日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 死傷事件一覧 >  事件





平成11年門審第39号
件名

貨物船第十八神力丸乗組員死亡事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成13年6月15日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(相田尚武、原 清澄、橋本 學)

理事官
中井 勤

受審人
A 職名:第十八神力丸船長 海技免状:四級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:第十八神力丸一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)(履歴限定)

損害
C一等機関士が胸部圧迫による脊髄損傷及び心肺挫傷により死亡

原因
クレーン付グラブバケット修理作業時の安全措置不十分

主文

 本件乗組員死亡は、クレーン付グラブバケット修理作業時の安全措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Bの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年2月6日11時30分
 長崎県印通寺港南東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第十八神力丸
総トン数 1,598トン
全長 94.75メートル
15.00メートル
深さ 8.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット

3 事実の経過
 第十八神力丸(以下「神力丸」という。)は、平成5年9月に進水した砂利採取及び運搬の業務に従事する船尾船橋型貨物船で、船体中央部に、長さ28.8メートル幅11.0メートルの倉口を有する船倉を配置し、荷役装置として、この船倉を挟み、船首側船楼甲板上に揚荷用全旋回式ジブクレーン(以下「クレーン」という。)を、船尾側同甲板上に積荷用のシューター及びゴムホース付水中サンドポンプなどをそれぞれ設置していた。
 また、クレーンは、クレーン機械室の前面中央部に、長さ30.0メートルのジブを有し、同室右前部に設けた運転席から同ジブ及び同ジブにつるしたグラブバケットなどの制御を行えるようになっており、そのグラブバケットの自重は13.4トン、同バケット閉鎖時の長さ、幅及び高さがそれぞれ3.65メートル、2.12メートル、6.43メートルで、クレーンの運転席に取り付けられたクラッチとブレーキの各レバーの操作により、同バケットの上げ下げ及び開閉ができるようになっていた。
 砂利採取作業は、採取区域で投錨後、長さ約70メートルのゴムホース付の水中サンドポンプを海底に降ろし、同ポンプにより海水とともに吸引した砂利を、シューターを使用して船倉内の船尾側から船首方に向かって順次落とし込んでいくもので、同作業に3ないし6時間を要していたが、その際、積荷に伴って生ずる横傾斜については、クレーンを適宜運転操作し、ジブとグラブバケットを移動させることにより調整していた。
 神力丸は、A受審人、B受審人及び次席一等機関士(以下「一等機関士」という。)Cほか4人が乗り組み、船首3.5メートル船尾4.5メートルの喫水をもって、平成11年2月5日16時00分広島県福山港を発し、砂利採取の目的で、長崎県印通寺港南東方沖合の採取区域に向かい、翌6日10時15分同区域に至って投錨したのち、採取準備にかかった。
 B受審人は、同7年に甲板部員として神力丸に乗り組んで以降、機関部員を経て、同10年2月から一等航海士として乗り組み、C一等機関士とともにクレーンの操作と保守管理に当たっており、砂利採取区域で水中サンドポンプの降下後、グラブバケットを船倉内の右舷船首側倉口に宙づり状態で寄せて横傾斜の調整を行ったのち、C一等機関士と同バケットの口板(くちいた)部に取り付けるすべり込みと呼称する部品の溶接修理作業に取り掛かった。
 A受審人は、同9年南播海運株式会社(以下「南播海運」という。)に入社以来、神力丸に乗り組んで安全担当者を兼務していたもので、採取準備後、10時30分ごろから船橋で水中サンドポンプを運転して積荷役を開始したとき、B受審人とC一等機関士が船首の甲板倉庫から溶接機のコードを持ち出し、修理に向かうのを認めたが、平素2人で修理作業を行っているので任せても支障ないものと思い、積荷役終了後に同作業を行うことなど、安全な作業方法について指示することなく、引き続き同ポンプの運転に当たった。
 B受審人は、クレーンでつられたグラブバケット内でC一等機関士と溶接修理を行っていたところ、積荷役に伴い船体とともに同バケットが傾斜したことから、同バケットをつり上げることとしたものの、同バケット内にC一等機関士を乗せたままクレーンを操作することに不安を感じ、クレーンの運転席から降りるよう手で合図したが、C一等機関士からそのままつり上げるよう催促されたことから大丈夫と思い、同バケットからC一等機関士を降ろすことなく、クレーンを操作した。
 こうして、神力丸は砂利採取中、B受審人が、グラブバケット内に保護帽と防寒着を着用して長靴を履いたC一等機関士を乗せたまま、つり上げるつもりでクラッチとブレーキのレバーを同時に操作したとき、一時的にブレーキを緩めたため、同バケットの刃板が開閉し、11時30分海豚埼(いるかさき)灯台から真方位113度4.8海里の地点において、C一等機関士が滑落して刃板に胸部を挟まれた。
 当時、天候は晴で風力2の北北西風が吹き、海上は穏やかであった。
 B受審人は、C一等機関士が挟まれたことを知り、直ちにグラブバケットを開き、船倉内の海水中に落下したC一等機関士を他の乗組員とともに甲板上に引き揚げ、人工呼吸を施した。
 A受審人は、船楼甲板上の騒ぎに気付いて事故発生を知り、積荷役作業を中止するとともに唐津海上保安部壱岐分室に通報して救急車などの手配に当たった。
 その結果、C一等機関士(昭和26年8月11日生)は、救急車により病院に急送されたが死亡が確認され、胸部圧迫による脊髄損傷及び心肺挫傷と検案された。

(原因)
 本件乗組員死亡は、長崎県印通寺港沖合において、クレーン付グラブバケット修理作業時の安全措置が不十分で、同バケットに乗組員を乗せた状態でつり上げ操作が行われ、開閉した同バケットの刃板に乗組員が挟まれたことによって発生したものである。
 修理作業時の安全措置が不十分であったのは、船長が、安全な作業方法について指示しなかったことと、クレーン操作に当たる乗組員が、安全な作業方法をとらなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、長崎県印通寺港沖合において、グラブバケットの修理作業中、同バケットをつり上げるためクレーン操作に当たる場合、同バケット内に乗組員を乗せたままつり上げることに不安を感じたのであるから、同乗組員を降ろしたのちクレーン操作に当たるべき注意義務があった。しかるに、同人は、同バケット内の乗組員からそのままつり上げるよう催促されたことから大丈夫と思い、同乗組員を乗せたままクレーン操作に当たった職務上の過失により、開閉した同バケットの刃板に同乗組員を挟む事態を招き、死亡させるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 A受審人は、長崎県印通寺港沖合において、砂利採取作業中、2人の乗組員が溶接修理に向かうのを認めた場合、積荷役終了後に修理作業を行うことなど、安全な作業方法について指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、平素2人で修理作業を行っているので任せても支障ないものと思い、安全な作業方法について指示しなかった職務上の過失により、積荷役中にグラブバケットの修理作業を行わせ、同バケットに乗組員を乗せた状態でつり上げようとしたとき、開閉した同バケットの刃板に乗組員が挟まれる事態を招き、死亡させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION