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平成12年門審第17号
件名

漁船第33幸盛丸乗組員死亡事件
二審請求〔理事官千手末年〕

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成13年4月11日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(米原健一、佐和 明、原 清澄)

理事官
千手末年

受審人
A 職名:第33幸盛丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
B甲板員が脳挫傷で死亡

原因
まき網揚網時の浮子灯回収作業に対する安全措置不十分

主文

 本件乗組員死亡は、まき網揚網時の浮子灯回収作業に対する安全措置が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成10年9月11日02時10分
 鹿児島県小山田湾東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第33幸盛丸
総トン数 19トン
登録長 17.77メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 190

3 事実の経過
 第33幸盛丸(以下「幸盛丸」という。)は、網船、灯船2隻及び運搬船2隻の5隻で船団を組み、中型まき網漁業に従事する幸盛丸船団のFRP製漁船で、平成10年8月25日に先代の網船(以下「旧船」という。)の代替として建造され、船体中央部に船橋を、その後部に接続して機関室囲壁を設け、同囲壁から船尾方約8メートルまでを高さ1.3メートルのブルワークに囲まれた後部甲板とし、同甲板は網置場として利用されていた。また、後部甲板の後端から長さ約1メートルのスロープに続いてブルワーク高さまで隆起した木甲板(以下「船尾端甲板」という。)が、船尾端まで約1.4メートルにわたって設けられており、後部甲板の左舷後部にクレーンが、船尾端甲板にネットホーラーがそれぞれ設備され、クレーンの先端には網捌き(つなさばき)機が取り付けられていた。
 ネットホーラーは、直径1.3メートル幅51センチメートル(以下「センチ」という。)船尾端甲板から上端までの高さ約1.6メートルのV字型ドラム(以下「Vドラム」という。)により網を巻き揚げる回転装置、巻き揚げる網の方向にVドラムの向きを合わせる旋回装置及び船尾端甲板上を横移動させる移動装置などから構成され、各装置を船橋右舷後方に設けたバイパス弁(以下「親弁」という。)及びネットホーラーカバーの左舷側面に設けた操作ハンドル(以下「子弁」という。)によって作動することができたが、移動装置以外については、親弁が開弁中にのみ、子弁で作動することができるようになっていた。
 幸盛丸のまき網は、身網と袖網とを合わせて長さ640メートル丈160メートルの合成繊維製で、沈子側に沈子、沈子環、環締めワイヤなどが、浮子(あば)側に浮子、浮子灯などがそれぞれ取り付けられていた。また、これらのうち浮子灯は、直径6.3センチ長さ26.5センチの自動点滅式簡易標識灯で、直径7ミリメートル長さ10メートルの合成繊維製索により網の中央部に1個、網の両端から約200メートル中央寄りに各1個を結び付けて網とともに投下し、揚網時、網の巻き揚げにともなって船尾に引き寄せたとき、合成繊維製索を解いて回収していた。
 揚網作業は、幸盛丸の右舷側海中に魚群を包囲して円状に投網し、環締め作業を行って沈子環を甲板上に引き揚げたあと、船尾端甲板のほぼ右舷端に固定したネットホーラーで網を巻き揚げ、続いて網捌き機で網を後部甲板上方に吊り上げたのち、浮子が左舷側に、沈子が右舷側になるように同甲板に網を並べるもので、揚網の進行に合わせて沈子環を網から取り外す必要があった。
 ところで、浮子灯回収作業は、浮子灯が網の内側を船体に沿って船尾に近づく場合には、甲板員がネットホーラーの右舷側に位置し、同灯が網の外側から船尾に近づく場合には、甲板員がネットホーラーの左舷側に位置してそれぞれ行われ、いずれの場合も、回収作業に当たる甲板員が船尾に近づく浮子灯の状態を見てネットホーラーの左右どちらの側から回収するかを判断し、各位置で浮子灯がVドラムに巻き込まれる前に素早く合成繊維製索を解いていたが、ネットホーラーを運転したまま、甲板員がネットホーラーの左舷側から回収作業を行うと、Vドラムに巻き込まれるおそれがあったので、網を傷めることがないように、親弁を操作して網捌き機とネットホーラーを停止したのち、同作業を行うようにしていた。
 A受審人は、有限会社Pの代表取締役を務めるとともに、船長、漁ろう長及び安全担当者を兼務して網船に乗り組み、操業の指揮を執っていたもので、幸盛丸が就航するに当たり、甲板機械製造会社の担当者を招き、投網及び揚網作業を実際に行いながら、ネットホーラーなどの甲板機械取扱い説明会を2日間にわたって実施し、甲板員阿部進及び旧船から引き続いて乗船する他の甲板員に対し、甲板機械の取扱いについての訓練はしたものの、昼間に同説明会を行ったことや浮子灯の回収作業については、平素から繰り返して行っていたことから、同作業の説明は行っていなかった。
 B甲板員は、長年底引き網漁業に従事していたところ、平成9年12月有限会社Pに入社し、幸盛丸船団の運搬船に約9箇月間乗船したのち、翌10年9月1日幸盛丸に転船し、主に炊事を担当するほか、甲板員全員で行う揚網作業などにも従事することになっていたが、浮子灯の回収作業についての経験はなかった。
 こうして幸盛丸は、A受審人及びB甲板員ほか6人が乗り組み、操業の目的で、船首1.20メートル船尾2.70メートルの喫水をもって、同年9月9日17時00分僚船4隻とともに鹿児島県内之浦港を発し、19時00分ごろ同県小山田湾東方沖合約2海里の漁場に至って操業を始めた。
 A受審人は、翌10日早朝1回目の操業を終えて休息をとったあと、18時30分2回目の操業を始め、翌11日01時45分ごろ甲板員6人を後部甲板の船首側に横1列に配置し、そのうちの各1人を浮子側及び沈子側に、他の4名を網の中央部を手繰らせる作業にそれぞれ就かせ、B甲板員を揚網作業に熟練した沈子側甲板員の補助要員としたうえ、自らは船橋右舷後方で親弁の操作に当たりながら指揮を執り、揚網作業を始めた。
 02時00分ごろA受審人は、1個目の浮子灯が網の内側を船体に沿って船尾に接近したとき、安全帽をかぶり、上下の雨合羽を着用したB甲板員に初めて浮子灯回収作業を命じたところ、同甲板員が網捌き機に吊り上げられた網の下をくぐってネットホーラーの左舷側へ赴き、ネットホーラーを停止する前に、網越しに同灯を回収しようとしたので、親弁を操作し、網捌き機及びネットホーラーを停止して揚網作業を中断したのち、同甲板員が浮子灯回収作業に慣れておらず、その作業方法に危険を感じたことから、以後同作業を行わないように注意して揚網作業を再開した。
 A受審人は、間もなく2個目の浮子灯が網の内側を船体に沿って右舷船尾に接近していたが、B甲板員に注意したので、再度同甲板員が浮子灯回収作業を行うことはないものと思い、沈子側甲板員にB甲板員に代わって同作業を行うよう指示するなど、浮子灯回収作業に対する安全措置を十分にとることなく、揚網作業の指揮から一時離れ、右舷ブルワーク寄りに備えられたサイドローラーの上に船首方を向いて跨(またが)り、環吊綱を解いて沈子環を網から取り外す作業を始めた。
 A受審人は、02時10分少し前B甲板員が2個目の浮子灯の回収作業を行うため、再び船尾端甲板に赴いたものの、依然同じ姿勢で環吊綱を解く作業を続けていたので、このことに気付かず、沈子側の熟練した甲板員がB甲板員に代わって浮子灯回収作業を行うこともないまま、B甲板員がネットホーラーの左舷側から網越しに同作業を行っていたところ、02時10分火埼灯台から真方位218度6.4海里の地点において、Vドラムに網とともに巻き込まれた。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、海上は穏やかであった。
 A受審人は、沈子側甲板員の「早くネットホーラーを止めろ。」との怒鳴り声を聞いて事故に気付き、直ちに網捌き機及びネットホーラーを停止してB甲板員(昭和16年1月23日生)を救出したうえ、僚船の第25幸盛丸に移乗させて内之浦町の病院に搬送したが、同甲板員は、肺挫傷で死亡した。

