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平成12年第二審第1号
件名

押船第七北斗丸被押バージ(船名なし)漁船博洋丸衝突事件〔原審広島〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年4月17日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(米田 裕、山崎重勝、田邉行夫、吉澤和彦、岸 良彬)

理事官
平田照彦

受審人
A 職名:第七北斗丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
C 職名:博洋丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:第七北斗丸甲板員

損害
北斗丸押船列・・・バージの左舷船首部擦過傷
博洋丸・・・右舷中央部破口を生じ転覆、のち廃船、C受審人が頭部に打撲傷

原因
北斗丸押船列・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守
博洋丸・・・動静監視不十分、船員の常務(衝突回避措置) 不遵守

二審請求者
理事官川本 豊

主文

 本件衝突は、第七北斗丸被押バージ(船名なし)の定針と博洋丸の漂泊とが、近距離でほぼ同時に行われて衝突のおそれが生じた際、第七北斗丸被押バージ(船名なし)が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、博洋丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Cを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成10年11月13日13時15分
 広島県蒲刈港

2 船舶の要目
船種船名 押船第七北斗丸 被押バージ(船名なし)
総トン数 19トン 約908トン
全長 16.66メートル 45.00メートル
  13.00メートル
深さ   3.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 809キロワット  

船種船名 漁船博洋丸
総トン数 4.90トン
全長 11.27メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 253キロワット

3 事実の経過
 第七北斗丸(以下「北斗丸」という。)は、専ら瀬戸内海において土木用石材の運搬に従事する鋼製押船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか甲板員1人が乗り組み、その船首部を、喫水が船首1.0メートル船尾0.6メートルの空倉の被押バージ(船名なし)(以下「バージ」という。)の船尾に嵌合(かんごう)してロープで両船を固定のうえ、全長約60メートルの押船列(以下「北斗丸押船列」という。)とし、船首1.0メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、倉橋島に向かうため平成10年11月13日13時12分広島県蒲刈港の蒲刈港丸谷外防波堤灯台(以下「外防波堤灯台」という。)から158度(真方位、以下同じ。)1,170メートルの、蒲刈大橋北方近くの上蒲刈島道路工事現場を発した。
 ところで、蒲刈港は、上蒲刈島の北側一帯及び同島と下蒲刈島との間の幅250メートルないし500メートルの三之瀬瀬戸と呼称される水域を港域とし、同港南寄りに両島を結ぶ蒲刈大橋が架かり、同大橋中央から南方450メートルばかりのところが同港南側の港界となっていた。
 A受審人は、父であるB指定海難関係人が乗船経歴が長く、同受審人より離着岸操船に慣れているということから、出航時の操船指揮を自らとることなく、同指定海難関係人に操船と船橋当直を任せて離岸を終えたのち、バージ甲板上で甲板員と共に荷揚げ後の後片付けや掃除に取り掛かった。
 B指定海難関係人は、船首着けしていた工事現場を、押船列を固定していたバージのスパッドが海底から揚がると同時に後進をかけて離れ、右回頭しながら後退し、13時13分外防波堤灯台から160度1,060メートルの地点で、蒲刈大橋の上蒲刈島側の橋脚付近に向首して後退を終え、機関を全速力前進にかけたとき、北斗丸押船列の右舷側30メートルばかりのところを南下中の博洋丸が並航していたが、A受審人らが行っていた作業を見ていたので、それに気付かなかった。
 B指定海難関係人は、右転しながら南下し、13時14分少し前外防波堤灯台から164度1,160メートルの地点に達したとき、針路を上黒島の西端に向首する207度に定め、折からの逆潮流に抗して9.3ノットの対地速力で、操舵室中央のやや左舷寄りに立ち、手動操舵により進行した。同指定海難関係人は、定針とほぼ同時に、博洋丸がほぼ正船首440メートルのところで漂泊を開始し、その後同船に向首したまま衝突のおそれのある態勢で接近したが、前進開始時に蒲刈大橋の南方を見た際、近くに他船を認めなかったことから、前路には支障となるような他船はいないものと思い、バージ甲板上のA受審人らにマイクで指示をしたり、左舷方にのみ留意したりして正船首方の見張りを十分に行っていなかったので、そのことに気付かず、衝突を避けるための措置をとることなく南下を続けた。
 13時15分わずか前B指定海難関係人は、左舷船首至近に博洋丸のマストを認め、機関を全速力後進としたが、時既に遅く、13時15分外防波堤灯台から175度1,460メートルの地点において、北斗丸押船列は、原針路、原速力のまま、バージの左舷船首部が、博洋丸の右舷中央部に後方から18度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の初期で、衝突地点付近には1.7ノットの北北東流があった。
 A受審人は、バージ甲板上で作業中に衝突したことを知り、海中に投げ出されたC受審人を救助するなど事後の措置に当たった。
 また、博洋丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、C受審人が1人で乗り組み、たい釣りをする目的で、船首尾とも0.2メートルの喫水をもって、同日09時ごろ広島県呉港広区の定係地を発し、同港仁方区の漁場に至って操業を行ったあと、漁場を変えることとし、同区を発進して蒲刈大橋南方の三之瀬瀬戸に向かった。
 13時12分半C受審人は、外防波堤灯台から156度900メートルの地点に達したとき、左舷船首方220メートルのところに後進離岸中の北斗丸押船列を初めて認め、同時13分同灯台から164度1,080メートルの地点で、ほぼ停止状態の同押船列の右舷側30メートルに並航して、針路を202度に定め、機関をほぼ全速力前進にかけ、折からの逆潮流に抗して20.0ノットの対地速力で南下した。
 13時14分少し前C受審人は、外防波堤灯台から176度1,520メートルの地点に達したとき、釣りの準備をしている間に潮流に流されて予定した釣り場に至るものと考え、右転のうえ225度に向首させて機関を中立とし、漂泊して釣りの準備を開始した。そして、同受審人は、自船の漂泊とほぼ同時に、蒲刈大橋を通過中の北斗丸押船列が、右舷船尾18度440メートルのところで右回頭を終え、自船に向首して定針し、その後衝突のおそれのある態勢で接近したが、同押船列を追い抜いたあと、その動静を監視していなかったので、そのことに気付かなかった。
 C受審人は、漂泊を開始して間もなく、釣りの準備を行っているときに、蒲刈大橋の方向を見たが、北斗丸押船列は自船より東側の離れたところを通過して行くものと思い、一瞥(いちべつ)しただけで同押船列の動静について十分に監視しなかったので、同押船列が自船に向首したまま接近を続けていることに依然気付かず、自船を移動させて衝突を避けるための措置をとらないまま船首部で前方を向いて釣り針にえさを付けていたとき、博洋丸は、225度を向首したまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、北斗丸押船列は、バージの左舷船首部に擦過傷を生じ、博洋丸は、右舷中央部に破口を生じて転覆し、のち廃船とされ、C受審人は頭部などに打撲傷を負った。

