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平成12年横審第126号
件名

漁船源助丸プレジャーボート第3長栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年5月10日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(半間俊士、吉川 進、甲斐賢一郎)

理事官
関 隆彰

受審人
A 職名:源助丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第3長栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
源助丸・・・右舷船首部に小破口
長栄丸・・・船首部を破壊、同乗者1人が腰部捻挫

原因
源助丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
長栄丸・・・見張り不十分、注意の喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、源助丸が、見張り不十分で、漂泊中の第3長栄丸を避けなかったことによって発生したが、第3長栄丸が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置が遅れたことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年4月2日11時52分
 千葉県勝浦港南東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船源助丸 プレジャーボート第3長栄丸
総トン数 4.7トン  
全長   8.35メートル
登録長 11.11メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 220キロワット 88キロワット

3 事実の経過
 源助丸は、FRP製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、1本釣り漁の目的で、船首0.2メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成12年4月2日03時05分千葉県勝浦港を発し、同港南東方沖合16海里ばかりの漁場に至り、操業ののち、11時20分勝浦灯台から142度(真方位、以下同じ。)15.0海里の地点を発進して帰途についた。
 ところで、源助丸は、速力を上げて航行すると船首が浮上し、船首方左右各10度の範囲で死角が生じるので、A受審人は、操舵室中央に設けた台の上に立って操舵室の天井の天窓から顔を出したり、船首を左右に振ったりして死角を補う見張りをしていた。
 漁場発進時、A受審人は、針路を320度に定めて自動操舵とし、漁具の後片付けや食事をするため機関を半速力前進にかけ、8.0ノットの対地速力で進行したが、11時38分勝浦灯台から142度12.6海里の地点で機関を毎分1,900回転に増速して、通常の航海速力である15.0ノットの対地速力で、操舵室の台に腰掛けて操船にあたり、同一針路で続航した。
 11時51分A受審人は、勝浦灯台から143度9.3海里の地点で、正船首方460メートルのところに第3長栄丸(以下「長栄丸」という。)を視認することができる状況であったが、発進時に操舵室の天窓から頭を出して他船の状況を確認し、他船の存在を認めなかったことから、前路に他船はいないものと思い、増速後操舵室の天窓から頭を出すなど、船首方の死角を補う見張りを十分に行わなかったので、長栄丸に気付かず、衝突を避けるための措置をとらずに進行し、11時52分勝浦灯台から143度9.1海里の地点において、源助丸は、原針路、原速力のまま、船首が長栄丸の左舷船首部に直角に衝突した。
 当時、天候は曇で風力1の北東風が吹き、視界は良好であった。
 A受審人は、衝突の衝撃で流木に当たったと思い、機関を停止したところ、甲板員の報告で長栄丸を認めて衝突したことを知り、事後の措置にあたった。
 また、長栄丸は、モーターホーンを装備したFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、知人2人を同乗させ、いか釣りの目的で、喫水不詳のまま、同日06時00分勝浦港を発し、同港南東方沖合の釣り場に向かった。
 B受審人は、釣り場に至ると操業中のいか釣り漁船の船団付近でいか釣りを始め、釣れなくなると別の船団付近に行くなどして何回か釣り場を移動したのち、10時52分船団から離れて2海里ばかり陸寄りに移動した前示衝突地点付近に至り、船尾右舷側に座っていか釣りを再開し、船尾を風上に向け、釣り糸を垂直に保つよう、機関の遠隔操作装置を用いて適宜機関を使用しながらいか釣りを続けた。
 11時51分半B受審人は、前示衝突地点で船首を230度に向けて漂泊しているとき、左舷正横230メートルのところに自船に向かってくる源助丸を視認することができる状況であったが、いか釣りに気を奪われ、周囲の見張りを十分に行わなかったので、同船に気付かず、モーターホーンを吹鳴しての注意喚起信号を行わずに釣りを続け、同時52分少し前同方向100メートルのところに同船を初めて認めたものの、同船の避航を期待し、速やかに機関を使用するなどの衝突を避けるための措置をとらずに見守るうち、同船が左舷至近に迫ったことから衝突の危険を感じ、急ぎ操舵室に赴き機関を後進にかけ、わずかに後退したが及ばず、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、源助丸は右舷船首部に小破口を生じ、長栄丸は船首部を圧壊したが、のちいずれも修理され、長栄丸の同乗者1人が腰部捻挫などの負傷をした。

(原因)
 本件衝突は、千葉県勝浦港南東方沖合において、同港に帰航中の源助丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中の長栄丸を避けなかったことによって発生したが、長栄丸が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置が遅れたことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、千葉県勝浦港南東方沖合において、同港に帰航中、正船首方に長栄丸を視認できる状況であった場合、源助丸の船首が航行中に浮上し、船首方に死角が生じる状態であったから、前路で漂泊している長栄丸を見落とさないよう、操舵室の天窓から頭を出すなど、船首方の死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、前路に他船はいないものと思い、船首方の死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、長栄丸に気付かず、衝突を避けるための措置をとることなく進行して同船との衝突を招き、自船の右舷船首部に小破口を、長栄丸の船首部が圧壊する損傷をそれぞれ生じさせ、長栄丸の同乗者1人に腰部捻挫を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。
 B受審人は、勝浦港南東方沖合において、漂泊をしていか釣り中、左舷正横方から自船に向かって接近してくる源助丸を視認することができる場合、同船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、いか釣りに気を奪われ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置が遅れて、同船との衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:50KB)





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