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平成12年横審第121号
件名

貨物船かいほう丸貨物船東進丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年6月20日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(小須田 敏、半間俊士、甲斐賢一郎)

理事官
酒井直樹

受審人
A 職名:かいほう丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:東進丸船長 海技免状:四級海技士(航海)

損害
かいほう丸・・・左舷外板に破口し浸水、のち沈没
東進丸・・・左舷船首部に圧壊及び球状船首部に破口

原因
かいほう丸・・・狭視界時の航法(信号・速力・レーダー)不遵守
東進丸・・・狭視界時の航法(信号・速力・レーダー)不遵守

主文

 本件衝突は、かいほう丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、東進丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aの三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Bの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年5月24日08時35分
 千葉県犬吠埼南方

2 船舶の要目
船種船名 貨物船かいほう丸 貨物船東進丸
総トン数 498.25トン 497トン
全長   75.49メートル
登録長 67.98メートル 72.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,029キロワット 735キロワット

3 事実の経過
 かいほう丸は、主として瀬戸内海の諸港と塩釜港との間でスクラップの輸送に従事する船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人ほか3人が乗り組み、空倉のまま、船首1.5メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、平成12年5月23日17時00分塩釜港仙台区を発し、京浜港横浜区に向かった。
 A受審人は、船橋当直を自らと一等航海士とによる単独の6時間交替制で行うこととし、翌24日06時00分鹿島港の北東方9.5海里の地点に差し掛かったとき、同航海士から引き継いで船橋当直に就き、視界が悪化して視程1海里ばかりとなった状況下、航行中の動力船の灯火を表示して進行した。
 07時30分A受審人は、犬吠埼灯台から014度(真方位、以下同じ。)5.6海里の地点において、針路を170度に定めて自動操舵とし、霧のため視界が更に悪化して50メートルばかりの視程となったため、機関を半速力前進に掛けて8.0ノットの対地速力に減じたものの、濃霧注意報などの情報がなかったので、そのうち回復するものと判断し、霧中信号を吹鳴することも、安全な速力に減じることもしないまま続航した。
 A受審人は、08時15分犬吠埼灯台から101度2.4海里の地点で、房総半島南東岸に接航する220度の針路に転じて南下を続け、同時22分同灯台から124度2.1海里の地点に達したとき、左舷船首16度4.3海里のところに北上する東進丸のレーダー映像を初めて認めたが、自船が陸岸寄りに航行していたことから、いずれ同船が針路を右に転じて左舷対左舷で替わるものと思い、その後、レーダーによりその動静を系統的に観察するなど、東進丸に対する動静監視を十分に行わなかった。
 A受審人は、08時29分少し前東進丸の映像を左舷船首17度2.0海里に認めるようになり、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、依然としてレーダーによる動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かず、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、また、必要に応じて行きあしを止めることもしないまま進行した。
 こうしてA受審人は、08時31分半東進丸の映像に明らかな方位の変化が見られないまま1.1海里に接近していることを知ったものの、間もなく同船が右転するものと思い続け、同時35分少し前左舷船首方近距離に短い汽笛信号を聞くとともに同方向150メートルのところに東進丸の白灯1個を初めて視認し、あわてて機関を後進にかけたが効なく、08時35分犬吠埼灯台から166度2.6海里の地点において、かいほう丸は、原針路、原速力のまま、その左舷中央部に、東進丸の船首が前方から40度の角度で衝突した。
 当時、天候は霧で風力2の南西風が吹き、視程は150メートルで、潮候は下げ潮の中央期であった。
 また、東進丸は、主にばら積み貨物の輸送に従事する船尾船橋型鋼製貨物船で、B受審人ほか4人が乗り組み、塩1,346トンを載せ、船首3.19メートル船尾4.49メートルの喫水をもって、平成12年5月22日17時30分岡山県錦海湾の錦海塩業専用岸壁を発し、鹿島港に向かった。
 B受審人は、船橋当直を自らと一等航海士及び甲板長とによるそれぞれ単独の4時間3直制で行うこととし、翌々24日08時00分犬吠埼灯台から196度9.2海里の地点において、同航海士から引き継いで船橋当直に就き、針路を037度に定め、機関を全速力前進にかけて12.2ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
 08時18分少し過ぎB受審人は、犬吠埼灯台から182度5.9海里の地点に差し掛かったとき、霧のため急に前方の視界が悪化して50メートルばかりの視程となったため、航行中の動力船の灯火を表示したものの、濃霧注意報などの情報がなかったので、すぐに回復するものと判断し、霧中信号を吹鳴することも、安全な速力に減じることもしないまま、予定入港時刻に余裕がないことから平素よりも犬吠埼に接航して北上することとし、015度に針路を転じて北上を続けた。
 B受審人は、08時23分犬吠埼灯台から179度4.9海里の地点に達したとき、右舷船首9度3.9海里のところに南下するかいほう丸のレーダー映像を初めて認めたが、その方位がわずかに右方に替わるように見えたことから、そのまま自船の右方を航過するものと思い、その後、レーダーによりその動静を系統的に観察するなど、かいほう丸に対する動静監視を十分に行わなかった。
 B受審人は、08時29分少し前かいほう丸の映像を右舷船首8度2.0海里に認めるようになり、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、依然としてレーダーによる動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かず、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、また、必要に応じて行きあしを止めることもしないまま続航した。
 B受審人は、08時33分半正船首わずか右0.5海里まで接近したかいほう丸の映像が、海面反射により視認することができない状況となったことから、安全のために同船との航過距離を大きくとろうと手動操舵に切り替えて000度に針路を転じて進行するうち、同時35分少し前注意喚起信号を行うつもりで汽笛吹鳴ボタンを押したとき、正船首方150メートルのところにかいほう丸の白灯1個と船体を初めて視認し、急いで右舵一杯としたが効なく、東進丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、かいほう丸は、左舷外板に破口を生じて船倉に浸水し、来援した巡視船に乗組員全員が救助されたのち沈没した。一方、東進丸は、左舷船首部に圧壊及び球状船首部に破口を生じたが、のち修理された。

(原因)
 本件衝突は、霧のため視界制限状態となった千葉県犬吠埼南方において、南下するかいほう丸が、霧中信号を行わず、安全な速力としなかったばかりか、レーダーによる動静監視不十分で、前路に認めた東進丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、速やかに針路を保つことができる最少限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めなかったことと、北上する東進丸が、霧中信号を行わず、安全な速力としなかったばかりか、レーダーによる動静監視不十分で、前路に認めたかいほう丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、速やかに針路を保つことができる最少限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、霧のため視界制限状態となった千葉県犬吠埼南方を南下中、左舷船首方に北上する東進丸のレーダー映像を認めた場合、同船と著しく接近することを避けることができない状況となるかどうか判断できるよう、レーダーにより動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船が陸岸寄りに航行していたことから、いずれ東進丸が針路を右に転じ、左舷対左舷で替わるものと思い、レーダーによる動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったことに気付かず、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めずに進行して東進丸との衝突を招き、自船の左舷外板に破口を生じて沈没させ、東進丸の左舷船首部に圧壊及び球状船首部に破口を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、霧のため視界制限状態となった千葉県犬吠埼南方を北上中、右舷船首方に南下するかいほう丸のレーダー映像を認めた場合、同船と著しく接近することを避けることができない状況となるかどうか判断できるよう、レーダーにより動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、かいほう丸の方位がわずかに右方に替わるように見えたことから、そのまま自船の右方を航過するものと思い、レーダーによる動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、かいほう丸と著しく接近することを避けることができない状況となったことに気付かず、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めずに進行して同船との衝突を招き、両船に前示の事態を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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