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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 死傷事件一覧 >  事件





平成13年長審第7号
件名

漁船第二十一博洋丸乗組員行方不明事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成13年6月20日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(河本和夫、亀井龍雄、平野浩三)

理事官
弓田

受審人
A 職名:第二十一博洋丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:R社代表取締役兼漁ろう長

損害
C機関員が海中転落、のち行方不明

原因
流し網投網作業時の不安全行動に対する是正措置不十分

主文

 本件乗組員行方不明は、流し網の投網作業時の不安全行動に対する是正措置が不十分であったばかりか、救命衣着用の徹底が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年7月20日15時25分
 三陸海岸東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十一博洋丸
総トン数 119トン
全長 36.85メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 647キロワット

3 事実の経過
 第二十一博洋丸(以下「博洋丸」という。)は、流し網漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人、B指定海難関係人ほか7人が乗り組み、船首1.40メートル船尾4.50メートルの喫水で、平成11年7月19日22時00分宮城県気仙沼港を発し、翌20日11時三陸海岸東方沖の漁場に至り、操業準備にかかった。
 博洋丸は、型幅6.10メートルで船体中央部に船橋楼を有し、同楼前端部に操舵室が位置し、同楼後端から船尾端まで約6メートルの間の上甲板が型幅一杯にわたる網置場で、両舷外側に上甲板から約1.9メートルの高さに幅約50センチメートル(以下「センチ」という。)の張出甲板が設けられて通路(以下「張出通路」という。)となっており、舷側には高さ約40センチのブルワーク、その上に高さ約50センチのハンドレールが設けられていた。
 網置場は、両舷側及び船首側が上甲板からの高さ約3.4メートルの鋼製囲壁によって囲われており、船尾にはブルワーク上縁に長さ約2.3メートルの投網用ローラが水平方向に設置され、高さ約1メートル直径約70センチの半円筒形の網さばき台が、同ローラの左舷側に船尾ブルワーク上縁を床面としてブルワークの外側にはみ出す形状で設置されていた。
 網は、1本の長さが約3,300メートル幅約12メートルで、7本の網が浮子側を左舷に、沈子側を右舷に折りたたんで、船首側から順に重ねて置かれ、投網直前浮子綱の両側に標識として取り付けられる旗竿及び重量約20キログラムのラジオブイが網置場前方の左舷側張出通路に並べて置かれていた。
 標識の取付け方法は、長さ約23メートル直径10ミリメートルの化学繊維索(以下「標識ロープ」という。)の端を浮子綱に結び、他端を船尾から船外に出して網置場囲壁をかわしたあと、網さばき台の内側を通して左舷船首方に導き、旗竿及びラジオブイに結ぶというものであった。
 投網作業は、船速を6ないし7ノットとし、網さばき台に位置した網さばき係が網の先端に取り付けられた方の標識ロープを持ち上げて自分の外側にかわし、左舷張出通路に位置した標識投下係が最初の標識を投下すると、網は自重と船速で投網用ローラから送り出され、網さばき係は投網用ローラから落下する網が団子状にならないように、網さばき台から後方に身を乗り出すようにして長さ約2メートルの竹竿で落下する網を広げるようにさばいていき、網が残り150メートル近くになると、網の上に位置した監視係が間もなく網が終わる旨を網さばき係及び標識投下係に伝え、網さばき係は網さばきを一時中断して前方を向き、網の後端につながった方の標識ロープを自分の外側にかわし、標識投下係は網の後端が送り出されると同時に2個目の標識を投下して1本目の投網が終わり、2本目の網を投網するときは同様の手順で、通常1回の操業で4ないし5本の網が使用されていた。
