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平成12年神審第126号
件名

貨物船ほくと貨物船モーニング ブリーズ衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年6月21日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(大本直宏、西山烝一、小金沢重充)

理事官
釜谷奨一

受審人
A 職名:ほくと船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:モーニング ブリーズ水先人 水先免状:阪神水先区

損害
ほくと・・・右舷中央部に破口を伴う凹傷
モ号・・・船首部に凹傷

原因
ほくと・・・狭視界時の航法(信号・速力・レーダー)不遵守
モ号・・・狭視界時の航法(信号・速力・レーダー)不遵守

主文

 本件衝突は、ほくとが、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、モーニング ブリーズが、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年3月4日15時43分
 大阪港堺泉北区

2 船舶の要目
船種船名 貨物船ほくと 貨物船モーニング ブリーズ
総トン数 8,581トン 24,278トン
全長 167.72メートル 169.115メートル
24.00メートル 25.60メートル
深さ 16.10メートル 10.01メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 19,659キロワット 8,693キロワット

3 事実の経過
 ほくとは、船首端から操船位置まで約44メートルの、それぞれ17.5トン推力のバウ、スターン両スラスタを備え、北海道苫小牧港、茨城県常陸那珂港、大阪港間の定期航路に従事する船首船橋型の鋼製ロールオン・ロールオフ貨物船で、A受審人ほか10人が乗り組み、雑貨搭載のシャーシー123台を載せ、船首6.20メートル船尾6.50メートルの喫水をもって、平成12年3月3日17時50分常陸那珂港を発し、大阪港堺泉北区の大津南泊地に所在する助松ふ頭第2号岸壁に向かった。
 大津南泊地は、東側の助松ふ頭と西側の汐見ふ頭の各岸壁により挟まれた水域で、汐見ふ頭北端から北方に、長さ1,200メートルの泉北大津南防波堤(以下、防波堤及び航路標識の各名称は「泉北大津」の冠称を省略する。)が伸び、同堤北端に南防波堤灯台があって、南防波堤西方に埋立処分場が広がり、同処分場の北端に泉大津沖埋立処分場防波堤灯台があって、南防波堤灯台の東方沖から北西方に、幅300メートルの水路(以下「南水路」という。)を設け、南第1号灯浮標から南第5号灯浮標までを連ね南水路筋を示していた。
 当時、泉大津沖埋立処分場防波堤灯台付近の東方水域には、南水路筋西側境界線から最大170メートル東方となる地点を一角とし、埋立護岸築造工事区域が設けられ、同境界線から80メートル入った付近に、起重機船の北東端が占位して工事中であった。
 A受審人は、翌4日10時30分潮岬灯台沖を通過したとき、やや視界不良の状況であることを知って昇橋し、13時50分友ケ島水道通峡時に自ら操船指揮を執り、船長補佐に当直航海士を、操舵員に甲板手を配して大阪湾に入り、15時10分機関用意として関西国際空港沖を北上した。
 15時25分A受審人は、南水路入口まで2海里の地点に達したとき入港部署を発令し、船橋配置として、船長補佐に三等航海士、操舵員に甲板手、機関と両スラスタの操作に機関長を就け、船首に一等航海士と甲板長、船尾に二等航海士と甲板手をそれぞれ配し、航行中の動力船の灯火を表示して、手動操舵により進行した。
 15時36分半A受審人は、機関を半速力前進にかけ10.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、南水路入口の南第1号灯浮標寄りを通過し、同時37分南防波堤灯台から329度(真方位、以下同じ。)1,760メートルの地点において、針路を130度に定め、そのころ、雨ともやのため、視程0.5海里の視界制限状態であったが、霧中信号を行うことも、安全な速力とすることもなく進行した。
 15時37分半A受審人は、南防波堤灯台から331度1,620メートルの地点で、3海里レンジとしたARPA付デイライトレーダー画面上、右舷船首17度1.2海里に、モーニング ブリーズ(以下「モ号」という。)の映像を初めて探知し、同映像のベクトル表示を見て北上中であることを認めたが、いずれ左舷を対して航過するものと思い、南水路南方付近に埋立護岸築造工事区域が設定され、水路幅が狭められている事情を知っていたのであるから、モ号と著しく接近することを避けることができない状況となる時機を判断できるよう、レーダーによる動静監視を十分に行うことなく、機関を微速力前進とし9.0ノットの速力で続航した。
 A受審人は、15時39分南防波堤灯台から338度1,220メートルの地点に達したとき、モ号のレーダー映像が右舷船首19度1,470メートルとなり、モ号に著しく接近する状況となったが、依然レーダーによる動静監視不十分で、その状況に気付かず、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、極微速力前進と半速力前進間の各機関操作を小刻みに行いながら進行した。
 15時40分A受審人は、南第3号、南第4号両灯浮標間の中央部に差し掛かり、針路を157度に転じたが、モ号との接近模様に依然気付かず、直ちにサイドスラスタを併用して、行きあしを停止することなく、8.0ノットの速力で続航中、同時41分南防波堤灯台から350度740メートルの地点で、左舷船首10度560メートルに、モ号の北上模様を初認し、ようやく衝突の危険を感じると同時に、右舷前方400メートルに、起重機船と泉大津沖埋立処分場防波堤灯台付近とが迫っているのを認めた。
 こうして、A受審人は、左舵一杯をとり左転を開始し、15時42分航海全速力前進として左回頭惰力を増し避航を試みたが及ばず、15時43分南防波堤灯台から020度550メートルの地点において、左回頭中の船首が090度に向いたとき、原速力のまま、ほくとの右舷中央部に、モ号の船首部が直角に衝突した。
 当時、天候は雨で風力2の北東風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、雨ともやのため視程は0.5海里であった。
 また、モ号は、船首端から操船位置まで約28メートルの、船首船橋型の鋼製自動車運搬船で、B受審人が水先人として嚮導(きょうどう)を行い、船長キム ユンシンほか22人が乗り組み、車両396台を載せ、船首4.65メートル船尾7.25メートルの喫水をもって、同日15時25分汐見ふ頭第6号岸壁を発し、名古屋港に向かった。
 B受審人は、雨ともやのため、視程0.7海里の視界制限状態であることを知って操船に当たり、霧中信号を行わず、武丸、宝興丸両引船を使用して離岸した後、300メートル前方に両引船を先航させ、キム船長がレーダー監視に就いている状況下、15時32分東防波堤灯台から163度1,160メートルの地点において、針路を338度に定め、これより先、機関を7.0ノット整定となる微速力前進としていたので、増速中の3.0ノットの速力で、手動操舵により進行した。
 しばらくして、B受審人は、視程が0.5海里に悪化した状況下、安全な速力とせず、機関を半速力前進にかけ、加速しながら続航中、15時37分9.0ノットの速力で、東防波堤灯台に右舷側100メートルで並航したとき、武丸から、ほくとが南第1号、南第2号両灯浮標間を通過して南下中である旨の報告を受け、自らも1.5海里レンジのレーダー画面で左舷船首11度1.4海里に、ほくとの映像を初めて認めたが、同船がそのまま南下することはないと思い、南水路南方付近に埋立護岸築造工事区域が設定され、起重機船により水路幅が狭められている状況を知っていたのであるから、ほくとと著しく接近することを避けることができない状況になる時機を判断できるよう、レーダーに就いていたキム船長を通し、ほくとと南水路筋の各灯浮標との、各映像の関係位置の変化模様を知るなりして、レーダーによる動静監視を十分に行わず、機関を微速力前進位置にして続航した。
 B受審人は、15時39分南防波堤灯台から114度340メートルの地点に達したとき、ほくとのレーダー映像が左舷船首9度1,470メートルとなり、同船に著しく接近することを避けることができない状況となったが、依然レーダーによる動静監視不十分でその状況に気付かず、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、同時40分南防波堤灯台から072度240メートルの地点で、左舷船首6度970メートルに、ほくとを初めて視認し、同船が南第3号、南第4号両灯浮標間を南下中の態勢であることを知ったが、直ちに行きあしを停止することなく、南水路内において左舷を対して替わるのを期待し、小刻みに右転を開始した。
 15時41分B受審人は、南防波堤灯台から35度320メートルの地点で、針路を348度に転じたとき、左舷船首23度560メートルに、ほくとの左転気配を認め、ようやく衝突の危険を感じ、機関停止と全速力後進に次ぎ緊急逆転としたが間に合わず、減速中の船首が000度に向首したとき、約3ノットの前進速力で前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、ほくとは右舷中央部に破口を伴う凹傷を生じ、モ号は船首部に凹傷を生じたが、のちいずれも修理された。