(原因)
 本件乗組員死亡は、夜間、鹿児島県小山田湾東方沖合において、まき網を揚網中、浮子灯回収作業を行う際、同作業に対する安全措置が不十分で、浮子灯回収作業に不慣れな甲板員が同作業を行い、Vドラムに網とともに巻き込まれたことによって発生したものである。
 安全措置が十分でなかったのは、船長が、沈子環取外し作業に当たるため、一時揚網作業の指揮から離れるとき、浮子灯回収作業に不慣れな甲板員に代わって同作業を行うよう、熟練した甲板員に指示しなかったことと、浮子灯回収作業に不慣れな甲板員が、ネットホーラーが運転されたまま、ネットホーラーの左舷側から同作業を行ったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、鹿児島県小山田湾東方沖合において、まき網を揚網時、網に取り付けられた2個目の浮子灯が右舷船尾に接近中、沈子環取外し作業に当たるため、一時揚網作業の指揮から離れる場合、浮子灯回収作業に不慣れな甲板員に同作業を行わせるとVドラムに巻き込まれるおそれがあったから、同甲板員に代わって浮子灯回収作業を行うよう、熟練した甲板員に指示するなど、同作業に対する安全措置を十分にとるべき注意義務があった。ところが、同受審人は、1個目の浮子灯回収作業を不慣れな甲板員に行わせたとき、その作業方法に危険を感じたので、以後同作業を行わないように注意したことから、同甲板員が再度浮子灯回収作業を行うことはないものと思い、同甲板員に代わって同作業を行うよう、熟練した甲板員に指示するなど、浮子灯回収作業に対する安全措置を十分にとらなかった職務上の過失により、ネットホーラーが運転されたまま、同作業に不慣れな甲板員がネットホーラーの左舷側から浮子灯回収作業を行って、網とともにVドラムに巻き込まれ、同甲板員を死亡させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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