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平成12年横審第129号
件名

漁船長勇丸遊漁船勇潮丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年6月28日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(黒岩 貢、半間俊士、小須田敏)

理事官
古川隆一

受審人
A 職名:長勇丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
B 職名:勇潮丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
長勇丸・・・船首部の塗装が一部剥離
勇潮丸・・・左舷側中央部外板に破口、B受審人が頭部挫創、同乗者2人が打撲等

原因
長勇丸・・・狭い水道の航法(右側通行)不遵守、動静監視不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(主因)
勇潮丸・・・動静監視不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、長勇丸が、狭い水路の右側端に寄って航行せず、かつ、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、勇潮丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年10月20日20時25分
 静岡県田子の浦港

2 船舶の要目
船種船名 漁船長勇丸 遊漁船勇潮丸
総トン数 4.85トン 1.7トン
全長 13.80メートル 8.56メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 44キロワット  
漁船法馬力数 35  

3 事実の経過
 長勇丸は、引き網及び一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が所有者から遊漁用に借り受けて1人で乗り組み、友人3人を乗せ、魚釣りの目的で、船首尾とも0.6メートルの喫水をもって、平成11年10月20日18時15分静岡県田子の浦港の漁港南岸壁を発し、所定の灯火を表示して同港の東方1.5海里付近の釣り場に向かった。
 ところで、田子の浦港は、港奥に大型船用の岸壁を有する駿河湾に面した堀込式の港湾で、先端にそれぞれ灯台を備えた東防波堤及び西防波堤により幅約200メートルの港口を形成し、そこから北西方600メートルばかりの間が、両岸からせり出した構造物により可航幅が約100メートルに減少した狭い水路となり、入航船は、港奥に設置された田子の浦港導灯(前灯)及び同(後灯)を一線に見ることによりほぼその中央を航行することができた。また、水路北西端西側には、防波堤により囲まれた泊地があり、漁港南岸壁は、同泊地南側に位置していた。
 18時30分A受審人は、釣り場に到着して魚釣りを始めたものの、食いが悪かったため20時00分同所を発進して帰途につき、同時20分田子の浦港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から118度(真方位、以下同じ。)140メートルの地点に達し、前示導灯の前灯を後灯よりわずか右側に見るようになったとき、針路を水路南西岸からせり出した泊地出入口近くの突堤(以下「南西岸突堤」という。)先端付近に向首する320度に定め、機関を微速力前進にかけ、4.0ノットの対地速力とし、狭い水路の右側端に寄って航行せず、その左側を手動操舵により進行した。
 20時21分A受審人は、西防波堤灯台から065度50メートルの地点に至ったとき、左舷船首2度700メートルに勇潮丸の強い灯光を南西岸突堤越しに初めて認め、その光力のため舷灯を確認できなかったものの、同時22分にはその灯光を右舷船首3度に見るようになったことから、同船がそのまま港口に向かって続航し、右舷を対して替わるものと思い、その後同船から目を離していたため、まもなく強い灯光が消えて所定の灯火を視認できるようになったことも、同時23分自船が西防波堤灯台から332度240メートルの地点に達したとき、右舷船首7度360メートルとなった勇潮丸が水路右側端に向首し、針路が交差する態勢となったことも知らずに進行した。
 20時23分半A受審人は、西防波堤灯台から329度300メートルの地点に至ったとき、勇潮丸の白、紅2灯を右舷船首7度270メートルに認めることができ、衝突のおそれのある態勢で接近したが、依然、同船から目を離し、動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かず、機関を停止するなど衝突を避けるための措置をとらないまま進行した。
 20時25分少し前A受審人は、突然、船首至近に現れた勇潮丸の船体を認め、直ちにクラッチを切ったが及ばず、20時25分西防波堤から326度480メートルの地点において、長勇丸は、原針路、原速力のまま、その船首が勇潮丸の左舷中央部に前方から50度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の末期であった。
 また、勇潮丸は、FRP製遊漁船で、B受審人が1人で乗り組み、友人2人を乗せ、魚釣りの目的で、船首0.30メートル船尾0.45メートルの喫水をもって、同日20時20分田子の浦港の漁港南岸壁を発し、同港の西方3海里付近の釣り場に向かった。
 出港時B受審人は、所定の灯火のほかに、前部甲板で友人が釣具の準備をしていたため、その照明用に船橋前面に取り付けた笠付き集魚灯を点灯し、2.0ノットの対地速力でそのまま泊地を出て小舵角で右転しながら水路中央部に向かった。
 B受審人は、集魚灯の灯光が見張りの妨げとなることから、港口に向かう針路となるすこし前に同灯を消したところ、西防波堤近くに長勇丸の白灯1灯を初めて認め、同船の舷灯は確認できなかったものの、まもなく港口を向首したころにはその接近模様から入航船であることが分かったため、20時23分西防波堤灯台から329度590メートルの地点に達したとき、水路右側端に寄って左舷対左舷で同船と航過すべく、針路を164度に定め、同速力のまま手動操舵として進行した。
 B受審人は、集魚灯の笠が左舷船首方の見張りを妨げ、長勇丸の灯火を見るには操舵室左舷側から顔を出す必要があったが、右側端に向けたことにより同船と左舷を対して替わるものと思い、その後長勇丸に対する動静監視を十分に行わなかったので、20時23分半西防波堤灯台から328度570メートルの地点に至ったとき、白、緑2灯を表示した長勇丸が針路を変えないまま左舷船首17度270メートルとなり、衝突のおそれのある態勢で接近したことに気付かず、警告信号を行うことも、機関を停止するなど衝突を避けるための措置をとることもなく続航した。
 B受審人は、念のため何回かごく短時間の右舵をとったものの、ほぼ原針路のまま進行中、20時25分少し前そろそろ長勇丸が航過するころと思い操舵室左舷側から顔を出したところ、長勇丸の船体を至近に認め、直ちに機関を全速力前進にかけ、右舵一杯としたが及ばず、190度に向首して5.0ノットの速力となったとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、長勇丸は、船首部の塗装が一部剥離しただけであったが、勇潮丸は、左舷側中央部外板に破口を生じ、のち修理された。また、B受審人が1週間の加療を要する頭部挫創を、同乗者Oが3週間の加療を要する左肩関節脱臼を、同Iが5日間の加療を要する左肩打撲をそれぞれ負った。