(航法の適用等)
1 航法の適用
 本件は、大阪港堺泉北区の南水路東側境界線の東方近くで発生したので、まず港則法の適用を検討することになる。
 南水路は、関係灯浮標間と南防波堤灯台とにより囲まれ、水路幅300メートルであるが、港則法上の航路に相当しないから、両船にとって同法上の航路航行義務等は存在しない。また、奇数番号各灯浮標の東側海域は、水深が両船の喫水を上回り、錨泊船等を除けば航行可能な水域が広がっていること等の状況を総合すると、同法には適用すべき航法がないので、海上衝突予防法(以下「予防法」という。)により律することになる。
 当時の視程は、雨ともやのために0.5海里であった。この視程は、両船の大きさ、避航動作の可能性等からして、外洋であっても視界制限状態に相当するので、予防法第19条を適用することになる。
 そこで、両船のレーダー初認から衝突までの時間は、ほくと側で5分半、モ号側で6分である点、発生水域が南水路付近である点、ほくとの両スラスタがスタンバイしてあった点及びモ号の右舷側に航行可能水域が広がっていた点に、両船の大きさ、運動性能等を勘案すると、両船の運航模様からして、両船がレーダーによる動静監視を行って反航模様で接近していることを知れば、衝突の4分前、両船間の距離1,470メートルとなったとき、両船が著しく接近する状況となったことを判断でき、速やかに最小限度の速力に減じる措置をとり、かつ、必要に応じて停止して、本件は、衝突を避けることができたものである。
 したがって、本件は、予防法第19条第6項をもって律するのが相当である。
2 主張に対する判断
 モ号側から、本件はほくとの左転による前路進出によって発生したとする旨の主張があるので、以下検討する。
 本件において、前路進出となるには、両船が互いに視野の内にあって、モ号の予見可能性と回避可能性が皆無であるとする前提条件が必要である。モ号の肉眼による初認は、衝突の3分前であった。そのころから、B受審人は、起重機船等で水路幅が狭められていることを知っている状況下、左舷を対して航過できると思い、小刻みに右転をしながら進行した。
 かかる状況は、南第5号灯浮標の東側に航行可能水域が広がっており、右転の動作等を早期に、かつ、大幅にとっていれば、ほくとの左転の有無にかかわらず衝突を回避できる余地が残されていたのであって、前示の前提条件を満足しない以上、前路進出の主張は、認められない。
 なお、ほくとの肉眼による視認は、モ号より1分遅れているが、視界制限状態の見張り能力は、単に視力の優劣をもって測られず、経験等によって相当の個人差がある。そこに両船の大きさ運動性能等を加味した衝突回避可能性を探るとき、この1分間をもって、ほくと側の見張り不十分を排除要因としては摘示できない。
3 その他
 A、B両受審人に対する各質問調書中の供述記載及び当廷における各供述によると、ほくとは、4日に1回の割合で助松ふ頭に入出航する定期航路に従事し、また、モ号の水先人は、南水路の嚮導を200回近くに及び行っていたものである。
 B受審人に対する質問調書中、「当日は午後からの勤務であったが、私が入手した午前中の出入航船のリストには、ほくとが記載されておらず、午後のリストを入手して確認しておけば良かった、相手船と無線で連絡をとっていれば、本件とは別な結果になっていたと思う。」旨の供述記載がある。
 さらに、同人の当廷における、「両船の大きさ等を考慮すると、これまでに、灯浮標に囲まれた南水路内で入航船と航過したことはない、1万トン級のフェリー定期船間でも入出航で出会わないよう、100パーセント南水路の西側海域で出航船を待つことにしている。」旨の供述もある。
 以上のことから、本件発生の背景には、同種海難の再発防止に資するヒントとして、下記の諸点が潜んでいることがわかる。
(1)両船の大きさ等からして、南水路の各灯浮標に囲まれた水域内付近で航過するのは、有視界であっても無難に航過する態勢とは断言できないから、入出航船の情報を的確に入手しておき、事前にVHFにより船舶の態勢を確かめ、両船が予定行動の打ち合わせを行う点
(2)水先人、同会事務所及び嚮導を支援する引船の連携を強める点
(3)水先人会事務所と、ほくと等の関係代理店相互間の情報交換を密にして、水先人と関係船舶船長への周知徹底を図る点

