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平成12年門審第103号
件名

漁船大進丸貨物船チャン ジアンNo.8衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年6月28日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(佐和 明、橋本 學、相田尚武)

理事官
畑中美秀

受審人
A 職名:大進丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
大進丸・・・船首部を圧壊、前部マストを折損及び集魚灯を破損
チャン号・・・右舷船首部から中央部外板に擦過傷

原因
チャン号・・・横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
大進丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、チャン ジアンNo.8が、前路を左方に横切る大進丸の進路を避けなかったことによって発生したが、大進丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年5月14日07時15分
 山口県角島南西沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船大進丸 貨物船チャンジアンNo.8
総トン数 19.95トン 1,349トン
登録長 16.91メートル 71.45メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 478キロワット 1,029キロワット

3 事実の経過
 大進丸は、いか1本釣り漁業に従事する木製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.9メール船尾3.5メートルの喫水をもって、平成11年5月13日15時20分山口県特牛(こっとい)港を発し、同日18時30分沖ノ島灯台東北東20海里付近の漁場に至って操業を行い、翌14日02時00分いか約70キログラムを漁獲した後、自宅の所在地である長崎県壱岐島の芦辺港へ向けて帰途に就いた。
 A受審人は、主に特牛港を基地として通年に渡り対馬海峡東水道の漁場で操業を行い、壱岐島の芦辺港には月に1度ほどの割合で休養目的で帰港していたものであるが、同島へ向けて沖ノ島東方沖合を航行中、今次操業は漁獲高が少なかったことから乗組員と相談のうえ、もう一晩操業を行うこととして特牛港へ向けて針路を変更し、05時48分角島灯台から264度(真方位、以下同じ。)16.0海里の地点に至ったとき、針路を090度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて9.0ノットの対地速力で進行した。
 07時00分A受審人は、単独で船橋当直に当たり、角島灯台から252度5.3海里の地点に達したとき、右舷船首約1.5海里に、不規則に移動しながら操業している小さな漁船を視認したので対地速力を7.0ノットに減じ、さらに近づいたときレーダーレンジを1.5マイルから0.5マイルに切り替えて同漁船を注視しながら続航中、同時09分同灯台から247度4.2海里の地点に至ったとき、左舷船首51度1.2海里に、チャンジアンNo.8(以下「チャン号」という。)を視認でき、その後、同船が、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めることができる状況となったが、右舷側の小さな漁船に気を奪われ、見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、警告信号を行うことも、さらに接近したとき右転するなどの衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行した。
 こうして、07時15分わずか前A受審人は、右舷側の小さな漁船が後方に替わったので、再び速力を上げようとしたとき、左舷船首至近に迫ったチャン号を初めて認めたが、どうすることもできず、07時15分角島灯台から243度3.6海里の地点において、大進丸は、原針路のまま、対地速力7.0ノットで、その船首が、チャン号の右舷船首部に後方から60度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、視界は良好であった。
 また、チャン号は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、船長B及び一等航海士Cほか8人が乗り組み、鋼材1,072トンを積載し、船首2.6メートル船尾4.6メートルの喫水をもって、同月13日15時50分境港を発し、瀬戸内海を経由する西廻り航路で京浜港へ向かった。
 発航後、B船長は、船橋当直を午前午後を問わず、同人が8時から0時、C一等航海士が4時から8時、二等航海士が0時から4時の3直交替による4時間単独当直制に定め、関門海峡へ向けて西行した。
 翌14日04時00分C一等航海士は、山口県相島沖合で二等航海士から当直を引き継ぎ、06時43分半角島灯台から323度4.5海里の地点に達したとき、針路を186度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて10.0ノットの対地速力で進行した。
 07時09分C一等航海士は、角島灯台から258度3.2海里の地点に至ったとき、右舷船首33度1.2海里に大進丸を初めて視認し、その後、同船が自船の前路を左方に横切り、衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったことを知ったが、日本近海では漁船の方から自船を避航することがこれまでに多々あったので、今回も同様に避航してくれるものと思い、その進路を避けないまま続航した。
 こうして、C一等航海士は、大進丸が、そのうちに自船を避けてくれることを期待して、同じ針路、速力で進行中、07時14分同船が避航の気配を示さないまま約700メートルまで接近したとき、衝突の危険を感じて急いで機関を中立とし、自動操舵のまま、舵角調整つまみを左10度次いで同20度まで回したが、有効な舵効を得ることができなかったことから、さらに手動操舵に切り替えて左舵一杯をとったが及ばず、チャン号は、ほぼ原速力のまま、その船首が150度を向いたとき、前示のとおり衝突した。
 自室で休息していたB船長は、C一等航海士からの報告を受けて衝突を知り、直ちに昇橋して事後の措置にあたった。
 衝突の結果、大進丸は、船首部を圧壊、前部マストを折損及び集魚灯を破損したが、のち修理され、チャン号は、右舷船首部から中央部にかけての外板に擦過傷を生じた。

(原因)
 本件衝突は、山口県角島南西方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、南下するチャン号が、前路を左方に横切る大進丸の進路を避けなかったことによって発生したが、東行する大進丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、単独で船橋当直に当たり、山口県角島南西方沖合を特牛港へ向けて航行中、右舷前方に不規則な動きを繰り返す小さな漁船を認めた場合、同船のみに注意を集中することなく、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、右舷側の小さな漁船が不規則に動き回っていたことから、そのことに気を奪われ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、左舷前方から衝突のおそれがある態勢で接近するチャン号に気付かず、警告信号を行うことも、さらに接近したとき衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して同船との衝突を招き、大進丸の船首部を圧壊、前部マストを折損及び集魚灯を破損させ、チャン号の右舷船首部から中央部にかけての外板に擦過傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:32KB)





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