(原因)
 本件衝突は、夜間、田子の浦港において、長勇丸が、狭い水路の右側端に寄って航行せず、かつ、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、勇潮丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、田子の浦港において、同港出入口となる狭い水路の左側を北西進中、左舷船首方に勇潮丸の強い灯光を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、その光力のため舷灯を確認できなかったものの、灯光が左舷船首から右舷船首に移動したことから、同船がそのまま港口に向かって進行し、右舷を対して替わるものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、その後勇潮丸が強い灯光を消し、所定の灯火が視認できる状態で水路右側端に向首し、衝突のおそれのある態勢で接近したことに気付かず、衝突を避けるための措置をとらないまま進行して同船との衝突を招き、自船船首部の塗装剥離及び勇潮丸の左舷側中央部外板の破口をそれぞれ生じさせ、B受審人及び同乗者2人に頭部挫傷、左肩関節脱臼等をそれぞれ負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、夜間、田子の浦港において、同港出入口となる狭い水路のほぼ中央を港口に向け南東進中、同水路を北西進する長勇丸の灯火を認め、同船と左舷を対して替わるべく水路右側端に向けた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、右側端に向けたことにより同船と左舷を対して替わるものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、その後長勇丸が針路を変えずに衝突のおそれのある態勢で接近したことに気付かず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための措置をとることもなく進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自らも受傷し、同乗者2人を負傷させるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 


参考図
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