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平成13年広審第8号
件名

油送船錦世丸漁船第二十八幸徳丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年6月21日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(坂爪 靖、勝又三郎、中谷啓二)

理事官
岩渕三穂

受審人
A 職名:錦世丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:第二十八幸徳丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)

損害
錦世丸・・・左舷中央部に破口
幸徳丸・・・球状船首に亀裂を伴う凹損

原因
錦世丸・・・臨機の処置不十分、船員の常務(前路進出)不遵守

主文

 本件衝突は、錦世丸が、操舵装置故障時の緊急措置が不十分で、第二十八幸徳丸の前路に進出したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年5月13日16時00分
 瀬戸内海備後灘

2 船舶の要目
船種船名 油送船錦世丸 漁船第二十八幸徳丸
総トン数 198トン 168トン
全長 47.40メートル  
登録長   34.75メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 625キロワット 735キロワット

3 事実の経過
 錦世丸は、神戸港を基地として本州南岸から九州にかけての諸港間において、専ら食用油の輸送に従事する船尾船橋型の鋼製液体化学薬品ばら積船兼油タンカーで、A受審人ほか3人が乗り組み、空倉のまま、船首0.3メートル船尾2.7メートルの喫水をもって、平成11年5月13日06時00分神戸港を発し、関門港に向かった。
 ところで、A受審人は、自動操舵で航行するとき以外は常時ノンフォローアップ操舵で操舵を行っていたことから、神戸港出港前の操舵テストを電磁弁を作動させる電動油圧操舵装置の手動、自動、ノンフォローアップ及び遠隔操舵のうちノンフォローアップ操舵で行い、異常のないことを確かめた。また、前示操舵装置故障時には操舵室で簡単に舵輪で手動油圧による応急操舵がとれるようになっており、同人もこのことを承知していた。
 発航後、A受審人は、船橋当直を自らと一等航海士の2人で単独4時間交替で行って瀬戸内海を西行し、14時20分佐柳島南東方約1海里の地点で昇橋して一等航海士から当直を引き継ぎ、そのころ船首方約1海里に第二十八幸徳丸(以下「幸徳丸」という。)を初めて視認し、同船が自船より速力が遅い同航船であることを知り、同時48分半六島灯台から163度(真方位、以下同じ。)0.9海里の地点に達したとき、針路を備後灘の推薦航路線に沿う253度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて11.0ノットの速力で、操舵室前部中央の舵輪後方に置いたいすに腰掛けて進行した。
 15時50分A受審人は、高井神島灯台から053度3.4海里の地点に達したとき、幸徳丸を左舷船首26度133メートルに見るようになり、同船に同じ針路で次第に接近し、同時55分同船が左舷船首50度74メートルとなり、同時57分自船の船橋が幸徳丸の船尾に50メートル隔てて並び、その後同船の右舷側を無難に追い越す態勢で続航した。
 15時59分半A受審人は、高井神島灯台から034度1.9海里の地点に達し、幸徳丸を左舷船尾64度63メートルに見るようになっとき、電源の異常を示す警報ブザーも鳴らないで突然自船が左転し始めたことに気付き、舵角指示器を見たところ、左舵5ないし10度を示したままだったので、いすから立ち上がって自動操舵からノンフォローアップ操舵に切り換えた。
 A受審人は、直ちにノンフォローアップ操舵レバーを右に倒して右転を試みたものの、操舵装置の故障で左舵がとられたままの状況となったが、ノンフォローアップ操舵で舵をとることに気をとられ、速やかに応急操舵に切り換えて右舵をとるとともに機関を後進にかけて行きあしを止めるなどの操舵装置故障時の緊急措置をとらないで、電動油圧操舵系統に異常が生じたことに気付かないまま、ノンフォローアップ操舵レバーと操舵切換スイッチを繰り返し操作し、次第に回頭速度を早めながら幸徳丸の前路へ向けて左回頭を続けた。
 16時00分少し前A受審人は、自船が急速に左転し、幸徳丸が至近に迫っていることに気付き、衝突の危険を感じて慌てて左舷ウイングに出て、同船に向かって右転するよう手で合図を送るとともに機関を全速力後進としたが効なく、16時00分高井神島灯台から033度1.8海里の地点において、錦世丸は、船首が211度を向いて約9ノットの速力となったとき、その左舷中央部に幸徳丸の船首が後方から42度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の西風が吹き、視界は良好であった。
 また、幸徳丸は、主として九州や瀬戸内海の養殖場から神奈川県三崎漁港への活魚輸送に従事する鋼製漁船で、B受審人ほか3人が乗り組み、空倉のまま、船首0.8メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、同日12時00分香川県井島西岸沖合の養殖場を発し、高知県柏島の養殖場に向かった。
 B受審人は、発航操船に引き続いて船橋当直に当たり、甲板員を見張りに就け、14時43分六島灯台から148度1.0海里の地点に達したとき、針路を前示推薦航路線に沿う253度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて10.5ノットの速力で、操舵室中央左舷側に置いたいすに腰掛けて進行した。
 15時40分ごろB受審人は、高井神島灯台から060度5.0海里ばかりの地点で、甲板員を食事の支度などのために降橋させ、同時50分同灯台から053度3.3海里の地点に達したとき、右舷船尾26度133メートルに錦世丸が自船の右舷側近距離を追い越す態勢で接近していたことに気付かないまま続航した。
 15時55分B受審人は、高井神島灯台から046.5度2.6海里の地点で、右舷船尾50度74メートルに錦世丸を初めて視認し、同船が自船と同じ針路で、自船より速力が速い追越し船であることを知り、同時57分自船の船尾が錦世丸の船橋と50メートル隔てて並び、その後同船が自船の右舷側を無難に追い越していくものと思い、そのまま進行したところ、同時59分半錦世丸を右舷船首64度63メートルに見るようになったとき、突然同船が自船の右舷船首方に向けて左転を始め、前路に進出するのを認めて衝突の危険を感じ、いすから立ち上がって急ぎ全速力後進としたが効なく、ほぼ原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、錦世丸は、左舷中央部に破口を生じて浸水し、幸徳丸は、球状船首に亀裂(きれつ)を伴う凹損を生じ、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、錦世丸及び幸徳丸の両船が、瀬戸内海備後灘の推薦航路線に沿って相前後して西行中、錦世丸が、操舵装置の故障で左舵がとられたままの状況となった際、緊急措置が不十分で、無難に替わる態勢にあった幸徳丸の前路に進出したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、瀬戸内海備後灘の推薦航路線に沿って西行中、操舵装置が故障して左舵がとられたままの状況となった場合、速やかに応急操舵に切り換えて右舵をとるとともに機関を後進にかけて行きあしを止めるなどの操舵装置故障時の緊急措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、ノンフォローアップ操舵で舵をとることに気をとられ、速やかに操舵装置故障時の緊急措置をとらなかった職務上の過失により、無難に替わる態勢にあった左舷後方を後続する幸徳丸の前路に進出して衝突を招き、錦世丸の左舷中央部に破口を生じて浸水させ、幸徳丸の球状船首に亀裂を伴う凹損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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