日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成12年門審第84号
件名

貨物船三島丸橋桁衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年6月6日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(西村敏和、橋本 學、相田尚武)

理事官
千手末年

受審人
A 職名:三島丸船長 海技免状:四級海技士(航海)(履歴限定)
B 職名:三島丸機関長 海技免状:五級海技士(航海)

損害
三島丸・・・後部マスト先端部を曲損、同マスト支持索を切損、家島橋は橋桁中央部に擦過傷、標識板を曲損

原因
三島丸・・・マストと橋桁との間隔の確認不十分

主文

 本件橋桁衝突は、マストと橋桁との間隔の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年5月17日07時00分
 大分港鶴崎泊地

2 船舶の要目
 船種船名 貨物船三島丸
 総トン数 199トン
 全長 56.12メートル
 機関の種類 ディーゼル機関
 出力 735キロワット

3 事実の経過
 三島丸は、バウスラスタを備えた船尾船橋型の鋼製貨物船で、A及びB両受審人が乗り組み、原塩600トンを積載し、船首2.70メートル船尾3.20メートルの喫水をもって、平成12年5月16日11時45分広島県安芸郡音戸町三ツ子島を発し、大分港鶴崎泊地の住友化学工業株式会社大分工場専用岸壁(以下「専用岸壁」という。)に向かった。
 A受審人は、通常は甲板員として乗り組んでいるが、船長である父親の休暇下船に伴って船長職に就いたものの、離着岸操船に不慣れであったことから、旧三島丸(総トン数182トン)において約2年半の船長経験を有するB受審人に港内操船を委ね、自らは甲板上で離着岸作業に当たることにしていた。
 同日19時00分ごろA受審人は、鶴崎泊地に到着し、操船をB受審人に委ね、自らは甲板上で着岸準備作業に当たり、同泊地を南下して小中島川に至り、同時25分大分市大字三佐所在の三佐三角点(大分港鶴崎西防波堤灯台から150.5度〈真方位、以下同じ。〉2,230メートル)から163度570メートルの地点に当たる、小中島川右岸の鶴崎東岸壁第5岸(以下「東5岸」という。)に、時間調整のため左舷付けで係留した。
 ところで、鶴崎泊地奥部は、小中島川の河口にあたり、同川右岸には鶴崎東岸壁が、左岸には鶴崎西岸壁があって、それぞれ南北方向に延びており、両岸壁間の川幅は約200メートルで、東5岸の南方約280メートルのところに家島橋が東西方向に架設されていた。同橋中央部の橋桁下端には、「桁下高16M」と記載された標識板が取り付けられていて、橋桁下端の略最高高潮面上の高さ(以下「桁下高」という。)が16メートルであることが示され、通航船から視認できるようになっているほか、三島丸に備付けの海図第1247号にも桁下高が図載されており、A及びB両受審人は、同年2月中旬に今回と同様に原塩600トンを積載し、家島橋を通過して専用岸壁に着岸したことがあったので、桁下高が16メートルであることを知っていた。
 また、三島丸は、前後部2本のマストを有し、船首甲板後端にある前部マストは、発航時の喫水で水面上の高さ(以下「マスト高」という。)が13.0メートルあり、船首端から47.5メートル後方にある後部マストは、マスト高が17.8メートルあって、両マストはいずれも油圧起倒式で、後部マストは先端から6.5メートル下方のところで後方に倒すことができるようになっていた。
 翌17日早朝、A受審人は、離岸に先立って同岸壁での潮高から大潮期のほぼ高潮時であることを知ったが、前回家島橋を通過した際、甲板上から見ていて後部マストと橋桁との間隔に余裕があったことから、今回は高潮時であるものの、同橋梁下を無難に通過することができるものと思い、備付けの一般配置図及び潮汐表により、マスト高及び潮高を調査して、後部マストと橋桁との間隔を確認しなかったばかりか、B受審人に操船を委ねるに当たり、同間隔を確認するよう指示しなかった。
 一方、B受審人は、前回家島橋を通過した際、甲板上から見ていて後部マストと橋桁との間隔に余裕があったことから、今回は高潮時であるものの、同橋梁下を無難に通過することができるものと思い、A受審人に対して同間隔を確認するよう進言しなかったばかりか、自らも確認しなかった。
