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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 死傷事件一覧 >  事件





平成12年神審第22号
件名

貨物船はやせと乗組員負傷事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成13年5月22日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(大本直宏、内山欽郎、小金沢重充)

理事官
小寺俊秋

受審人
A 職名:はやせと船長 海技免状:四級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:はやせと次席一等機関士

損害
B指定海難関係人が右足骨折し入院加療(5箇月)

原因
コンテナの固縛作業に対する安全措置不十分

主文

 本件乗組員負傷は、コンテナの固縛作業に対する安全措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年5月12日16時45分
 神戸港

2 船舶の要目
船種船名 貨物船はやせと
総トン数 498トン
全長 80.22メートル
登録長 76.61メートル
12.70メートル
深さ 6.53メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 2,059キロワット

3 事実の経過
 はやせとは、船橋前面付近から船首方に、長さ39メートル幅10.4メートル深さ5.2メートルの船倉を有し、40フィートコンテナ換算にして、船倉内24個、甲板上32個のそれぞれ2段積みが可能な、阪神、北九州各港間の輸送を主とする船尾船橋型コンテナ専用船で、A受審人、B指定海難関係人ほか3人が乗り組み、平成11年5月11日17時30分関門港を発し、翌12日神戸港ポートアイランド及び同六甲アイランドに至って揚荷を行い、のち同アイランドで20フィートコンテナ10個、40フィートコンテナ12個を積載の後、次の積荷目的で、船首2.2メートル船尾3.8メートルの喫水をもって、同日16時40分神戸港ポートアイランド北ふ頭ライナー岸壁に右舷を対して係留した。
 ところで、はやせとのフレームスペースは、フレーム番号0から同27及び同109から同116.5間が600ミリメートル(以下「ミリ」という。)、中央部分が650ミリで、船倉は、20フィートコンテナ換算にして、1列各6個の4縦列区画からなり、横4個分区画をBAYと称して船首方から順に番号を付し、フレーム番号90から同71までがBAY1及びBAY2のスペース(右舷側から順に第1から第4までの番号を付す。)で、また、積載コンテナの固縛は、最上段コンテナの上部各コーナー(以下「コーナーフィッティング」という。)から斜め下方に、ターンバックル付チェーン(以下「締付金具」という。)を導き、張り合わせる方式であった。
 締付金具は、長さ3メートル重さ約20キログラムのチェーン下部に、長さ約1メートル重さ15.2キログラムのターンバックルが続き、チェーン上端に重さ2.8キログラムの自在フックを取リ付け、ターンバックル下端にフックのある構成となっていた。
 固縛作業は、上段コンテナ上部のコーナーフィッティングに、自在フックを差し込み90度回転してかん合させ、下段コンテナ上部の同フィッティング又は船倉側壁に、ターンバックルのフックをかけ、手回しでチェーンの緩みをとった後、同バックルの中心部に、長さ30センチメートル径10ミリの金棒を差し込んで回転させ、締め付けるもので、乗組員が下段コンテナの天井面を足場にし、身体が同コンテナ側面部に近いと、船員労働安全衛生規則の個別作業基準のうち、床面から2メートル以上のところとなり、墜落のおそれのある高所作業であった。
 A受審人は、乗組員にコンテナの固縛作業を行わせてきたが、これまで事故はなかったので大丈夫と思い、高所作業であるから墜落防止策として、命綱又は安全ベルトを使用する旨の乗組員指導を徹底するなど、コンテナの固縛作業に対する安全措置を十分にとらず、在橋してコンテナ積込荷役作業を総括し、BAY1及びBAY2の第2、第3両スペースに、40フィートコンテナ各1個をそれぞれ3段積みとし、乗組員に同コンテナの固縛作業を行わせた。
 B指定海難関係人は、BAY1及びBAY2の第2スペースのコンテナの固縛作業を担当し、安全帽、上下作業服及び安全靴着用の服装で、命綱又は安全ベルトを使用しないまま、同第1スペース2段積み40フィートコンテナの天井面上に乗り、積載コンテナ右舷船首側の固縛を終え、船尾側へ移動し、同コンテナ側面にはしごを立てかけ、自在フックを差し込んだ際もその後も、締付金具上部のかん合状態を確認しなかったので、自在フックの回転が戻るかして同状態が不安定となっていることに気付かず、ターンバックル中央部に金棒を差し込み、船尾方を向き中腰の姿勢で金棒を回転させ、締付金具のチェーンが緊張してきた際、突然自在フックが外れた弾みで身体の平衡を失い、16時45分神戸港第6防波堤灯台から真方位299度2,900メートルの地点において、約5メートル下方となる船倉床面で、フレーム番号69舷側寄りのところに墜落した。
 当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、潮候は上げ潮の末期で海面は穏やかであった。
 A受審人は、乗組員からの知らせで本件発生を知り、事後の措置に当たった。
 墜落の結果、B指定海難関係人は、入院を伴う5箇月の加療を要する右足骨折などの負傷をした。

(原因)
 本件乗組員負傷は、神戸港においてコンテナの積載荷役中、コンテナの固縛作業に対する安全措置が不十分で、乗組員がコンテナ天井面の高所で締付金具のチェーンを緊張する作業に当たった際、コーナーフィッティングにかん合した同金具上端部の自在フックが外れ、その弾みで身体の平衡を失い、船倉床面へ墜落したことによって発生したものである。
 安全措置が十分でなかったのは、船長が、命綱又は安全ベルトを使用する旨の乗組員指導を徹底しなかったことと、乗組員が、締付金具上部のかん合状態を確認しなかったうえ、命綱又は安全ベルトを使用しなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、神戸港においてコンテナの積載荷役中、乗組員に高所となるコンテナの固縛作業を行わせる場合、墜落防止策として、命綱又は安全ベルトを使用する旨の乗組員指導を徹底すべき注意義務があった。しかるに、同人は、これまで事故はなかったので大丈夫と思い、命綱又は安全ベルトを使用する旨の乗組員指導を徹底しなかった職務上の過失により、B指定海難関係人の船倉床面への墜落を招き、入院を伴う5箇月の加療を要する右足骨折など、負傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、神戸港係岸中の荷役作業に当たり、下段コンテナの天井面に乗り、同面右舷船尾側付近で締付金具により積載コンテナの固縛作業に当たる際、同金具上部のかん合状態を確認しなかったうえ、命綱又は安全ベルトを使用しなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。





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