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平成12年那審第51号
件名

遊漁船第三正吉丸潜水者負傷事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成13年6月21日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(清重隆彦、金城隆支、平井 透)

理事官
長浜義昭

受審人
A 職名:第三正吉丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:潜水者

損害
正吉丸・・・船首に軽度の塗料剥離
B指定海難関係人が頭部に打撲傷

原因
針路選定不適切

主文

 本件潜水者負傷は、第三正吉丸が、国際信号旗のA旗を掲げて停留している遊漁船の周辺水域から十分に遠ざかる針路としなかったことによって発生したが、潜水者が、その存在を明確に示す措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年5月1日13時10分
 沖縄県慶良間列島安室島南方

2 船舶の要目
船種船名 遊漁船第三正吉丸
総トン数 1.1トン
登録長 7.35メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 49キロワット

3 事実の経過
 第三正吉丸(以下「正吉丸」という。)は、専らダイビング客の案内及び送迎に従事するFRP製遊漁船で、A受審人が1人で乗り組み、ダイビング客4人を乗せ、スキューバダイビングの目的で、船首0.3メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、平成12年5月1日13時00分沖縄県阿嘉漁港を発し、慶良間海峡の牛ノ島灯台南側のダイビングポイントに向かった。
 A受審人は、阿嘉漁港を出航後間もなくして針路を073度(真方位、以下同じ。)に定め、機関を全速力前進にかけ、18.0ノットの対地速力で手動操舵により進行し、13時06分半座間味平瀬灯標(以下「平瀬灯標」という。)から257度1.8海里の地点に達したとき、安室島南端から拡延する干出さんご礁の南方250メートルばかり沖合で、右舷船首8度1,950メートルのところに、北方に向首したひろ丸を初めて認め、その後、同船がマストに国際信号旗のA旗を掲げて停留中の遊漁船であることを知った。
 13時09分A受審人は、平瀬灯標から260度2,000メートルの地点に達したとき、国際信号旗のA旗を掲げて停留している船舶の周辺水域には潜水者が存在するおそれがあることを知っていたが、ひろ丸が日頃スキューバダイビングを行う船舶を見かけたことのない水域に停留していたうえ、同船の船上に多数の人影を認めたことから、休息しているもので、同船の周囲に潜水者はいないものと思い、同船の周辺水域から十分に遠ざかる針路とすることなく、同船の船首を右舷側に40メートル離して航過できるよう針路を092度に転じて続航した。
 正吉丸は、安室島南端から拡延する干出さんご礁とひろ丸との間の水域を、同じ針路及び速力で進行中、13時10分平瀬灯標から253度1,350メートルの地点において、その船首と浮上中のB指定海難関係人の潜水器材及び同指定海難関係人の頭部とが接触した。
 当時、天候は晴で風力4の北風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
 A受審人は、衝撃を感じて後方を振り返り、浮上したB指定海難関係人を初めて認め、直ちに引き返し、同指定海難関係人の無事を確認した。
 また、B指定海難関係人は、同人が所有する総トン数4.9トンのFRP製遊漁船ひろ丸に船長として単独で乗り組み、ダイビングガイド2人とダイビング客7人とを乗せ、自らもダイビングガイドを兼ね、スキューバダイビングの目的で、船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水で、同日09時30分沖縄県浜川漁港を発し、渡嘉敷島西方でスキューバダイビングを行ったのち、13時00分ごろ次の潜水予定地点の安室島南方に向かった。
 B指定海難関係人は、13時05分国際信号旗のA旗をマストに掲げたひろ丸を、平瀬灯標から252度1,370メートルの地点に停留させ、同船の操船を有資格のダイビングガイドに任せ、灰色の空気ボンベ、黒色の浮力調整具及びウエットスーツ等を装着し、安室島南端から拡延する干出さんご礁との間の水域で、客にダイビングを行わせる前の調査のため、単独でスキューバダイビングを始めたが、ひろ丸に国際信号旗のA旗を掲げているので大丈夫と思い、周囲から識別しやすいよう、黄色の浮きを使用するなど、潜水者の存在を明確に示す措置をとらなかった。
 B指定海難関係人は、13時10分少し前、正吉丸が接近していることに気付かないまま、事前の調査を終えて浮上中、前示のとおり接触した。
 その結果、正吉丸は船首に軽度の塗料剥離を、B指定海難関係人の潜水器材に軽度の破損をそれぞれ生じ、同指定海難関係人が頭部に打撲傷を負った。

(原因)
 本件潜水者負傷は、慶良間海峡の日頃スキューバダイビングを行う船舶を見かけたことのない水域において、航行中の正吉丸が、国際信号旗のA旗を掲げて停留している遊漁船を認めた際、同船の周辺水域から十分に遠ざかる針路としなかったことによって発生したが、潜水者が、周囲から識別しやすいよう黄色の浮きを使用するなど、その存在を明確に示す措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、慶良間海峡の日頃スキューバダイビングを行う船舶を見かけたことのない水域において、国際信号旗のA旗を掲げて停留しているひろ丸を認めた場合、同船の周辺水域でスキューバダイビングを行っているおそれがあったのであるから、同船の周辺水域から十分に遠ざかる針路をとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、ひろ丸が日頃スキューバダイビングを行う船舶を見かけたことのない水域に停留し、同船の船上に多数の人影を認めたことから、休息しているもので同船の周囲に潜水者はいないものと思い、同船の周辺水域から十分に遠ざかる針路としなかった職務上の過失により、ひろ丸の船首方40メートルのところを進行して、正吉丸の船首と浮上中のB指定海難関係人の潜水器材及び同指定海難関係人の頭部との接触を招き、正吉丸の船首に軽度の塗料剥離を、同指定海難関係人の潜水器材に軽度の破損をそれぞれ生じさせ、同指定海難関係人の頭部に打撲傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、慶良間海峡の日頃スキューバダイビングを行う船舶を見かけたことのない水域において、国際信号旗のA旗を掲げて停留しているひろ丸の周辺でスキューバダイビングを行う際、黄色の浮きを使用するなどして、自己の存在を明確に示す措置をとらなかったことは本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。





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