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平成13年横審第13号
件名

貨物船第十二由良丸定置網損傷事件

事件区分
施設等損傷事件
言渡年月日
平成13年6月20日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(長谷川峯清、吉川 進、花原敏朗)

理事官
古川隆一

受審人
A 職名:第十二由良丸船長 海技免状:五級海技士(航海)

損害
白子網の垣網及び錨網などを損傷
由良丸・・・損傷なし

原因
水路調査不十分

主文

 本件定置網損傷は、水路調査が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年12月25日17時20分
 千葉県千倉漁港北東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第十二由良丸
総トン数 499トン
全長 74.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 956キロワット

3 事実の経過
 第十二由良丸(以下「由良丸」という。)は、可変ピッチプロペラを装備した船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、鋼材1,541トンを積み、船首3.45メートル船尾4.85メートルの喫水をもって、平成11年12月25日05時20分鹿島港を発し、大阪港に向かった。
 A受審人は、発航操船に引き続き08時00分まで船橋当直に就き、その後の同当直を4時間単独の3直制とし、16時から20時及び04時から08時を自らが、08時から12時及び20時から24時を次席一等航海士が、並びに12時から16時及び00時から04時を一等航海士がそれぞれ当たることとして房総半島東岸沖合を南下した。
 ところで、房総半島東岸南部の吉浦ノ鼻から南方に忽戸ノ鼻(こっとのばな)までの約8海里の間は、陸岸から沖合に向かって平坦な砂浜の開湾になっており、忽戸ノ鼻の北方に千倉漁港があってその港口周辺には浅礁が拡延していた。同漁港北東方沖合の距岸0.4海里ないし2海里には、千葉県知事から定置漁業免許を受けた房州ちくら漁業協同組合が、周年にわたって2カ統のぶり定置網を設置しており、同定置網の存在については、海上保安庁が刊行する本州南・東岸水路誌及び漁具定置箇所一覧図に記載されていた。また、同漁業協同組合は、同定置網の設置状況を勝浦海上保安署に報告するとともに、日本内航海運組合総連合会に対し、設置位置図、標識の設置要領及び張り立て図面を添付した文書により、同定置網周辺に避泊する際には十分注意するよう通知していた。
 2カ統の定置網のうち、北側にある白子網と称する定第8号定置網(以下「白子網」という。)漁場は、千倉港東防波堤灯台(以下「千倉灯台」という。)から035度(真方位、以下同じ。)2.3海里の地点(以下「基点」という。)から021度870メートル、085度1,800メートル、112.5度1,530メートル及び基点の各地点を順に結んだ線で囲まれた水域内にあった。白子網の設置漁具は、垣網が基点から045度700メートル、053度620メートル、070度650メートル及び095.5度1,420メートルの各地点を順に結んだ長さ約1,200メートルのJ字状を呈し、箱網が同垣網の沖側に長さ約400メートル幅約130メートルで陸岸にほぼ平行に接続されていた。また、白子網漁場には、黄色灯具を取りつけた海面上の高さ5メートルの赤旗付きぼんでんが、垣網に沿って同網の北側それぞれ約200メートルに4個及び箱網の南側に1個、同各ぼんでん付近に黄色灯浮標4個並びに箱網中央の沖側に鉄製の標識がそれぞれ設置されていた。
 A受審人は、15時45分千倉灯台から076度9.7海里の地点で、船橋当直を交代するため昇橋したとき、風力8の南西風が吹いて波高が約4メートルになっており、同風波の状況では、このまま続航しても房総半島南岸沖合を西行することが困難と判断し、最寄りの適地に避泊することとした。そして、同人は、使用中の海図第90号に当たったところ、千倉漁港の北東方沖合が海底の底質が砂で浅礁のないことを知り、同沖合には白子網ほか1カ統の定置網が設置されていたが、これまでに他船の船長から同漁港沖合に定置網が設置されていることを聞いたことがなかったので、同沖合には定置網が設置されていないものと思い、定置網の存在とその位置について、自ら水路誌や漁具定置箇所一覧図に当たるとか、会社や最寄りの海上保安部に照会してみるなど、水路調査を十分に行うことなく、白子網の存在を知らないまま、避泊した経験のない千倉漁港北東方沖合を避泊地に決めた。
 16時00分A受審人は、千倉灯台から078度8.5海里の地点で、針路を千倉漁港港口の少し北方に向く262度に定め、機関を半速力前進にかけ、5.3ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、自動操舵により進行した。
 17時05分A受審人は、千倉灯台から071度2.8海里の地点に達したとき、手動操舵に切り替えて針路を317度に転じたところ、船首方1,500メートルに白子網漁場があり、このまま続航すると白子網の垣網に進入するおそれがあったが、同漁場の存在を知らなかったので、このことに気づかず、荒天による波浪と日没後の薄明とにより同漁場に設置された標識も漁具も見にくい状況のもと、投錨用意のため一等及び次席一等両航海士を船首配置に就けて自ら操舵操船に当たり、風を左舷に受けながら6.4ノットの速力となって進行した。
 17時20分少し前A受審人は、船首配置に就いていた一等航海士から、船首方間近に定置網の標識灯が見える旨の報告を受け、プロペラに網を絡ませないように急いで機関危急停止ボタンを押したが間に合わず、17時20分千倉灯台から038度2.6海里の地点において、由良丸は、原針路のまま2ノットの速力で、白子網の垣網に進入した。
 当時、天候は晴で風力8の南西風が吹き、潮候は上げ潮の末期に当たり、波高が約4メートルで、日没時刻が16時35分であった。
 その結果、由良丸に損傷はなかったが、白子網の垣網及び錨綱などを損傷した。

(原因)
 本件定置網損傷は、日没後の薄明時、荒天の房総半島東岸沖合を南下中、最寄りの適地に避泊することとした際、水路調査が不十分で、千倉漁港北東方沖合に設置された定置網の存在を知らないまま進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、日没後の薄明時、荒天の房総半島東岸沖合を南下中、最寄りの適地に避泊することとした場合、千倉漁港北東方沖合に設置された定置網の存在とその位置が分かるよう、海上保安庁が刊行する本州南・東岸水路誌や漁具定置箇所一覧図に当たるとか、会社や最寄りの海上保安部に照会してみるなど、水路調査を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、他船の船長から千倉漁港沖合に定置網が設置されていることを聞いたことがなかったので、同沖合には定置網が設置されていないものと思い、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、白子網の存在を知らないまま進行して同網への進入を招き、垣網及び錨綱などに損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。





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