 そのため、A及びB両受審人は、いずれも後部マストが橋桁下端よりも少し高い状態となっていることに気付かなかった。
 06時50分A受審人は、操船をB受審人に委ね、自らは甲板上で離岸作業に就き、起倒式の後部マストを倒さないまま東5岸を離岸し、鶴崎泊地最奥部の専用岸壁に向けて港内移動を開始した。
 B受審人は、操舵装置の後方に立って操船に当たり、機関を毎分200回転の極微速力前進にかけ、徐々に小中島川の中央部に向けて斜航し、06時58分少し前、三佐三角点から172度640メートルの川幅のほぼ中央部に達し、家島橋まで180メートルとなったところで、同橋中央部の標識板に向く針路を180度に定め、2.5ノットの対地速力で、手動操舵により川筋に沿って進行した。
 こうして、B受審人は、06時59分少し前、家島橋まで約100メートルのところに接近したが、依然として後部マストが橋桁下端よりも高い状態となっていることに気付かないまま続航し、同時59分半、前部マストが橋梁下に入った時、後部マストの高さが気にかかり、一旦機関を微速力後進にかけたが、間もなく前部マストと橋桁との間隔から、後部マストが橋桁下端よりも低く、無難に通過することができるものと判断し、機関を中立に戻して前進惰力で進行中、07時00分三佐三角点から174度810メートルの地点において、原針路及び約2ノットの速力で、三島丸の後部マスト先端部が家島橋中央部の橋桁に衝突した。
 当時、天候は曇で風はほとんどなく、潮候は高潮時にあたり、潮高は約196センチメートルで、視界は良好であった。
 B受審人は、衝突の衝撃により切断した後部マスト支持索の落下音を聞いて衝突に気付いたが、そのまま家島橋を通過して専用岸壁に着岸した。
 衝突の結果、三島丸は、後部マスト先端部を曲損したほか、同マスト支持索を切損し、家島橋は、橋桁中央部に擦過傷を生じたほか、標識板を曲損したが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件橋桁衝突は、高潮時の大分港鶴崎泊地において、鶴崎東岸壁から同泊地最奥部に移動するに当たり、小中島川に架かる家島橋を通過する際、後部マストと橋桁との間隔の確認が不十分で、起倒式の後部マストを倒さないまま同橋梁下を進行したことによって発生したものである。
 運航が適切でなかったのは、船長が、後部マストと橋桁との間隔を確認しなかったことと、操船を委ねられた機関長が、船長に対して同間隔を確認するよう進言しなかったばかりか、自らも確認しなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、高潮時の大分港鶴崎泊地において、鶴崎東岸壁から同泊地最奥部に移動するに当たり、小中島川に架かる家島橋を通過する場合、同橋の桁下高が16メートルであり、大潮期の高潮時であることを知っていたのであるから、一般配置図及び潮汐表により後部マストと橋桁との間隔を確認すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、前回同橋を通過した時、後部マストと橋桁との間隔が十分にあったので、今回も無難に通過することができるものと思い、同間隔を確認しなかった職務上の過失により、後部マストが橋桁下端よりも高いことに気付かず、起倒式の同マストを倒さないまま進行して橋桁との衝突を招き、三島丸の後部マスト先端部に曲損などを生じさせ、家島橋の橋桁に擦過傷などを生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、高潮時の大分港鶴崎泊地において、鶴崎東岸壁から同泊地最奥部に移動するに当たり、船長から操船を委ねられ、小中島川に架かる家島橋を通過する場合、同橋の桁下高が16メートルであり、高潮時であることを知っていたのであるから、後部マストと橋桁との間隔を確認するよう船長に対して進言するなり、自ら一般配置図及び潮汐表により同間隔を確認すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、前回同橋を通過した時、後部マストと橋桁との間隔が十分にあったので、今回も無難に通過することができるものと思い、船長に対して同間隔を確認するよう進言することも、自ら確認することもしなかった職務上の過失により、後部マストが橋桁下端よりも高いことに気付かず、起倒式の同マストを倒さないまま進行して橋桁との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION