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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成13年函審第6号
件名

漁船竜丸漁船奉公丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年4月13日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(織戸孝治、酒井直樹、大山繁樹)

理事官
東 晴二

受審人
A 職名:竜丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
竜 丸・・・正船首部に擦過傷
奉公丸・・・右舷前部外板に亀裂、転覆、B船長が溺水、死亡

原因
竜 丸・・・見張り不十分、速力不適切、船員の常務(避航動作)不遵守

主文

 本件衝突は、視界制限時、竜丸が、安全な速力で航行しなかったばかりか、前路で漂泊中の奉公丸を視認できるようになった際、見張り不十分で、同船を避けなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年7月17日06時10分
 北海道瀬棚港北方海域

2 船舶の要目
船種船名 漁船竜丸 漁船奉公丸
総トン数 0.6トン 0.3トン
登録長 6.03メートル 5.49メートル
機関の種類 電気点火機関 電気点火機関
漁船法馬力数 30 30

3 事実の経過
 竜丸は、つぶかご漁業に従事する船外機を有し、レーダー・羅針盤等の航海計器や汽笛などを装備しないFRP製和船型漁船で、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.1メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、平成12年7月17日04時00分北海道瀬棚港を発し、同港北方5海里ばかりの漁場に向かい、同時30分ごろから操業を開始し、つぶ貝約2.5キログラムを漁獲したところで操業を終え、帰途に就くため、05時57分わずか過ぎ同港北方の亀岩15メートル頂(以下「亀岩」という。)から350度(真方位、以下同じ。)4,730メートルの地点を発進した。
 A受審人は、操業を終える頃から視界が霧のため約40メートルに狭められ、また、航行経路上には普段多数の小型漁船が出漁している海域であることを知っていたが、発進時から視界の状態及び船舶交通のふくそう状況を考慮して、他の船舶との衝突を避けるための適切かつ有効な動作をとること又はそのときの状況に適した距離で停止することができるように、常時安全な速力にすることなく、他船を視認すれば避航できると思い、全速力前進から少し減じた9.1ノットの対地速力で進行した。また、竜丸が同速力で航走中は、船首が浮上して船尾の操船位置で腰を掛けた操船姿勢では、正船首方向から各舷側約5度の範囲に死角を生じ、前路の見張りが妨げられる状況であったので、同受審人は、船尾で立ったり腰を掛けたりして左手で船外機を操作し、狭視界の下、左舷方の海岸線上の山頂を見ながら、長年の経験により陸岸に沿って瀬棚港に向かった。
 06時08分わずか過ぎA受審人は、亀岩から353度1,650メートルの地点に達し、針路を180度に定めたとき、船首方520メートルのところに漂泊中の奉公丸が存在し、その後衝突のおそれのある態勢で接近していたが、狭視界のため同船を視認することができず、依然、安全な速力とせず、同針路・同速力のまま船尾に腰を掛けたまま進行し、同時10分わずか前船首方約40メートルのところに同船を視認し得る状況となったが、立って見張りを行うなど死角を補う見張りを行わなかったので、前路の見張りが不十分となり、同船に気付かず、直ちに転舵や全速力後進をかけて同船を避けることなく続航中、竜丸は、06時10分亀岩から350度1,125メートルの地点で、原針路・原速力のままその船首が奉公丸の右舷前部にほぼ直角に衝突した。
 当時、天候は霧で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の初期で、衝突地点海面付近の視程は約40メートルであった。
 また、奉公丸は、一本釣及び採介藻漁業に従事する船外機を有し、レーダー・羅針盤等の航海計器や汽笛などを装備しないFRP製和船型漁船で、船長Bが1人で乗り組み、自宅のご飯のおかずを採る目的で、船首0.2メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、同日05時30分ごろ北海道瀬棚郡吹込(ふっこみ)漁港を発し、同港西方の漁場に向かった。
 B船長は、06時08分わずか過ぎ衝突地点で、西方を向首し、船外機の推進器部分を海中から船上に引き上げて同機を固定し、漂泊して一本釣漁を行っていたところ、右舷方520メートルのところに竜丸が存在し、その後衝突のおそれのある態勢で接近していたが、狭視界のため同船を視認することができず、同時10分わずか前には同方向約40メートルのところから同船が接近していたもののどうすることもできず、奉公丸は、漂泊したまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、竜丸は、正船首部に擦過傷を、奉公丸は、右舷前部外板に亀裂(きれつ)等をそれぞれ生じ、同船は、転覆しているところを僚船により吹込漁港に引き付けられた。また、B船長(大正10年8月31日生、二級小型船舶操縦士免状(5トン未満限定)受有)が衝突の衝撃で海中に転落し、竜丸に救助されて病院に運ばれたが溺水により死亡した。

(原因)
 本件衝突は、霧のため視界が制限された瀬棚港北方海域において、レーダー及び汽笛不装備の両船が接近する際、漁場から同港に向け帰航中の竜丸が、安全な速力で航行しなかったばかりか、前路で漂泊中の奉公丸を視認できるようになった際、見張り不十分で、同船を避けなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
  A受審人は、霧のため視界が制限された瀬棚港北方海域において、前路に死角を生じたまま漁場から同港に向けて帰航する場合、竜丸はレーダーや汽笛を装備していないのであるから、視界の状態及び船舶交通のふくそう状況を考慮して、他の船舶との衝突を避けるための適切かつ有効な動作をとること又はそのときの状況に適した距離で停止することができるように、常時安全な速力で航行し、かつ、死角を補う前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、他船を視認すれば避航できると思い、安全な速力で航行せず、かつ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊中の奉公丸に気付かないまま進行して同船との衝突を招き、竜丸の正船首部に擦過傷を、奉公丸の右舷前部外板に亀裂等をそれぞれ生じさせ、関川船長を海中に転落させて溺死させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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