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平成12年仙審第79号
件名

漁船第十八晃栄丸漁船第十八福生丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年6月28日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(喜多 保、東 晴二、大山繁樹)

理事官
熊谷孝徳

受審人
A 職名:第十八晃栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第十八福生丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
晃栄丸・・・左舷後部外板に亀裂、のち廃船、A受審人が全身打撲
福生丸・・・船首部に破口等

原因
福生丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
晃栄丸・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第十八福生丸が、見張り不十分で、錨泊中の第十八晃栄丸を避けなかったことによって発生したが、第十八晃栄丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年7月28日17時25分
 岩手県綾里埼南方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第十八晃栄丸 漁船第十八福生丸
総トン数 9.98トン 9.1トン
登録長 13.83メートル 14.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 120 120

3 事実の経過
 第十八晃栄丸(以下「晃栄丸」という。)は、いか一本釣り漁に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.6メートル船尾1.9メートルの喫水をもって、平成12年7月28日16時20分岩手県綾里漁港を発し、同県綾里埼南方沖合の漁場に向かった。
 A受審人は、発航してから港湾を南下し、16時45分ごろ小黒埼の南方1,400メートルばかりの地点で、魚群探知器とソナーを使用して魚群探索を始め、17時15分綾里埼灯台から205度(真方位、以下同じ。)1.7海里の水深104メートルの地点に至って、機関を中立運転とし、船首から重さ約50キログラムの鉄製のストックアンカーを投入して、直径28ミリメートルのクレモナロープを約200メートル延出したうえ、法定の形象物を掲げずに北東よりやや北寄りに船首を向けて錨泊を開始した。
 ところで、晃栄丸の操舵室は、上下2段に仕切られていて、上段の前部中央に舵輪があり、その右側には主機操縦ハンドル、レーダー、GPSプロッタ等が、舵輪の左側には磁気コンパス、ソナー、魚群探知器等がそれぞれ設置されていた。
 A受審人は、投錨後、日没後の操業に備えて甲板員をいか釣り機の稼動準備に当たらせ、自らは操舵室上段でソナー及び魚群探知器を使用して海中の模様を監視していたところ、17時23分船首が030度を向いていたとき、左舷正横720メートルのところに、自船に向首した第十八福生丸(以下「福生丸」という。)を視認でき、その後、同船が衝突のおそれのある態勢で接近したが、自船は錨泊しているので航行中の他船が自船を避けてくれるものと思い、ソナーや魚群探知器を監視することに専念し、走錨の有無や他船の状況を監視するため0.5海里レンジとしたレーダーを作動させていたものの、これを連続監視するなど周囲の見張りを十分に行っていなかったので、これに気付かなかった。
 17時24分半A受審人は、福生丸が自船を避けずに180メートルに接近していたが、依然として周囲の見張りを行っていなかったので、このことに気付かず、機関を直ちに前進にかけるなどして衝突を避けるための措置をとることなく錨泊を続け、同時25分わずか前船首付近の甲板上にいた甲板員の大きな叫び声を聞いたので、操舵室下段の左舷側ドアから出たところ、左舷正横至近に福生丸を初めて視認したが、どうすることもできず、17時25分綾里埼灯台から205度1.7海里の地点において、晃栄丸は、船首が030度を向いていたとき、その左舷後部に福生丸の船首がほぼ直角に衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の北北東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
 また、福生丸は、いか一本釣り漁に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.75メートル船尾1.70メートルの喫水をもって、同日16時55分綾里漁港を発し、綾里埼南方沖合の漁場に向かった。
 B受審人は、発航してから港湾を南下し、17時14分小黒埼南西方沖合の綾里埼灯台から260度2.6海里の地点において、針路を120度に定め、機関を半速力前進にかけ、11.7ノットの対地速力で、自動操舵によって進行した。
 ところで、福生丸の操舵室は、上下2段に仕切られていて、上段には窓しかなく、下段には舵輪や航海計器類が設置され、その中央部に横に渡した板が置いてあり、これに腰掛けられるようになっていたが、腰掛けた状態では、操舵室前の甲板上に張ったオーニングのため前方が見えず、前方を見ようとするには立った姿勢としなければならなかった。
 B受審人は、定針して間もなく、青森県八戸港沖合で操業している僚船から携帯電話に連絡が入ったので、操舵室下段に置いていた携帯電話を取り、横に渡した板に前方を向いた姿勢で腰掛けて、八戸港沖合での操業模様について交信を始めた。
 17時23分B受審人は、綾里埼灯台から218度1.7海里の地点に達したとき、正船首720メートルに晃栄丸を視認でき、その後、停止状態にある同船と衝突のおそれのある態勢で接近したが、携帯電話で僚船と交信することに気を取られ、3海里レンジとしたレーダーを監視するなり、立ち上がって前方を見るなどして見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、同船を避けないで続航した。
 17時24分半B受審人は、晃栄丸が錨泊を示す形象物を表示していなかったものの、北東寄りの風により船首を北東方に向けて静止した状態や、同じ漁業協同組合に所属する同船を含む同業船は、この水域では平素投錨して操業していたことなどから、錨泊していることが分かる状況で、正船首180メートルに接近したが、依然として前方の見張りを行わなかったので、これに気付かず、直ちに転舵するなど晃栄丸を避けることなく進行した。
 B受審人は、17時25分わずか前船首至近に晃栄丸を初めて視認したが、どうすることもできず、福生丸は、同じ針路、速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、晃栄丸は左舷後部外板に亀裂が生じて半没状態となり、綾里漁港に引き付けられたが、のち廃船となり、福生丸は船首部に破口等を生じ、のち修理され、A受審人が全身打撲の傷を負った。

(原因)
 本件衝突は、岩手県綾里埼南方沖合において、東航中の福生丸が、見張り不十分で、前路に錨泊中の晃栄丸を避けなかったことによって発生したが、晃栄丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、岩手県綾里埼南方沖合を漁場に向けて東航する場合、錨泊中の晃栄丸を見落とすことのないよう、立って操船するなり、レーダーを監視するなどして、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、携帯電話で僚船と交信することに気を取られ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、正船首方で錨泊中の晃栄丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、福生丸の船首部外板に破口等を生じさせ、晃栄丸の左舷後部外板に亀裂を生じさせ、A受審人に全身打撲の傷を負わせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 A受審人は、岩手県綾里埼南方沖合において、操業のため錨泊する場合、自船に向首して接近する福生丸を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船は錨泊しているので航行中の他船が自船を避けてくれるものと思い、ソナーや魚群探知器を監視することに専念し、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、避航しないまま接近する福生丸に気付かず、機関を前進にかけるなどして衝突を避けるための措置をとることなく錨泊を続けて同船との衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:50KB)





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