日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 遭難事件一覧 >  事件





平成12年広審第80号
件名

引船第二十七大成丸遭難事件

事件区分
遭難事件
言渡年月日
平成13年6月13日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(西林 眞、勝又三郎、坂爪 靖)

理事官
安部雅生

受審人
A 職名:第二十七大成丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
指定海難関係人
R株式会社 業種名:船舶修理業

損害
舵軸と舵板とのフランジ接続ボルトが脱落し、操舵不能

原因
原因不明

主文

 本件遭難は、舵軸と舵板とのフランジを接続するボルトが脱落して、操舵不能となったことによって発生したものである。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年12月14日11時00分
 瀬戸内海怒和島水道

2 船舶の要目
船種船名 引船第二十七大成丸
総トン数 99トン
登録長 29.98メートル
6.60メートル
深さ 2.84メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 882キロワット

3 事実の経過
 第二十七大成丸(以下「大成丸」という。)は、昭和44年5月に進水した旋網漁業に従事する鋼製漁船であったところ、平成3年11月に航行区域を沿海区域とする引船に改造されたもので、舵として、電動油圧操舵装置で駆動される複板式釣合い舵を装備していた。
 舵は、上部が操舵機油圧シリンダに連結した直径約150ミリメートル(以下「ミリ」という。)の舵軸と、シューピース底部のつぼ金によって支えられる縦約2.0メートル横約1.6メートルの舵板とを、舵軸下端及び舵板上端に取り付けられた、いずれも長さ360ミリ幅300ミリ厚さ40ミリの角形フランジで接続しているもので、両フランジ接触面の内部に位置決め兼動力伝達用のキーを嵌め込んだうえ、左右両側とも、直径31ミリのリーマボルト(以下「接続ボルト」という。)及び六角ナット3組でもって締め付け、ナットに回り止めを施すようになっていたが、外板とフランジとの間隙の関係から、同ボルトはフランジの下方から挿入されていた。
 A受審人は、内航海運業を営む有限会社S(平成9年7月S有限会社と社名変更した。以下「S社」という。)を経営し、自らも船長として自社船に乗り組むなどしていたところ、非自航の起重機船や台船を曳航する目的で、平成7年4月抵当権の付いたままの大成丸を購入し、同年11月ごろから自社船の受検工事及び修理工事などを、2基の浮ドックを保有して専ら船舶修理を手掛けていた指定海難関係人R株式会社(以下「R社」という。)にすべて依頼するようになり、翌8年1月に同社において大成丸の定期検査工事を行った。
 ところで、大成丸は、同年11月にプロペラの曲損事故を起こした際、R社のドックに空きがなかったことから、同社の斡旋した造船所において舵板を取り外したうえでプロペラの修理が行われ、舵板の復旧に当たっては、フランジ接触面に海水浸入による発錆が認められたので、錆落としののち光明丹を塗布し、接続ボルトは継続使用して、締付けナット側には、鋼製丸棒を左右側それぞれのナット間に差し渡して各ナットの1辺に溶接する方法で回り止めが施された。
 その後、A受審人は、船長として乗り組んでいた大成丸の第一種中間検査工事を行うため、同10年2月R社に入渠したところ、シューピースが根元付近から上向きに曲がっていることを認め、その修理を依頼したが、修理方法などを同社に任せ、入渠翌日から出渠前日まで帰宅していて工事には立ち会わなかった。
 一方、R社は、シューピースの曲損状態が比較的軽度であったことから、舵板を取り外さないままシューピースを修理し、舵軸グランドパッキンを新替えしたうえ、舵全体の外観検査を行って工事を終えた。
 また、R社は、S社の経営状態が悪化し、同社からそれまでの工事代金の支払いがほとんどなされていない状況であったところ、出渠後京浜港への台船曳航業務を終えて関門港下関区に停泊していた大成丸が、購入時の抵当権の問題から、同年3月に裁判所に差し押さえられて競売に付されたので、困窮したA受審人の要請を受け入れ、翌11年1月に大成丸を買い戻して船舶所有者となり、未払金を回収する目的もあって、便宜上裸傭船契約の形態をとって再びS社が運航できるようにした。
 大成丸は、関門港下関区を基地として運航を再開し、同年5月から7月にかけては名古屋港、京浜港及び青森県八戸港などへ、その後は主として瀬戸内海及び九州方面への台船曳航を繰り返していたところ、何らかの原因でフランジ締付けナットの回り止めが外れたものか、同ナットの緩んだ接続ボルトが順次脱落し始めた。
 こうして、大成丸は、A受審人ほか3人が乗り組み、船首1.6メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、スクラップ550トンを積載した台船を引き、同年12月14日07時10分広島県佐伯郡大柿町秀地を発し、折からの潮流に抗して3.5ノットの対地速力で山口県宇部港に向かった。そして、10時30分怒和島水道の最狭部を通過し、針路を南方に定め自動操舵に戻してほどなく、11時00分油トリ瀬灯標から真方位106度960メートルの地点において、接続ボルトがすべて脱落して舵板が後方に倒れ、右舵をとった状態で操舵不能となった。
 当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、海上は穏やかであった。
 操舵に当たっていたA受審人は、突然右転を始めたことに気付き、直ちに手動操舵に切り替えたものの、舵が効かないことを認めて主機を停止し、折からの北東流により怒和島西岸まで圧流されたところで投錨したのち、操舵機などを点検したが異常がなかったので、同島で潜水夫を手配して舵を調べた結果、舵板が外れかかっていることを知ってロープで舵軸に固縛するとともに、松山海上保安部に救助を要請した。
 大成丸は、台船の曳航を同業者に依頼し、巡視艇に続いて来援した修理業者の引船により広島県木江港に引き付けられ、接続ボルト、ナット及びキーを新製して舵の修理が行われたが、のち海外に売却された。