(原因)
 本件衝突は、雨ともやのため、視界制限状態の大阪港堺泉北区の南水路において、両船が霧中信号を行わず安全な速力としないまま航行中、南下中のほくとが、レーダーによる動静監視不十分で、北上中のモ号と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを停止しなかったことと、モ号が、レーダーによる動静監視不十分で、南下中のほくとと著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを停止しなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、自ら操船指揮を執り、雨ともやで視界制限状態の大阪港堺泉北区の南水路を南下中、前路にモ号のレーダー映像を探知し、同映像のベクトル表示により、モ号が北上中であることを認めた場合、同水路南方付近に埋立護岸築造工事区域が設定され、水路幅が狭められている事情を知っていたのであるから、モ号と著しく接近することを避けることができない状況となる時機を判断できるよう、レーダーによる同映像の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同状況の水路内でも左舷を対して替わるものと思い、同動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同時機となったことに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを停止することもなく進行して衝突を招き、ほくとの右舷中央部に破口を伴う凹傷を、モ号の船首部に凹傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、モ号の嚮導に当たり、雨ともやで視界制限状態の大阪港堺泉北区の南水路を北上中、ほくとが同水路入口を南下中である旨の報告を受け、自らも南第1号、南第2号両灯浮標付近に同船のレーダー映像を認めた場合、同水路南方付近に埋立護岸築造工事区域が設定され、起重機船により水路が狭められている状況を知っていたのであるから、ほくとと著しく接近することを避けることができない状況となる時機を判断できるよう、船長の系統的レーダー観察を通し、レーダーによる同映像の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、ほくとがそのまま南下することはないものと思い、同動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同時機となったことに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを停止することもなく進行して衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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