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平成12年神審第86号
件名

貨物船第三日昌丸定置網損傷事件

事件区分
施設等損傷事件
言渡年月日
平成13年3月23日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(須貝壽榮、西田克史、小須田 敏)

理事官
黒田 均

受審人
A 職名:第三日昌丸船長 海技免状:一級海技士(航海)
B 職名:第三日昌丸一等航海士 海技免状:三級海技士(航海)

損害
船体に損傷なし、定置網の位置固定用ロープ、浮きが損傷

原因
走錨防止措置不十分

主文

 本件定置網損傷は、走錨防止の措置が不十分で、走錨して定置網に乗り入れたことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年4月2日18時20分
 徳島県富岡港港外

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第三日昌丸
総トン数 4,341.79トン
全長 96.12メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 2,868キロワット

3 事実の経過
 第三日昌丸(以下「日昌丸」という。)は、船尾船橋型貨物船で、船首両舷に重量2,640キログラムのJIS型ストックレスアンカーと、呼び径46ミリメートルで1節の長さ27.5メートルの錨鎖を右舷に9節、左舷に8節それぞれ装備し、A及びB両受審人ほか7人が乗り組み、海砂約7,200トンを載せ、船首7.35メートル船尾8.67メートルの喫水をもって、平成11年3月29日14時10分熊本県三角港北口沖合の海砂積取現場を発し、大隅海峡経由で徳島県富岡港に向かい、途中、荒天避泊の目的で志布志湾に寄せ、翌々31日06時10分同湾を発進して航海を続けた。
 ところで、A受審人は、日昌丸が富岡港においては喫水の関係で派川那賀川の右岸にある海砂揚荷現場までは進入できず、錨泊のうえ積荷の全量を瀬取りする必要があることから、同港東部にある青島北西方の海域を瀬取り場所と記入している海図第1147号部分写を荷主から入手したとき、同島北岸近くに定置網が設置されている旨知らされていた。
 4月1日A受審人は、10時15分富岡港の南東方1.3海里沖合を北上中、錨泊に備えてB受審人及び甲板長を船首配置に就け、やがて徐々に減速しながら青島北方に至り、同島北岸近くに定置網の浮きを認め、予定錨地に向けて西進していたところ、瀬取り船が近寄ってきたので、早めに投錨することにした。
 10時35分A受審人は、青島灯台から358度(真方位、以下同じ。)850メートルの富岡港港外で水深20メートル、底質泥、定置網から北方へ400メートル離れた地点において、機関を後進に掛けているものの、西に向首したまま前進行き脚のあるとき、右舷錨の投下及び錨鎖6節の伸出を命じた。そして、1節半出たころ後進行き脚となり、後方に下がりながら錨鎖を伸出させ、かき錨になったか否かの報告をB受審人に求めなかったが、風力5の南西風が吹いている状況下、船首が風上に向いたことを確めて船橋を離れた。
 一方、B受審人は、A受審人の指示で投錨し、錨鎖の張り具合を見ながら6節水際まで伸出し、錨鎖が船首方に張ったのちに少し緩んだのを認め、かき錨となったと判断したものの、このことをA受審人に報告せずに船首配置を離れ、甲板長とともに瀬取り船の接舷作業の支援に取り掛かり、10時53分船体中央部に設けた荷役用クレーンで揚荷を開始し、16時40分まで続けた。
 翌2日B受審人は、14時00分揚荷を再開し、同時50分海砂を合計約3,100トン揚げたところで当日の荷役を終え、荷役用クレーンのジブを船尾方に向けて降ろし、15時20分A受審人の許可を得たうえ、買物のため瀬取り船に同乗して上陸した。
 A受審人は、同2日12時前テレビの気象情報により、低気圧が接近中で、徳島県全域に強風波浪注意報が発表されていることを知り、正午過ぎに昇橋して空模様を眺めているうち、16時30分ごろから北風が吹き始め、風速が毎秒10ないし15メートル(以下、風速は毎秒を省略する。)に達し、B受審人を帰船させることができないでいたところ、昇橋してきた甲板長から錨鎖庫に溜っている海水を水中ポンプで排出するために、右舷錨鎖を8節まで伸出している旨の報告を受けた。
 そのころA受審人は、日昌丸が平均喫水約5.5メートル、船尾トリム約2メートルの状態で、船首が北を中心に左右に大きく振れ回るうえ時に錨鎖が強く張り、また、船尾方の定置網まで約100メートルになっていたが、右舷錨鎖を8節伸出しているので走錨しないと思い、振れ止め錨として左舷錨を投じるとともに、速やかに機関を用意するなど走錨防止の措置をとらなかった。
 18時00分過ぎA受審人は、風速18メートルばかりの北風が吹く状況で、船首が北西方を向いたまま振れ回らなくなり、風下の青島に近づいていることから、走錨していることに気付き、機関の用意を命じるとともに甲板長を伴って船首に赴き、左舷錨を投じたものの時すでに遅く、船尾至近に定置網が迫っており、機関を使用することができないでいるうち、18時20分青島灯台から009度460メートルの地点において、日昌丸は、船首が310度に向き、船尾から青島まで260メートルとなったとき、同島北岸近くに設置されている定置網に乗り入れた。
 当時、天候は曇で風力8の北風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
 その結果、翌3日船舶所有者手配のタグボートにより、定置網から引き出され、船体には損傷がなかったが、定置網の位置固定用ロープ及び浮きが損傷した。

(原因)
 本件定置網損傷は、徳島県富岡港港外の青島北方沖合において単錨泊中、低気圧の接近に伴い北風が強まった際、走錨防止の措置が不十分で、走錨して同島北岸近くに設置されている定置網に乗り入れたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、徳島県富岡港港外の青島北方沖合において単錨泊中、低気圧の接近に伴い北風が強まり、船首が左右に大きく振れ回るようになった場合、走錨して風下の定置網に乗り入れることのないよう、振れ止め錨を投じるなど走錨防止の措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、右舷錨鎖を8節伸出しているので走錨しないと思い、振れ止め錨を投じるなど走錨防止の措置をとらなかった職務上の過失により、走錨して青島北岸近くに設置されている定置網に乗り入れ、同網の位置固定用ロープ及び浮きを損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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