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平成12年広審第70号
件名

押船第八神佑丸被押バージ鶴灯浮標損傷事件

事件区分
施設等損傷事件
言渡年月日
平成13年4月17日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(竹内伸二、横須賀勇一、工藤民雄)

理事官
道前洋志

受審人
A 職名:第八神佑丸船長 海技免状:五級海技士(航海)

損害
鶴・・・損傷なし
第3号灯浮標・・・頭標、レーダーリフレクター等に曲損

原因
風圧による圧流状況の把握不十分

主文

 本件灯浮標損傷は、風圧による圧流状況の把握が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年12月7日00時15分
 瀬戸内海 備讃瀬戸東部

2 船舶の要目
船種船名 押船第八神佑丸 バージ鶴
総トン数 99トン  
全長 23.97メートル 67.37メートル
  16.00メートル
深さ   3.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 735キロワット  

3 事実の経過
 第八神佑丸(以下「神佑丸」という。)は、2基2軸の鋼製押船で、A受審人ほか3人が乗り組み、船首2.1メートル船尾3.2メートルの喫水をもって、空倉で喫水が船首1.2メートル船尾1.4メートルとなった無人の非自航型鋼製バージ鶴の凹状船尾に船首部をかん合して押船列とし(以下「神佑丸押船列」という。)、平成11年12月6日21時15分香川県内海港を発し、愛媛県今治港に向かった。
 ところで、鶴は、乾舷が約2.5メートルとなっていたうえ、高さ約2メートルのブルワークのため受風面積が大きく、風圧の影響を受けやすい状態であった。
 発航後A受審人は、地蔵埼南西方沖合で備讃瀬戸東航路に入り、同航路に沿って西行するうち、北西風が次第に強くなったので下津井瀬戸及び白石瀬戸を経由して備後灘に入ることとし、23時58分爼石灯標から111度(真方位、以下同じ。)2.2海里の、柏島南方の地点に達したとき、下津井瀬戸東口への直航針路が270度であったが、風圧流を勘案して針路を276度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、右舷側に北西風を受け左方に18度ばかり圧流されながら、折からの東流に抗して3.8ノットの対地速力で進行した。
 定針したときA受審人は、宇高東航路第3号灯浮標(以下「第3号灯浮標」という。)を左舷船首18度1.4海里に認め、その後風圧差が同人の予想より大きく、実効針路がほぼ258度となり第3号灯浮標に著しく接近する状況であったが、風圧差を6度とし同灯浮標が左舷船首方向に見えていたので、そのまま同灯浮標の北側を航過できると思い、同灯浮標の方位・距離を確かめるなどして圧流状況を十分把握することなく、このことに気付かず、同じ針路のまま続航した。
 翌7日00時10分A受審人は、爼石灯標から138度1.4海里の地点で、方位が変わらないまま第3号灯浮標が600メートルに近づいていたが、依然風圧のため同灯浮標に向かって圧流されていることに気付かず、同灯浮標と衝突しないよう、さらに針路を北方に転じるなどの措置をとらないで同じ針路、速力のまま進行した。
 00時13分少し過ぎA受審人は、第3号灯浮標まで200メートルばかりとなったとき、ようやく同灯浮標に向かって圧流されていることに気付き、自動操舵のまま針路設定つまみを右に20度ばかり回したものの右転が緩慢であったので手動操舵に切り替えて右舵をとったが、風浪のため予期したように回頭しないで同灯浮標に接近することから、同灯浮標の風下側を航過しようと思い、同時14分半左舵一杯として回頭中、00時15分爼石灯標から151度1.2海里の地点において、神佑丸押船列がほぼ225度に向首したとき、鶴船首部のランプドア下面が第3号灯浮標に衝突した。
 当時、天候は雨で風力7の北西風が吹き、波高は約1.5メートルで、潮候は下げ潮の中央期にあたり、付近には約1.5ノットの東流があった。
 衝突の結果、鶴には損傷がなく、第3号灯浮標は、頭標、レーダーリフレクターなどに曲損が生じるとともに、太陽電池モジュールとマーキング装置などが破損したが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件灯浮標損傷は、夜間、北西の強風が吹く備讃瀬戸東部において、空倉で受風面積の大きいバージを押し、宇高東航路第3号灯浮標の風上側に向けて西行中、風圧による圧流状況の把握が不十分で、風下に圧流されて同灯浮標に著しく接近したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、空倉で受風面積の大きいバージを押し、北西の強風を右舷船首方向から受けて宇高東航路第3号灯浮標付近を航行する場合、同灯浮標に接近しないよう、同灯浮標の方位・距離を確かめるなどして圧流状況を十分把握すべき注意義務があった。しかし、同人は、風圧差を6度とし同灯浮標が左舷船首方向に見えていたのでそのまま同灯浮標の北側を航過できると思い、同灯浮標の方位・距離を確かめるなどして圧流状況を十分把握しなかった職務上の過失により、至近に近づくまで同灯浮標に向かって圧流されていることに気付かずに航行して同灯浮標との衝突を招き、その頭標、レーダーリフレクターなどに損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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