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平成12年広審第27号
件名

漁船第六十五漁進丸プレジャーボートみのる号衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年5月29日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(坂爪 靖、高橋昭雄、西林 眞)

理事官
上中拓治

受審人
A 職名:第六十五漁進丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:みのる号船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
漁進丸・・・左舷船首に擦過傷
みのる号・・・左舷船首に亀裂及び、転覆して機関に濡損

原因
漁進丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主 因)
みのる号・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守 (一因)

主文

 本件衝突は、第六十五漁進丸が、見張り不十分で、錨泊中のみのる号を避けなかったことによって発生したが、みのる号が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成10年4月12日15時20分
 島根県地蔵埼北方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第六十五漁進丸 プレジャーボートみのる号
総トン数 19トン  
全長   4.97メートル
登録長 19.38メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力   22キロワット
漁船法馬力数 180  

3 事実の経過
 第六十五漁進丸(以下「漁進丸」という。)は、いか一本釣り漁業に従事する軽合金製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、氷約7トンを積載し、船首0.8メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、平成10年4月12日14時40分境港を発し、地蔵埼北西方23海里ばかりの隠岐海峡の漁場に向かった。
 発航後、A受審人は、操舵室中央の操舵スタンドの左横に立って遠隔操舵と目視による見張りを行い、15時17分半美保関灯台から071度(真方位、以下同じ。)200メートルの地点に達したとき、針路を341度に定め、機関を微速力前進にかけて7.5ノットの速力で進行した。
 定針したとき、A受審人は、正船首600メートルのところに船上に赤旗を掲げて錨泊中のみのる号を視認でき、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、それまで地蔵埼北方沖合で釣りをするプレジャーボートなどを見かけたことがなかったうえ、3海里レンジとしたレーダー画面を一瞥(いちべつ)して前方に他船が映っていなかったことから、前路で錨泊中などの他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行わなかったので、みのる号に気付かず、その後左舷前方に設置されていた定置網を替わすことに気をとられ、同船を避けないまま続航中、15時20分美保関灯台から001度650メートルの地点において、漁進丸は、原針路、原速力のまま、その左舷船首がみのる号の左舷船首にほぼ平行に衝突した。
 当時、天候は晴で風力4の南南東風が吹き、視界は良好であった。
 A受審人は、衝突したことに気付かないまま航行を続けていたところ、境海上保安部から連絡を受けて帰港し、衝突の事実を知った。
 また、みのる号は、FRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、弟ら2人を同乗させ、釣りの目的で、船首尾とも0.4メートルの喫水をもって、同日08時00分境港外江の係留地を発し、地ノ御前島周辺の釣り場に至って釣りを行ったのち、13時30分前示衝突地点付近に移動して機関を停止し、重さ約5キログラムの石を錨として用い、これに化学繊維製の錨索を結び付けて船首から水深約35メートルのところに投下し、錨索を50ないし60メートル延出して錨泊した。
 B受審人は、前示錨泊地付近水域が、沖合の漁場に向かう漁船などが通常航行するところであるので、長さ7メートル未満の船舶でも錨泊中の船舶が表示する形象物を掲げなければならなかったものの、これを所持していなかったので錨泊中であることを示すために古い釣り竿の先端に地元の釣り船なども使用している赤旗を掲げ、船首を南南東方に向けて釣りを始めた。
 15時17分半B受審人は、船首が161度を向いた状態で、自らは船尾部で船尾方を同乗者は船首部と船体中央部左舷側で左舷方を向いてそれぞれ釣りをしていたとき、正船首600メートルのところに自船の方に向かってくる漁進丸を視認でき、その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、魚が釣れている最中で釣りに気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかったので、自船を避けずに接近する漁進丸に気付かず、機関を使用するなどの同船との衝突を避けるための措置をとらないまま錨泊を続け、15時20分少し前同乗者のうちの1人の「大きな船がくる。」という叫び声で同船に気付き、他の同乗者が漁進丸に向けて前示赤旗を振ったが効なく、衝突の危険を感じ、同乗者2人とともに右舷側から海中に飛び込んだ直後、みのる号は、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、漁進丸は左舷船首に擦過傷を生じたのみであったが、みのる号は左舷船首に亀裂(きれつ)及び転覆して機関に濡損などを生じ、付近を航行中の僚船により美保関港に曳航され、のち修理された。

(原因)
 本件衝突は、島根県地蔵埼北方沖合において、漁場へ向けて航行中の漁進丸が、見張り不十分で、前路で錨泊中のみのる号を避けなかったことによって発生したが、みのる号が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、島根県地蔵埼北方沖合において、漁場に向けて1人で操船に当たって航行する場合、前路で錨泊中の他船を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、それまで同埼北方沖合で錨泊して釣りをするプレジャーボートなどを見かけたことがなかったうえ、レーダー画面を一瞥して前方に他船が映っていなかったことから、前路で錨泊中などの他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、錨泊中のみのる号に気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、漁進丸の左舷船首に擦過傷を、みのる号の左舷船首に亀裂及び同船を転覆させて機関に濡損などをそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、島根県地蔵埼北方沖合において、錨泊して釣りを行う場合、自船に接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、魚が釣れている最中で釣りに気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、自船を避けないまま接近する漁進丸に気付かず、機関を使用するなどの衝突を避けるための措置をとらないまま錨泊を続けて衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:36KB)





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