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平成12年広審第40号
件名

引船新洋丸漁船第十一福宝丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年6月15日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(竹内伸二、西林 眞、横須賀勇一)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:新洋丸二等航海士 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:第十一福宝丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
指定海難関係人
C 職名:第十一福宝丸甲板員

損害
新洋丸・・・船首部に破口及び凹損
福宝丸・・・右舷船首部に破口、浸水、のち沈没

原因
福宝丸・・・動静監視不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
新洋丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、横切りの航法(狭量動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第十一福宝丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る新洋丸の進路を避けなかったことによって発生したが、新洋丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年5月11日02時20分
 島根県多古鼻北方隠岐海峡

2 船舶の要目
船種船名 引船新洋丸 漁船第十一福宝丸
総トン数 498.86トン 59.45トン
全長 50.50メートル  
登録長   25.43メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 2,942キロワット  
漁船法馬力数   350

3 事実の経過
 新洋丸は、主に遭難船舶や台船などの曳航業務に従事する引船で、A受審人ほか7人が乗り組み、回航の目的で、船首3.45メートル船尾4.50メートルの喫水をもって、平成11年5月8日10時30分神奈川県横須賀港を発し、関門海峡経由で京都府舞鶴港に向かった。
 A受審人は、00時から04時及び12時から16時までの単独船橋当直に従事し、同月10日23時45分島根県日御碕北方3.5海里の地点で昇橋し、航行中の動力船の灯火が表示されていることを確かめ、前直の船長からいか釣り漁船に注意するよう告げられて船橋当直を引継ぎ、翌11日00時00分出雲日御碕灯台から000度(真方位、以下同じ)3.6海里の地点で、針路を065度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、11.0ノットの対地速力で進行した。
 定針後A受審人は、左舷前方の隠岐海峡に多数のいか釣り漁船群の集魚灯を認め、レーダーにより同漁船群が予定針路線の2ないし3海里左側でほぼ停止していることを知り、その後視界が良かったので主として目視によって見張りにあたり、島根県北岸に沿って東行した。
 02時16分少し過ぎA受審人は、多古鼻灯台から000度3.9海里の地点に達し、針路を085度に転じたとき、左舷前方の数隻のいか釣り漁船群中、左舷船首17度1.2海里のところに第十一福宝丸(以下「福宝丸」という。)の白、緑2灯を視認することができ、その後同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが、同漁船群の灯火をいちべつし、いか釣り漁船が操業中で、沖合から前路を横切って航行する他船はいないと思い、左方の見張りを十分に行わず、このことに気付かないまま船橋後部の海図室に赴き、GPSプロッタに緯度経度で示された船位を使用海図に記入する作業に取り掛かった。
 02時19分半A受審人は、福宝丸が避航動作をとらないまま300メートルに接近したが、依然海図室に入ったまま見張りを行わなかったので同船の接近に気付かず、警告信号を行うことも、機関を後進にかけるなど協力動作をとることもせず、新洋丸は、原針路、原速力のまま進行中、02時20分多古鼻灯台から010度4.0海里の地点において、その船首が、福宝丸の右舷船首に前方から15度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で、風力2の北東風が吹き、波高約1.5メートルのうねりがあった。
 また、福宝丸は、沖合底びき網漁業に従事する鋼製漁船で、B受審人及びC指定海難関係人ほか6人が乗り組み、操業の目的で、船首0.8メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、同年5月8日05時30分島根県恵曇港を発し、08時15分隠岐海峡の漁場に至り、その後同海峡を移動しながら底引き網漁に従事し、越えて11日01時35分多古鼻灯台から031度10.0海里の地点で操業を終え、漁獲物2トンを積載し、航行中の動力船の灯火を表示して同地点を発進し、帰途についた。