 したがって網さばき係は、標識が投下される前に標識ロープを自分の外側にかわさないと、標識ロープが身体に引っ掛かり、網と標識に引っ張られて船外に引き出されることになり、監視係からの連絡に注意を払うことはもちろん、万一の海中転落に備えて救命胴衣を着用することが不可欠であった。
 B指定海難関係人は、操業の総責任者で、それまでも操業中乗組員が船内備え付けの救命衣を着用していなかったが、着用を徹底させず、また、投網作業時網さばき係が監視係からの連絡があっても標識投下直前まで標識ロープをかわさない不安全行動をとることがあるのを知っており、標識ロープを身体に引っ掛ける危険性を認識していたが、慣れているので大丈夫と思い、監視係から連絡があれば直ちに標識ロープをかわすよう注意するなどの不安全行動を是正する措置をとらなかった。
 A受審人は、安全担当者兼投網作業の現場責任者であるが、今まで海中転落事故がなかったことから大丈夫と思い、救命胴衣の着用を徹底させず、また、網さばき係が平素から標識ロープをかわすのが遅れ気味で、標識ロープを身体に引っ掛ける危険性を知っていたが、仲間が注意していたので自分がするまでもないと思って注意しなかった。
 B指定海難関係人は、漁ろう長として操舵室で操船及び操業の指揮をとり、A受審人を現場責任者兼標識投下係として左舷張出通路に、機関員Cを網さばき係として網さばき台に、監視係ほか2人をそれぞれ網置場に配置して操業を開始することとした。
 博洋丸は、同日14時30分北緯39度8.0分東経143度1.2分の地点を発進すると同時に針路を真方位90度に定め、機関を約6ノットの半速力前進にかけて投網を開始した。
 15時24分ごろC機関員は、監視係から間もなく3本目の網が終わり近くになる連絡を二度ばかり受けたが、標識ロープをかわさずに網さばき作業を続行中、A受審人が標識を投下した直後、標識ロープをかわそうとして前を振り向いたが間に合わず、15時25分北緯39度8.0分東経143度25.3分の地点において、標識ロープが首に掛かるかして船外に引き出され、海中に転落した。
 当時、天候は晴で風力3の南風が吹き、海上は穏やかであった。
 B指定海難関係人は、船尾方から「ストップ」を連呼する乗組員の声を聞き、後方を振り向いてC機関員の海中転落を知り、左舵一杯をとって反転し救出を試みた。
 C機関員(昭和20年12月26日生)は、しばらく海面に浮上していたが意識を失っていてすぐ近くに浮いていたラジオブイにつかまることもできないまま、博洋丸が反転後間もなく海中に没し、捜索を続けたが行方不明となり、その後除籍された。
 B指定海難関係人は、その後、法定備品の救命衣とは別途、作業性のよい作業用救命衣を配備し、作業中は全乗組員に同救命衣の着用を徹底させるとともに、作業前の打ち合わせを頻繁に行い、網さばき係は監視係から連絡があれば直ちに標識ロープをかわすようにさせるなど不安全行動を是正する措置をとった。

(原因)
 本件乗組員行方不明は、流し網の投網作業にあたり、同作業の不安全行動を是正する措置が不十分であったばかりか、救命衣着用の徹底が不十分で、船尾に位置する網さばき係が標識ロープをかわすのが遅れ、標識ロープに引っ張られて海中に転落し、意識を失って海面に浮上していた同人が海中に没したことによって発生したものである。

(受審人等の所為)
 A受審人が、安全担当者及び投網作業の現場責任者として流し網の投網作業にあたる場合、乗組員が海中転落する危険性があったから、乗組員に対し、救命衣着用を徹底すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、今まで転落事故がなかったことから大丈夫と思い、救命胴衣の着用を徹底しなかった職務上の過失により、乗組員が海中転落後行方不明となる事態を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人は、流し網の投網作業にあたり、網さばき係が、監視係から連絡を受けても、標識投下直前まで標識ロープをかわさない不安全行動をとることがあったから、網さばき係に対し、監視係から連絡があれば直ちに標識ロープをかわすようにさせるなど不安全行動を是正する措置を十分にとらなかったことは本件発生の原因となる。
 同人に対しては、事故後、作業前の打ち合わせを頻繁に行い、不安全行動を是正する措置をとったことに徴し、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。





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