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平成13年門審第3号
件名

漁船敏栄丸漁船若戎丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年6月20日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(西村敏和、原 清澄、島友二郎)

理事官
今泉豊光

受審人
A 職名:敏栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:若戎丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士(5トン限定)

損害
敏栄丸・・・船首部に破口を伴う損傷
若戎丸・・・船尾ブルワークなどに損傷

原因
敏栄丸・・・見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
若戎丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、敏栄丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る若戎丸の進路を避けなかったことによって発生したが、若戎丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年4月28日11時00分
 宮崎県細島港南東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船敏栄丸 漁船若戎丸
総トン数 4.04トン 3.49トン
登録長 9.05メートル 9.40メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 35 35

3 事実の経過
 敏栄丸は、ひきなわ漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.2メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成12年4月28日01時00分宮崎県細島港を発し、同港南東方沖合の漁場に向かった。
 A受審人は、細島港を出たところで、機関を全速力前進にかけ、7.0ノットの速力とし、細島灯台から139.5度(真方位、以下同じ。)20.3海里の地点に設置された川南港東沖浮魚礁(以下「浮魚礁」という。)に向けて進行した。
 04時00分A受審人は、浮魚礁の北西方約1海里の地点に到着し、操舵室前部の両舷から長さ約9メートルのグラスファイバー製の竿を正横方向にそれぞれ1本ずつ出し、水面上で飛び跳ねて餌が複雑に動くことによって魚を誘導する効果があるヒコーキと称する漁具を付けた、長さ約30メートルの縄3本を両竿の先端と船尾中央部から、更にそれらの縄の間に、釣針を魚の遊泳層まで沈めて擬似餌を魚の動きに似せて動かすための潜航板と称する漁具を付けた、長さ約13メートルの縄2本と長さ約9メートルの縄2本の合計7本を流して、かつおひきなわ漁の操業を開始した。
 A受審人は、操舵室後方で立って操船に当たり、針路を適宜とし、速力を5.0ノットとして、操縦性能が制限されない状態で、かつおの群を探しながら手動操舵によって進行し、かつおが釣れると船尾で縄を手繰って取り込む作業を繰り返し、かつお約150キログラムを漁獲した。
 10時54分A受審人は、細島灯台から143.5度23.6海里の地点において、針路を248度に定め、そのころ自船の右舷側には4ないし5隻のひきなわ漁船が操業していたものの、いずれも距離が離れているので、しばらくの間はそれらの船と接近することはないと思い、他船が操業していない左舷側を注視して、かつおの群を探しながら続航した。
 10時57分少し前A受審人は、細島灯台から144度23.5海里の地点において、右舷船首11度1,000メートルのところに、前路を左方に横切る態勢の若戎丸を視認し得る状況となり、その後、その方位に明確な変化がなく、衝突のおそれのある態勢で接近していたが、左舷側を注視してかつおの群の探索を続け、右舷側の見張りを行っていなかったので、このことに気付かず、同船の進路を避けずに進行した。
 こうして、A受審人は、10時58分少し過ぎ細島灯台から144.5度23.5海里の地点に達して、右舷船首11度500メートルのところに、若戎丸が衝突のおそれのある態勢で接近していたが、依然として、左舷側ばかりを注視してかつおの群を探すことに気を取られ、右舷側の見張りを行っていなかったので、このことに気付かず、同船を避けないまま続航中、11時00分浮魚礁から176度3.8海里に当たる、細島灯台から145度23.4海里の地点において、敏栄丸は、原針路、原速力のまま、その船首部が若戎丸の左舷船尾部に前方から22度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好であった。
 また、若戎丸は、ひきなわ漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日02時00分細島港を発し、浮魚礁付近の漁場に向かった。
 B受審人は、細島港を出たところで、機関を全速力前進にかけ、8.0ノットの速力として浮魚礁に向けて進行し、05時30分同魚礁付近の漁場に到着して、敏栄丸とほぼ同様の漁具を使用して縄7本を流し、かつおひきなわ漁の操業を開始した。
 B受審人は、操舵室後方に立って操船に当たり、針路を適宜とし、速力を5.0ノットとして、操縦性能が制限されない状態で、かつおの群を探しながら手動操舵によって続航し、かつおが釣れると船尾甲板で縄を手繰って取り込む作業を繰り返して、かつお約250キログラムを漁獲した。
 10時50分B受審人は、細島灯台から146.5度23.0海里の地点において、針路を090度に定め、かつおの群を探しながら進行し、同時55分同灯台から146度23.2海里の地点に達して、船尾から引いていた縄が張ってかつおが釣れたことに気付き、周囲を一見して他船を認めなかったことから、接近する他船はいないものと思い、遠隔管制器を持って船尾甲板に移動し、船尾方を向いて釣れた縄を手繰り、かつおの取り込みに当たった。
 10時57分少し前B受審人は、細島灯台から145.5度23.3海里の地点において、左舷船首11度1,000メートルのところに、前路を右方に横切る態勢の敏栄丸を視認し得る状況となり、その後、その方位に明確な変化がなく、衝突のおそれのある態勢で接近していたが、船尾方を向いたままかつおの取り込みを続け、前方の見張りを行っていなかったので、このことに気付かずに続航した。
 こうして、B受審人は、10時58分少し過ぎ細島灯台から145.3度23.4海里の地点に達して、敏栄丸が左舷船首11度500メートルのところに、避航動作をとらないまま衝突のおそれのある態勢で接近していたが、依然として、船尾方を向いたままかつおの取り込みに気を取られ、前方の見張りを行っていなかったので、このことに気付かず、モーターサイレンを吹鳴して警告信号を行うことも、右転するなどして衝突を避けるための協力動作をとることもせずに進行中、若戎丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、敏栄丸は、船首部に破口を伴う損傷を生じ、若戎丸は、船尾ブルワークなどに損傷を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、宮崎県細島港南東方沖合の漁場において、両船が互いに進路を横切り、衝突のおそれがある態勢で接近中、敏栄丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る若戎丸の進路を避けなかったことによって発生したが、若戎丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、宮崎県細島港南東方沖合の漁場において、ひきなわ漁を行う場合、接近する他船を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、右舷側でひきなわ漁船が操業していることを知っていたものの、いずれも距離が離れているので、しばらくの間はそれらの船と接近することはないものと思い、他船が操業していない左舷側を注視して、かつおの群を探すことに気を取られ、右舷側の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、右方から衝突のおそれのある態勢で接近する若戎丸に気付かず、同船の進路を避けずに進行して衝突を招き、敏栄丸の船首部に破口を伴う損傷を、若戎丸の左舷船尾ブルワークなどに損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、宮崎県細島南東沖合の漁場において、ひきなわ漁を行う場合、接近する他船を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、釣れたかつおを取り込むため、操舵室から船尾甲板に向かうに当たり、周囲を一見して他船を認めなかったことから、接近する他船はいないものと思い、船尾甲板で船尾方を向いたまま釣れたかつおの取り込みに気を取られ、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、左方から衝突のおそれのある態勢で接近する敏栄丸に気付かず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとることもせずに進行して衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:35KB)





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