 B受審人は、発進後しばらく自ら船橋当直に従事したのち、01時50分多古鼻灯台から027度8.0海里の地点に達したとき、針路を225度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、8.5ノットの対地速力で進行し、恵曇港の近くまでC指定海難関係人に単独で船橋当直を行わせることとしたが、平素接近する他船を早目に避けるように指導していたので同人に任せておけば大丈夫と思い、接近する他船を認めたときは適切な措置をとることができるよう、速やかに船長に報告することを指示することなく、その後船橋当直をC指定海難関係人に命じ、操舵室後部のベッドで休息した。
 当直交替後C指定海難関係人は、B受審人が予めGPSプロッタに入力していた予定針路線から外れないよう、ときどき同プロッタで船位を確認しながら、レーダー及び肉眼で周囲の見張りにあたり、02時12分多古鼻灯台から017度5.1海里の地点に達したとき、右舷船首17度2.5海里に新洋丸のレーダー映像を探知し、その後間もなく同船のマスト灯と舷灯を認め、同船が反航船で自船に接近する状況であることを知ったが、このことを速やかにB受審人に報告しなかった。
 02時16分少し過ぎC指定海難関係人は、新洋丸の白、白、紅3灯を右舷船首23度1.2海里に認めるようになり、その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近したが、このまま無難に航過できると思い、依然B受審人に報告することなく、同船に対する動静監視を十分行わず、早期に右転して同船の進路を避ける措置がとられないまま続航した。
 02時20分少し前C指定海難関係人は、至近に迫った新洋丸を見て衝突の危険を感じ、同船から離れようとして自動操舵のまま針路設定ダイヤルを左に少し回したものの替わしきれないと感じ、すぐに同ダイヤルを右に一杯回して機関を後進にかけたが及ばず、福宝丸は、250度を向首したとき、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、新洋丸は、船首部に破口及び凹損を生じ、のち修理され、福宝丸は、右舷船首部に破口などを生じて浸水し、02時40分ごろ衝突地点付近で沈没したが、乗組員は全員新洋丸に救助された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、島根県多古鼻沖合の隠岐海峡において、操業を終えて漁場から恵曇港に向け帰航中の福宝丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る新洋丸の進路を避けなかったことによって発生したが、新洋丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 福宝丸の運航が適切でなかったのは、船長が、無資格の船橋当直者に対し、他船と接近する状況となったときは速やかに報告するよう指示しなかったことと、船橋当直者が、新洋丸と接近することを船長に報告せず、動静監視を十分行わなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
 B受審人は、夜間、島根県多古鼻沖合の隠岐海峡において、操業を終えて漁場から恵曇港に向け帰航中、無資格者に船橋当直を行わせる場合、他船と接近する状況となったとき、適切な衝突回避措置をとることができるよう、速やかに報告することを指示すべき注意義務があった。しかし、同人は、平素接近する他船を早目に避けるように指導していたので任せておけば大丈夫と思い、速やかに報告することを指示しなかった職務上の過失により、新洋丸が接近しても船橋当直者からの報告を受けることができず、その進路を避ける措置をとることができないまま進行して同船との衝突を招き、新洋丸の船首部に破口及び凹損を、福宝丸の右舷船首部に破口などの損傷をそれぞれ生じさせ、福宝丸を沈没させるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用し、同人を戒告する。
 A受審人は、夜間、単独で船橋当直に従事し、多数のいか釣り漁船が操業する島根県多古鼻沖合の隠岐海峡を航行する場合、前路を右方に横切る福宝丸を見落とさないよう、左方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、左舷前方の漁船群の灯火をいちべつし、いか釣り漁船が操業中で、沖合から前路を横切って航行する他船はいないと思い、左方の見張りを十分行わなかった職務上の過失により、福宝丸が避航動作をとらないまま接近することに気付かず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとることもしないで同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるとともに、福宝丸を沈没させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C指定海難関係人が、単独で船橋当直に従事中、右舷船首方から接近する新洋丸を認めた際、速やかに船長に報告せず、動静監視を十分行わなかったことは本件発生の原因となる。
 C指定海難関係人の所為に対しては、同人が十分反省し、船長への報告を励行して再発防止に心がけている点に徴し、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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