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平成12年神審第131号
件名

遊漁船八号住吉丸潜水者負傷事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成13年6月28日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(小金沢重充、阿部能正、西田克史)

理事官
釜谷奬一

受審人
A 職名:八号住吉丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士(5トン限定)

損害
B潜水者が左下腿不全切断

原因
潜水者の存在確認不十分

主文

 本件潜水者負傷は、船体周辺における潜水者の存在確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年12月29日13時40分
 高知県沖ノ島沖合

2 船舶の要目
船種船名 遊漁船八号住吉丸
総トン数 4.8トン
全長 12.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 220キロワット

3 事実の経過
 八号住吉丸(以下「住吉丸」という。)は、旅客定員12人のFRP製遊漁船で、A受審人が1人で乗り組み、潜水者Bほか4人を乗せ、スキューバダイビング支援の目的で、船首0.10メートル船尾1.30メートルの喫水をもって、平成11年12月29日13時00分高知県弘瀬漁港を発し、同県沖ノ島西方沖合のダイビングスポットに向かった。
 13時10分A受審人は、土佐烏帽子埼灯台から223度(真方位、以下同じ。)1.6海里の地点で、機関を停止し、潜水時間を30分ないし40分と取り決めて、B潜水者等5人を入水させ、潜水者を収容するときに利用するはしご(以下「収容はしご」という。)の降下準備を終え、漂泊を開始した。
 ところで、収容はしごは、船体のほぼ中央部に備えた操舵室前壁の前方0.25メートル、海面上高さ0.5メートルの左舷ブルワーク上面に、ステンレス製の幅0.7メートル長さ2.5メートルのものが取り付けられ、それを使用するときには、俯角(ふかく)45度まで船首方に降下できる仕組みで、不使用時には、その船首端が引き上げられてブルワーク上水平に置かれていた。
 また、住吉丸の推進器翼は、回転直径が62センチメートルの右旋回3翼一体型で、同翼の中心は海面下約1メートルのところに、同翼の外縁は舷側端から約1.22メートル内側にそれぞれ位置していた。
 13時30分A受審人は、浮上した1人の潜水者に船を寄せ、収容はしごを傾けて同人を収容したのち、再びその船首端を引き上げて漂泊を続けた。
 13時40分少し前A受審人は、船首を西方に向けた船首甲板上で先に収容した潜水者と話をしていたとき、右舷正横200メートルばかりのところに、潜水者が浮上したのを認めた。
 A受審人は、直ちにこの潜水者を収容するために発進することにしたが、潜水者全員が右舷正横方にいるものと思い、他の潜水者が推進器翼に接触しないよう、船体周辺における潜水者の存在確認を十分に行うことなく、左舷側前部至近にB潜水者がいることに気付かないまま、13時40分わずか前機関を始動して主機クラッチを入れ、右舵一杯にとって増速しながら右回頭を始めた。
 住吉丸は、その船尾が左舷側至近にいたB潜水者に急接近し、13時40分土佐烏帽子埼灯台から220度1.7海里の地点において、船首がほぼ北方を向いたとき、推進器翼がB潜水者に接触した。
 当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
 A受審人は、船尾方に衝撃を感じて同方向を見たとき、右舷船尾付近の海面上で足を押さえているB潜水者を認め、事故の発生を知り事後の措置に当たった。
 また、B潜水者は、入水して20分ばかり広範囲に移動しながら水深30メートル付近までスキューバダイビングを行ったのち、徐々に減圧しながら浮上を開始し、13時35分ごろ水深3メートルのところで最終の減圧をしていたところ、15メートルばかり離れた海面に住吉丸の船底を認めたので、減圧を終えて同船に近づいた。
 13時40分少し前B潜水者は、住吉丸の左舷側至近に浮上し、収容はしごの船首端を同船のブルワーク上から下ろそうと手を伸ばしたとき、住吉丸の推進器翼が回転を始めて急接近してきたが、どうすることもできず、前示のとおり接触した。
 その結果、B潜水者は、左下腿不全切断を負った。

(原因)
 本件潜水者負傷は、高知県沖ノ島西方沖合のダイビングスポットで複数の潜水者を降ろして漂泊中、浮上した潜水者を収容のために発進する際、船体周辺における潜水者の存在確認が不十分で、左舷側前部至近にいた潜水者に推進器翼が接触したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、沖ノ島西方沖合のダイビングスポットで複数の潜水者を降ろして漂泊中、浮上した潜水者を収容するために発進する場合、他の潜水者が推進器翼に接触しないよう、船体周辺における潜水者の存在確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、潜水者全員が右舷正横方にいるものと思い、船体周辺における潜水者の存在確認を十分に行わなかった職務上の過失により、左舷側前部至近にいた潜水者に気付かず、機関を始動して右舵一杯としたところ、推進器翼が同潜水者に急接近して接触する事態を招き、同潜水者に左下腿不全切断を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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