖合を北上中、レーダーにより左舷前方に大吉丸の映像を探知した場合、著しく接近することを避けることができない状況にあるかどうかを判断できるよう、レーダーによる動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、アルパにより同映像に表示された相対ベクトルの方向を目測しただけで自船の前路を無難に替わるものと思い、最接近距離の表示を確かめるとか、同映像のプロッティングを行うなどしてレーダーによる動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、大吉丸と著しく接近することを避けることができない状況であることに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを停止しないまま進行して同船との衝突を招き、大港丸の船首部に擦過傷を生じさせ、大吉丸の船体中央部を切断して後半部を沈没させ、釣客1人を死亡及び同8人を負傷させるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同受審人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 C受審人は、霧のため視程が100メートルに制限された塩釜港南東方沖合を南下する場合、接近する他船を早期に探知できるよう、適宜レーダーレンジを遠距離に切り替えるなどしてレーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、1.5海里レンジのレーダー画面に1海里の範囲を拡大表示させたまま、付近に小型船舶がいないかどうか探知することに気を奪われ、適宜レーダーレンジを遠距離に切り替えるなどしてレーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、大港丸を早期に探知できず、行きあしを停止する措置が遅れて同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、釣客を死亡及び負傷させるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同受審人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 A受審人が、小名浜港の出航操船後、船橋当直を終えて降橋する際、引き継いだ船橋当直者に対し、視界制限状態となったときには速やかに報告するよう次直者にも申し送ることを指示しなかったことは、本件発生の原因となる。しかしながら、以上のA受審人の所為は、平素から機会ある毎に船橋当直者に対して、視界制限状態になったら速やかに報告するよう指導していたことに徴し、職務上の過失とするまでもない。

 よって主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文平成12年8月2日仙審言渡
 本件衝突は、大港丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、第十八大吉丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
 受審人Bの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Cの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。


参考図
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