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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 遭難事件一覧 >  事件





平成12年横審第117号
件名

教習艇海技丸7号遭難事件

事件区分
遭難事件
言渡年月日
平成13年5月24日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(葉山忠雄、半間俊士、吉川 進)

理事官
古川隆一

受審人
A 職名:海技丸7号船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
プロペラ破損、ドライブシャフトが折損し操船不自由となる

原因
不可抗力

主文

 本件遭難は、プロペラが水中浮遊物に衝突したことによって発生したものである。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年10月21日10時21分
 茨城県那珂湊港

2 船舶の要目
船種船名 教習艇海技丸7号
登録長 4.59メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 69キロワット

3 事実の経過
 海技丸7号は、翼長約20センチメートルのプロペラを装備し、小型船舶操縦士の資格免許試験の受験を希望する者に実技指導を行う教習艇で、受審人Aが一人で乗り組み、教習生2名を同乗させ、教習の目的で、船首0.4メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、平成11年10月21日10時00分茨城県水戸市川又町の飛鳥マリーナの係船場を発し、那珂川に架かる海門橋橋梁から下流の教習水域に向かった。
 ところで、教習には、直進して航走したのちの45度及び180度各転針並びに標識用浮標間の蛇行航行などの教科が含まれ、また、教習は、通常、海門橋橋梁の上流水域で行われていたところ、今回は同水域がさけ鮭刺網漁の漁期であったことから、前述の水域で行われることとなっていた。
 こうしてA受審人は、コックピット右側の操縦席に座って那珂川を下航し、10時20分那珂湊港東防波堤灯台(以下「東防波堤灯台」という。)から262度(真方位、以下同じ。)1,170メートルの地点で模範操船を始め、針路を東防波堤灯台に向く、082度に定め、機関を回転数毎分2,600の半速力前進として16.0ノットの対地速力で進行した。
 A受審人は、10時20分半250メートルばかり航走したところで右45度転針を行い、同時21分少し前東防波堤灯台から256度850メートルの地点で、右180度転針の模範操船に移ることとし、右舵一杯として続航し、10時21分東防波堤灯台から256度880メートルの地点で、船首がほぼ反転して307度を向き、速力が12.8ノットになり、舵中央として直進針路に入ったとき、突然、船尾に衝撃を感じるとともに機関が空転し、船体が停止した。
 当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
 その結果、海技丸7号は、プロペラの2翼の先端が破損し、ドライブシャフトが切損して操船の自由を失い、風に圧流されて付近川岸に座礁し、のち、引き揚げられて修理された。

(原因等の考察)
1 原因についての考察
 本件は、茨城県那珂川に架かる海門橋と同川河口との間の水域で発生したものであり、以下その原因について考察する。
 本件は、受審人が上流から下流に向かって定針、定速で進行中、右45度転針に続けて右180度転針の模範操船を行い、右舵一杯として反転したところで舵中央とし、直進針路となった直後に発生した。
 受審人は、当廷において、事件発生の約2箇月前、事件発生地点付近の那珂川右岸水域において行方不明者の潜水捜索に参加し、そのとき水底から突起する障害物を認めず、また、同岸が岸辺から急激に深度を増している状況であった旨、更に、同人も他の教習指導者も、過去において同地点付近で本件に類似した事態に遭遇していない旨、及び受審人の過去の経験から同地点付近は、危険が存在するとの認識を持つ必要のない水域である旨をそれぞれ供述している。
 一方、本件発生後の教習艇の状態は、損傷等写真写に見られるように、船底あるいは船体中心線に位置する船内外機のスケグ底部に損傷がなく、プロペラ3翼のうち2翼の先端部に損傷が生じていた。
 この損傷模様からすると、障害物は、本件発生まで付近を航行する航海者に知られていない、水底から円状あるいは楕円状に隆起した常識的な浅所とは考え難く、船体中心線からプロペラの翼長分離れたところに孤立して浮遊していた不測の物体と判断できる。
 従って、本件遭難の原因は、前示物体との衝突によって発生したとするのが相当である。
2 受審人の所為についての考察
 本件遭難の原因が、前述のとおりであるところから、受審人がこの物体を回避することの可能性について検討する。
 受審人に対する質問調書中、本件発生直後に船速が落ち、船体が停止した旨供述記載され、一方、同人は当廷において、発生直後に水中障害物の存在を認めなかった旨及び那珂川が清澄な水質でなく水中の透視が困難である旨それぞれ供述している。
 このことは、運航者が、至近においても水中にあった浮遊物を視認すること及び事前に同物体を避航する可能性を否定している。
 これにより、受審人が、事件発生前に水中障害物の存在を予見し、同物体との衝突を回避することはいずれも不可能であり、同人に業務上の過失を認めることはできないとするのが相当である。

(原因)
 本件遭難は、茨城県那珂湊港内において、小型船舶操縦士免許取得のための180度転針教習中、反転針路となった際、プロペラが不測の水中浮遊物に衝突したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 受審人Aの所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。 





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