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平成12年門審第93号
件名

漁船第一美保丸漁船秀丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年6月14日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(米原健一、西村敏和、島友二郎)

理事官
畑中美秀

受審人
A 職名:第一美保丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
美保丸・・・球状船首部に破口
秀 丸・・・左舷側に転覆、のち廃船

原因
美保丸・・・見張り不十分、船員の常務(新たな危険)不遵守

主文

 本件衝突は、第一美保丸が、第三船を避航するにあたり、見張り不十分で、右舷前方近距離で錨泊中の秀丸に向けて針路を転じたことによって発生したものである。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年10月1日14時00分
 山口県見島北方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第一美保丸 漁船秀丸
総トン数 19トン 4.97トン
全長 24.93メートル  
登録長   12.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 558キロワット  
漁船法馬力数   90

3 事実の経過
 第一美保丸(以下「美保丸」という。)は、船体後部に操舵室を有し、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.60メートル船尾2.40メートルの喫水をもって、平成11年10月1日09時30分山口県特牛港(こっといこう)を発し、日本海中央部にある大和堆の漁場に向かった。
 A受審人は、出航操船に引き続いて単独の船橋当直にあたり、10時11分角島灯台から277度(真方位、以下同じ。)1.2海里の地点に達したとき、針路を028度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で進行した。
 12時41分少し過ぎA受審人は、見島北灯台から220度6.0海里の地点に差し掛かったとき、見島周辺海域の広範囲にわたって密集している多数の漁船を認め、機関を半速力前進に落として8.0ノットの対地速力とし、操舵を手動に切り替え、操舵室左舷側の機関操縦レバーの後方に立ち、遠隔操舵装置により操船にあたって続航した。
 その後、A受審人は、前示海域を適宜避航しながら通過し、13時57分わずか過ぎ見島北灯台から012度4.5海里の地点に至り、約15隻の漁船がそれぞれ900メートルばかりの間隔で錨泊などしている海域を航行していたとき、右舷船首2度700メートルのところに秀丸を視認でき、間もなく船首から延びる錨索の状態などから、同船が錨泊中であることを認め得る状況であったが、同じころ右舷前方に前路を左方に横切る態勢で接近する漁船(以下「第三船」という。)を認め、同船の動静に気を奪われ、周囲の見張りを十分に行わず、秀丸を見落としたまま進行した。
 13時59分半少し過ぎA受審人は、第三船が間近に近づいたとき、同船の船尾方を通過するつもりで針路を048度に転じたところ、秀丸が正船首80メートルとなり、衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、依然右舷方の第三船に気を奪われ、同船を注視し、周囲の見張り不十分で、このことに気付かないまま続航した。
 A受審人は、14時00分わずか前第三船が右舷方から左舷方に替わったので、目を同船から正船首方に転じたところ、船首から20メートルのところに迫った秀丸に初めて気付き、急いで左舵一杯をとったが、及ばず、14時00分見島北灯台から013度4.8海里の地点において、美保丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、秀丸の右舷中央部に直角に衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の東風が吹き、視界は良好で、潮候は上げ潮の末期であった。
 また、秀丸は、船体後部に操舵室を有し、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、船長B及び同人の息子が甲板員で乗り組み、操業の目的で、船首0.25メートル船尾1.50メートルの喫水をもって、同日10時30分山口県通漁港を発し、見島北方沖合5海里の漁場に向かった。
 B船長は、12時15分ころ目的の漁場に至り、しばらく魚群探索を行ったのち、13時00分前示衝突地点付近で重さ70キログラムの錨を水深78メートルの海底に投じ、直径20ミリメートルの合成繊維製錨索を90メートル延出し、錨泊中の船舶が掲げる形象物を表示しないで錨泊を開始した。
 錨泊後、B船長及び甲板員は、いか釣りの準備を行い、昼食を終えたところで、操業を開始する17時00分まで休息することとし、13時40分ころから同船長は操舵室の畳敷きの区画で、甲板員は同室下の船員室でそれぞれ横になった。
 B船長は、そのまま横になって休息していたところ、13時59分半少し過ぎ船首が138度を向いていたとき、船尾方を航過する態勢で北上していた美保丸が、右舷正横80メートルの地点で自船に向け針路を転じて接近したものの、どうすることもできないまま、秀丸は、船首を138度に向けた状態で、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、美保丸は、球状船首部に破口を生じたが、のち修理され、秀丸は、左舷側に転覆して機関及び機器類に濡損並びに船体中央部右舷船底外板に破口をそれぞれ生じ、他の漁船によって通漁港に引き付けられたが、のち廃船処理された。また、B船長は、転覆直後操舵室から海中に投げ出され、甲板員は、船員室に一時閉じ込められたものの自力で脱出し、それぞれ僚船に救助されたが、いずれも心的外傷後ストレス障害を負った。

(原因)
 本件衝突は、山口県見島北方沖合の多数の漁船が操業する海域において、北上中の美保丸が、第三船を避航するにあたり、見張り不十分で、右舷前方近距離で錨泊中の秀丸に向けて針路を転じたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、山口県見島北方沖合の多数の漁船が操業する海域において、漁場に向け北上中、前路を左方に横切る態勢で間近に近づいた第三船を避航する場合、近距離で錨泊中の他船に向けて針路を転じることがないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、第三船の動静に気を奪われ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、右舷前方で錨泊中の秀丸を見落とし、近距離で同船に向けて針路を転じて同船との衝突を招き、美保丸の球状船首部に破口を生じさせ、秀丸を左舷側に転覆させ機関などに濡損及び船体中央部右舷船底外板に破口をそれぞれ生じさせて廃船に至らせ、B船長及び甲板員のいずれにも心的外傷後ストレス障害を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。 


参考図
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