(原因)
 本件衝突は、蒲刈港において、北斗丸押船列の定針と博洋丸の漂泊とが、近距離でほぼ同時に行われて衝突のおそれが生じた際、北斗丸押船列が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、博洋丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
 北斗丸押船列の運航が適切でなかったのは、船長が、蒲刈港を出航するに当たり、自ら操船の指揮をとらなかったことと、船橋当直者が、見張りを十分に行わなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、工事現場を離岸して蒲刈港を出航する場合、自ら操船の指揮をとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、B指定海難関係人が乗船経歴が長く、同受審人より離着岸操船に慣れているということから、操船と船橋当直を同指定海難関係人に任せ、バージ甲板上で荷揚げ後の後片付けや掃除に従事し、自ら操船の指揮をとらなかった職務上の過失により、船橋当直に当たった同指定海難関係人の見張り不十分のため、ほぼ正船首方で漂泊中の博洋丸に気付かず、衝突を避けるための措置をとらないまま進行して衝突を招き、北斗丸押船列のバージの左舷船首部に擦過傷を生じさせ、博洋丸の右舷中央部に破口を生じさせて転覆させるとともに、C受審人の頭部などに打撲傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。
 C受審人は、蒲刈港において、南下する北斗丸押船列を追い抜いたあと、釣りをするため蒲刈大橋の南方海域で漂泊した場合、同押船列との衝突のおそれの有無を判断できるよう、その動静を十分に監視すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、同押船列は自船より東側の離れたところを通過して行くものと思い、その動静を十分に監視しなかった職務上の過失により、自船の漂泊とほぼ同時に同押船列が自船に向首して定針し、その後衝突のおそれのある態勢で接近したことに気付かず、自船を移動させて衝突を避けるための措置をとらずに漂泊を続けて衝突を招き、自船と同押船列に前示の損傷を生じさせ、自らが負傷するに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。
 B指定海難関係人が、自ら操船して蒲刈港を出航する際、正船首方の見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

 よって、主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文平成12年1月17日広審言渡
 本件衝突は、第七北斗丸被押バージ(船名なし)が、見張り不十分で、漂泊中の博洋丸を避けなかったことによって発生したが、博洋丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Cを戒告する。


参考図
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