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平成12年横審第85号
件名

貨物船安芸津丸灯浮標損傷事件

事件区分
施設等損傷事件
言渡年月日
平成13年2月28日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(向山裕則、半間俊士、吉川 進)

理事官
小金沢重充

受審人
A 職名:安芸津丸船長 海技免状:四級海技士(航海)

損害
安芸津丸・・・損傷なし
長瀬灯浮標・・・頂部に損傷

原因
操船不適切

主文

 本件灯浮標損傷は、出航操船時の錨の活用が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成9年11月21日20時06分
 横須賀港第7区

2 船舶の要目
船種船名 貨物船安芸津丸
総トン数 499.67トン
全長 71.0メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット

3 事実の経過
 安芸津丸は、主として東京湾内の諸港にコンクリート用砂利運搬を目的として運航される船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人ほか5人が乗り組み、空倉のまま、船首0.9メートル船尾3.3メートルの喫水をもって、平成9年11月21日20時00分横須賀港第7区久里浜湾内の北物揚場岸壁を発し、福島県久之浜漁港へ向かった。
 ところで、久里浜湾は、南東方に開口して三方を陸地に囲まれ、西部は平作川が流入する湾奥から約250メートル沖合にかけて険礁が多数存在し、北部は標高60ないし80メートルの台地を背負い、南部は久里浜内防波堤(以下「久里浜」を冠する名称についてはこれを省略する。)の周辺水域において南物揚場岸壁築造工事中で、工事水域は点滅式紅色灯付浮標(以下「紅浮標」という。)で表示され、同防波堤と北防波堤との間の可航幅が北側半分に狭められていた。また、北物揚場岸壁は、北防波堤基部の北方約100メートルのところから333度(真方位、以下同じ。)方向に約160メートルの長さをなし、同岸壁北端から南西方に約170メートルにわたって浅所があり、北防波堤南西端のほぼ西方90メートルに長瀬灯浮標が設置されていた。
 A受審人は、北物揚場岸壁を出入航するに当たり、長瀬灯浮標の西方をほぼ直角に転じる針路法をとり、着岸する場合は、同岸壁の約100メートル手前で左舷錨及びケッジアンカーを投下したのち、左舷錨鎖及びケッジアンカー索を伸出しながら右舷着けし、離岸する場合は、同鎖及び同索を巻き揚げるが、同岸壁前面の可航水域が狭いので、同索を先に揚げ、錨を活用して前進行きあしで左転し、船首を出航針路に向けてから揚錨することとしていた。
 A受審人は、出航に当たり、自ら船橋に立ち、船首部署に一等航海士ほか2人、船尾部署に機関長ほか1人を配置し、20時00分係船索をすべて放つと同時に、8時方向に4節まで伸出していた左舷錨鎖及び左舷正横60メートルまで伸出していたケッジアンカー索の巻き込みを命じ、岸壁からほぼ平行に約30メートル離れたところで、同索の巻き込みを容易にするため、右舵一杯として機関を微速力前進にかけて船尾を左方に振らせ、徐々に船首が右転する状況で同索の巻き込みを続けた。
 20時02分半A受審人は、横須賀港久里浜沖仮設灯標(以下「仮設灯標」という。)から000度370メートルの地点において、ケッジアンカー索が垂直になったとき、ケッジアンカーが船体のどこかに絡むかして揚げられなくなったことを知り、このころから北風及び平作川河口の影響による微弱な流れを左舷側に受けるようになったので、船首が北物揚場岸壁に接近しない程度に左舷錨鎖を張っておくよう指示し、その後、同索の絡みを解くことに注意を払っていたところ、船首が落とされ同岸壁と直角近くになっていることに気付いた。
 20時04分A受審人は、仮設灯標から350度340メートルの地点において、ようやくケッジアンカーが揚がり機関使用が可能となり、船首が045度に向き、長瀬灯浮標を右舷船尾50度80メートルに見て、左舷錨鎖が残り1節となったとき、船体が北風等に落とされないよう、錨を活用して船首を風に立てながら前進して左転するなど、船首を出航針路に向ける操船を行うことなく、風等に落とされるから一刻も早く後進しようと同鎖の巻き揚げを急がせた。
 20時05分A受審人は、船首が030度に向いて揚錨したとき、機関を半速力後進にかけ、船尾が左舷側に切り上がりながら長瀬灯浮標に接近する状況となったまま3ノットの速力で後進し、同灯浮標とは至近で船体中央部が替わったものの、船尾が紅浮標に近づいているのを認め、急ぎ機関を停止して惰性で後進中、20時06分仮設灯標から335度250メートルの地点において、船首が060度に向き、速力2ノットとなったとき、安芸津丸の右舷船首部が長瀬灯浮標に接触した。
 当時、天候は曇で風力3の北風が吹き、潮候は高潮時で、微弱な南東流があった。
 その結果、安芸津丸に損傷はなく、長瀬灯浮標は頂部に損傷を生じたが、のち修理された。

(原因)
 本件灯浮標損傷は、夜間、横須賀港第7区久里浜湾内において、出航操船に当たる際、錨を活用して船首を出航針路に向ける操船を行わず、揚錨して船尾が切り上がる状況となったまま後進したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、横須賀港第7区久里浜湾内において、北風等を受け北物揚場岸壁から錨を巻き揚げながら離岸して出航操船に当たる場合、同岸壁前面の可航水域が狭いから、灯浮標などに接触しないよう、錨を活用して船首を出航針路に向ける操船を行うべき注意義務があった。ところが、同人は、左舷錨鎖が1節となったとき、風等に落とされるから一刻も早く揚錨して後進しようと思い、錨を活用する操船を行わなかった職務上の過失により、急いで揚錨して機関を後進にかけ、船尾が左舷側に切り上がる状況となったまま後進して長瀬灯浮標との接触を招き、同灯浮標の頂部を損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1号第3項を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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