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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成12年長審第14号
件名

押船第五松美丸被押はしけ松美丸漁船第三清福丸外1隻衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年4月3日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(平野浩三、亀井龍雄、河本和夫)

理事官
喜多 保

受審人
A 職名:第五松美丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:第三清福丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
C 職名:第五清福丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士

損害
松美丸・・・船首部外板に擦過傷
第三清福丸・・・右舷外板に破口
第五清福丸・・・右舷中央部ブルワーク及び同部上甲板に亀裂

原因
松美丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
第三清福丸・・・動静監視不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)
第五清福丸・・・動静監視不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第五松美丸被押はしけ松美丸が、見張り不十分で、前路で接舷して漂泊中の第三清福丸及び第五清福丸を避けなかったことによって発生したが、第三清福丸が、動静監視不十分で、及び第五清福丸が、見張り不十分で、両船ともに衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Cを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成10年12月17日07時45分
 八代海

2 船舶の要目
船種船名 押船第五松美丸 被押はしけ松美丸
総トン数 49トン 771トン
全長 22.25メートル 42.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 720キロワット  

船種船名 第三清福丸 第五清福丸
総トン数 4.9トン 4.9トン
登録長 11.50メートル  
全長   14.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 70 70

3 事実の経過
 第五松美丸は、鋼製押船で、A受審人ほか3人が乗り組み、船首1.0メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、船首尾とも1.6メートルの等喫水の空倉の非自航鋼製はしけ松美丸の船尾ノッチ部に船首を嵌合(かんごう)して、全長約53メートルの押船列(以下「松美丸押船列」という。)とし、平成10年12月17日06時10分熊本県大矢野町大潟沖合の錨地を発し、港湾建設用石材を積載する目的で、樋ノ島灯台から219度(真方位、以下同じ。)4.7海里の御所浦島東岸の採石場桟橋に向かった。
 A受審人は、単独の航海当直に当たり、07時20分樋ノ島灯台から113度1.7海里の地点に達したとき、針路を230度に定め、機関を全速力前進とし、9.0ノットの対地速力で、いすに腰掛けて手動操舵により進行した。
 07時41分半A受審人は、樋ノ島灯台から199度2.9海里の地点において、いすに腰掛けて同針路、同速力で、視界が良かったことからレーダーを使用しないで進行しているとき、正船首方1,000メートルのところに第三清福丸及び第五清福丸を認め得る状況であったものの、その見張り位置からは松美丸船首部のクレーン機械室上部、クレーンポストおよびワイヤなどで船首方各舷3度が死角となっていたが、前路に船がいないものと思い、船首を左右に振るなどして死角を補う見張りを行っていなかったので、両船の存在に気付かず、続航した。
 07時43分わずか過ぎA受審人は、いすに腰掛けたままで、依然として死角を補う見張りを行っていなかったことから、正船首500メートルのところに両船が接舷して漂泊中で、衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、大きく右転するなど衝突を避けないまま進行し、07時45分樋ノ島灯台から200度3.4海里の地点において、松美丸押船列は、原針路、原速力のまま、その船首が第三清福丸の右舷船尾に前方から45度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の北東風が吹き、視界は良好であった。
 また、第三清福丸は、引き網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか1人が乗り組み、船首0.4メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、第五清福丸とともに二そう引きの引き網ちりめん漁を行う目的で、同船を左舷側につなぎ止め、また、第五清福丸は、FRP製漁船で、C受審人ほか1人が乗り組み、船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、右舷を第三清福丸に接舷した状態で、同日07時00分両船は、魚探船とともに熊本県御所浦町本郷漁港を発し、同時30分衝突地点付近の漁場に至って、接舷状態で船首を320度に向けて漂泊を開始した。
 折からB受審人は、右舷船尾10度2.0海里のところに自船に向首する松美丸押船列を認め、その後同船が衝突のおそれのある態勢で接近していたが、やがて自船を避けてくれるものと思い、その後同船に対する動静監視を行うことなく、操舵室のいすに腰掛けて魚探船からの指示を無線で聴取しながら漂泊を続けた。
 07時41分半C受審人は、船首を320度に向けて漂泊していたとき、右舷正横1,000メートルのところに自船に向首進行する松美丸押船列を認め得る状況にあったが、魚探船の無線の聴取に気をとられ、周囲の見張りを行っていなかったので、同押船列の接近に気付かず、漂泊を続けた。
 07時43分わずか過ぎB、C両受審人は、船首が320度に向いていたとき、松美丸押船列が右舷正横500メートルに接近して衝突のおそれのある態勢で接近していたが、両受審人はこのことに気付かず、速やかに機関を使用して移動するなど衝突を避けるための措置をとらずに漂泊を続け、07時45分わずか前C受審人は、至近に迫った同押船列に気付いて、B受審人にそのことを知らせるとともに機関を全速力前進にかけて急速に右回頭したが、及ばず、第三清福丸及び第五清福丸の船首がともに005度に向いたとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、松美丸は船首部外板に擦過傷を生じたのみで、第三清福丸は右舷外板に破口を生じ、第五清福丸は、衝突の衝撃で右舷中央部ブルワーク及び同部上甲板に亀裂を生じ、のち破口及び亀裂箇所はそれぞれ修理された。

(原因)
 本件衝突は、熊本県御所浦島東方沖合において、松美丸押船列が、見張り不十分で、前路で接舷して漂泊中の第三清福丸及び第五清福丸を避けなかったことによって発生したが、第三清福丸が、動静監視不十分で、及び第五清福丸が見張り不十分で、両船が機関を使用して衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、熊本県御所浦島沖合において、船首方に死角を生じた状態で航行する場合、前路で漂泊中の第三清福丸及び第五清福丸を見落とすことのないよう、船首を左右に振るなど死角を補う見張りを行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、前路に船がいないと思い、見張りを行わなかった職務上の過失により、衝突を避けるための措置をとらずに進行して衝突を招き、松美丸の船首部外板に擦過傷を、第三清福丸の右舷外板に破口を、及び第五清福丸の右舷中央部ブルワークに曲損並びに同部上甲板に亀裂などの損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、熊本県御所浦島沖合において、第五清福丸を接舷して漂泊中、自船に向首接近する松美丸押船列を認めた場合、同船との衝突の有無を確かめることができるよう、動静監視を行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、自船を避けてくれるものと思い、動静監視を行わなかった職務上の過失により、機関を使用して衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊して衝突を招き、前示の結果を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は、熊本県御所浦島沖合において、第三清福丸に接舷して漂泊する場合、衝突のおそれのある態勢で接近する松美丸押船列を見落とすことのないよう、周囲の見張りを行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、魚探船の無線の聴取に気をとられ、見張りを行わなかった職務上の過失により、機関を使用して衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊して衝突を招き、前示の結果を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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