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平成12年横審第95号
件名

プレジャーボートアルテマボードセーラー負傷事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成13年3月16日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(西村敏和、半間俊士、平井 透)

理事官
小金沢重充

受審人
A 職名:アルテマ船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:ボードセーラー

損害
B指定海難関係人が左大腿骨開放性粉砕骨折及び左膝靱帯損傷

原因
アルテマ・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守 (主因)
セールボード・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件ボードセーラー負傷は、アルテマが、見張り不十分で、セーリング中のボードセーラーを避けなかったことによって発生したが、ボードセーラーが、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年7月25日14時00分
 神奈川県鎌倉市由比ヶ浜沖合

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートアルテマ
全長 2.89メートル
登録長 2.49メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 106キロワット

3 事実の経過
 アルテマは、ウォータージェットポンプにより推進する2人乗りのFRP製水上オートバイで、A受審人が1人で乗り組み、友人1人を乗せ、遊走の目的で、平成11年7月25日14時00分少し前、神奈川県鎌倉市由比ヶ浜に設置された水上オートバイ発着用水路(以下「発着用水路」という。)を発し、沖合海域に向かった。
 これより先、A受審人は、同年5月に四級小型船舶操縦士の免許を取得して、翌6月に友人と2人でアルテマを共同購入し、千葉県富津岬沖合の東京湾内において、1回につき4ないし5時間の操縦練習を延べ5回行い、今回初めて相模湾に面した由比ヶ浜に出かけたもので、同日05時ごろ自家用車に連結したトレーラーにアルテマを載せ、友人3人とともに埼玉県狭山市を出発し、09時ごろ由比ヶ浜に到着してアルテマを降ろし、午前中は浜辺で休息をとり、13時55分ごろアルテマを係留している発着用水路に向かい、自らアルテマの操縦席に腰を掛けて操縦にあたり、友人を後部座席に乗せ、多数のボードセーラーがセーリング中の由比ヶ浜沖合に向けて発進した。
 ところで、由比ヶ浜は、滑川河口から西方約1,000メートルに広がる砂浜で、同河口から東方に広がる材木座海岸と並んで湘南海岸の代表的な海水浴場となっていて、多くの海水浴客で賑わうほか、プレジャーボートの遊走やボードセーリングなどが盛んなことから、海水浴シーズン中は、滑川河口から西方に約800メートル及び高潮時の海岸線から沖合約150メートルまでの海域を遊泳区域とし、その西側海域をセールボード発着区域(以下「発着区域」という。)として、両区域の間に発着用水路を設け、それぞれの区域を分割して海浜事故の防止が図られていた。
 発着用水路は、幅員が約8メートルの水路で、同水路と遊泳区域との境界を示すため、発着用水路の南東端(遊泳区域の南西端)にあたる、湘南港灯台から077.5度(真方位、以下同じ。)4,380メートルの地点に浮標識(以下「境界標識」という。)が設置され、同標識から海岸線に向けて352度方向に10メートル間隔でフロートを付けたロープが張られていて、更に同水路の西側にも、発着区域との境界を示す同様のフロートを付けたロープが張られていた。
 13時59分50秒A受審人は、境界標識から340度40メートルの地点において、針路を同水路に沿う172度に定め、速力を時速約20キロメートル(約11ノット)に上げたとき、同水路出口付近には数人のボードセーラーがセーリングしているのを認め、このとき、左舷船首31度130メートルのところに発着区域に向けてセーリング中のB指定海難関係人が乗ったセールボード(以下「怒木艇」という。)を視認し得る状況で、その後自船の前路を右方に横切り、衝突するおそれのある態勢で接近していたが、右舷方のボードセーラーに比べて怒木艇とは距離が離れているので大丈夫と思い、右舷方から接近するボードセーラーに気をとられ、左舷方の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かずに進行した。
 A受審人は、発着用水路の出口付近で同水路に入って来た水上オートバイとすれ違った後、13時59分56秒同水路を出たところで、怒木艇が同方位50メートルのところに接近していたが、依然として、右舷方のボードセーラーに気を取られ、更に船首方向からの波浪に気を取られて、このことに気付かず、行きあしを止めるなどして怒木艇を避ける措置をとらずに続航し、同艇が同方位約10メートルに迫ったところで、ようやくこれを認めてハンドルを右一杯にとったが、効なく、14時00分境界標識から194度20メートルにあたる、湘南港灯台から078度4,370メートルの地点において、アルテマは、船首が右に10度回頭して182度を向いたとき、原速力のまま、その船首部が、セールボードの右ノーズ部に、前方から62度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力6の南南西風が吹き、神奈川県全域には強風・波浪注意報が発表され、潮候は上げ潮の末期であった。
 A受審人は、直ちにB指定海難関係人の救助に当たり、ライフセーバーの協力を得て、救急車で病院に搬送した。
 また、B指定海難関係人のセールボードは、全長2.89メートル幅0.56メートルのFRP製ボードに、面積6.5平方メートルのフィルムクロス製セールを張ったフリーライド型と称するもので、同人が1人で乗り、セーリングの目的で、同日13時30分ごろ発着区域を発し、由比ヶ浜沖合に向かった。
 これより先、B指定海難関係人は、同日11時ごろ由比ヶ浜に到着してセールボードのセッティングに取り掛かり、12時ごろ発着区域から発進してセーリングを始め、由比ヶ浜沖合では、風速毎秒10メートルを超える南南西風が吹いていたので、ウインドアビームの状態でセーリングできるよう、発着区域と同区域の東南東方約1,500メートルにあたる和賀江島北西方との間を東南東又は西北西方向に反復セーリングし、1往復に7ないし8分を要し、30分ないし1時間ごとに休息のため同区域に戻っていた。
 B指定海難関係人は、由比ヶ浜沖合で反復セーリングした後、休息のため発着区域に戻ることにし、13時57分ごろ和賀江島北西方約200メートルのところで反転して、南南西風に対してポートタックとし、時速約30キロメートル(約16ノット)の速力で、針路を300度方向にとり、ウインドアビームで同区域に向けてセーリングを始めた。
 ところで、B指定海難関係人は、約8年のボードセーリング歴を有し、週に1回程度由比ヶ浜でセーリングをしていたので、同浜に発着区域や発着用水路が設けられ、水上オートバイが同水路に出入りしていることを知っていた。また、同人のセールは、大部分が透明でセール越しに見通すことができるものの、ボードの中央部に立てたマストに沿う長さ4.69メートルのラフの部分が、幅約30センチメートルにわたって不透明となっていて、マスト後方の操縦位置からは、マストとラフの不透明な部分によって斜め前方に死角を生じる状況であった。
 B指定海難関係人は、ポートタックのままマストの左後方に立って両手でブームを握った操縦姿勢をとり、右前方に死角を生じた状態で発着区域に向かい、13時59分50秒境界標識から133度90メートルの地点に達したとき、右前方21度130メートルのところに、発着用水路を発進したアルテマが存在し、その後同水路の出口に向けて南下していたが、進行方向を注視していて、死角を補う見張りを十分に行っていなかったので、死角に入っていたアルテマに気付かずに続航した。
 13時59分56秒B指定海難関係人は、アルテマが発着用水路の出口を通過し、自艇を避けずにそのまま南下を続け、衝突する危険が生じたが、依然として、進行方向ばかりを注視していて、このことに気付かず、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突して海中に投げ出された。
 その結果、アルテマは損傷がなかったが、セールボードは、右ノーズ部を破損し、B指定海難関係人が、左大腿骨開放性粉砕骨折及び左膝靭帯損傷を負った。

(原因)
 本件ボードセーラー負傷は、神奈川県鎌倉市由比ヶ浜沖合において、アルテマが、見張り不十分で、セーリング中のボードセーラーを避けなかったことによって発生したが、ボードセーラーが、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、神奈川県鎌倉市由比ヶ浜において、同浜に設定された水上オートバイ発着用水路を発進して沖合に向かう場合、同水路出口の沖合には多数のボードセーラーがセーリングしていたのであるから、接近するボードセーラーを見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、右舷方から接近するボードセーラーに気をとられ、左舷方の見張りを十分に行っていなかった職務上の過失により、左舷方から接近する怒木艇に気付かず、これを避けないまま進行して同艇との衝突を招き、B指定海難関係人に左大腿骨開放性粉砕骨折及び左膝靭帯損傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、神奈川県鎌倉市由比ヶ浜において、セールボード発着区域に向けてセーリング中、水上オートバイ発着用水路の出口付近に差し掛かった際、進行方向ばかりを注視していて、セールなどによる死角を補う見張りを十分に行っていなかったことは、本件発生の原因となる。
 以上のB指定海難関係人の所為に対しては、海難審判法第4条第3項の規定による勧告はしないが、セーリングするに当たっては、周囲の見張りを十分に行い、事故防止に努めなければならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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