(原因に対する考察)
 本件は、航行中に舵軸と舵板とのフランジ接続ボルトがすべて脱落して操舵不能となったもので、平成8年11月の臨時入渠の際、フランジ接触面に海水浸入による荒損を認めたものの、錆落としを行っただけで同接触面が接触不良のまま復旧したため、その後のシューピース曲損も加わって接続ボルトにかかる衝撃力が増大し、同ボルト締付けナットと回り止め用丸棒との溶接部が剥離し始めたが、同10年2月の第一種中間検査工事においてフランジ部の点検が不十分で、回り止めが外れかかったまま放置され、その結果回り止めが外れてナットが緩み、すべての同ボルトが脱落するに至ったとの主張がある。
 以上の状況を踏まえ、本件の原因について考察する。
1 フランジ接触面の状況
 フランジ接触面については、海水浸入による発錆がみられた際、接触状態の良否は確認されていないものの、工事を担当した高橋専務取締役が「浮いた錆を落とし、少しでも接触をよくしようとした。」旨を供述しており、一方事故後の修理を行った修理業者の質問調書及び回答書によれば、フランジ外面には多量のかき殻が付着していたのに対し、接触面及びボルト穴には薄い錆がある程度で、接触面に格別の異常を認めていないことから、荒損して接触不良の状況にあったとは認められず、またシューピースの曲損時期についても特定できない。
2 裸傭船契約後の運航状況
 大成丸の運航状況は、運航表によれば、同11年上半期には名古屋港及び京浜港への台船曳航業務を繰り返し、八戸港から日本海経由で基地に戻る航海などを行っており、同年下半期については九州及び瀬戸内海中心の曳航業務で運航日数は多くはないものの、著しく稼働率が低い状況にあったとはいえない。
 これらのことから、回り止めが外れたことが本件の基因と考えられるものの、同10年2月の時点ですでに回り止めが外れかかっていたとする確たる証拠はなく、A受審人及び指定海難関係人R社の所為が本件発生の原因をなしたとは認められない。
3 その他の要因について
 回り止めが外れる要因としては、
(1)回り止め用丸棒の溶接不良による剥離
(2)回り止め用丸棒の折損
(3)締付けナットの締付け不足
(4)舵板又はフランジ部への異物衝突による衝撃
(5)一部接続ボルトの折損
 などが考えられるが、接続ボルト、ナット及び回り止め丸棒が消失して究明するための証拠がなく、舵板等にも変形損傷が認められないことから、いずれかを特定することはできず、したがって、回り止めが外れた要因を明らかにすることはできない。

(原因)
 本件遭難は、舵軸と舵板とのフランジ接続ボルトの締付けナットの回り止めが外れ、怒和島水道を南下中、同ボルトがすべて脱落して操舵不能となったことによって発生したものであるが、回り止めが外れた要因を明らかにすることはできない。

(受審人等の所為)
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
 指定海難関係人R社の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。 





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION