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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 死傷事件一覧 >  事件





平成12年那審第41号
件名

漁船第一大城丸潜水者負傷事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成13年2月22日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(清重隆彦、金城隆支、花原敏朗)

理事官
長浜義昭

受審人
A 職名:第一大城丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士(5トン限定)
指定海難関係人
B 職名:潜水者

損害
推進器翼に欠損、B指定海難関係人が右多発性肋骨骨折

原因
見張り不十分

主文

 本件潜水者負傷は、第一大城丸が、見張り不十分で、浮上中の潜水者を避けなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年8月31日12時30分
 沖縄県島尻郡豊見城村与根漁港沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第一大城丸
総トン数 1.48トン
登録長 6.00メートル
機関の種類 電気点火機関
漁船法馬力数 30

3 事実の経過
 第一大城丸(以下「大城丸」という。)は、定置網漁業等に従事するFRP製漁船で、A受審人が単独で乗り組み、定置網漁業及び素潜りによる潜水漁業の目的で、船首0.0メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、平成11年8月31日12時00分沖縄県与根漁港を発し、同漁港西方900メートルばかりのところの定置網漁場に向かった。
 A受審人は、12時10分ごろ与根港第2防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から271度950メートルの定置網に至って袋網を仕掛け、そのころ、南南西方1,000メートルばかりのところに同じ漁業協同組合に所属するB指定海難関係人が使用している國丸が錨泊中であることを初めて認めた。
 そして、A受審人は、定置網での作業を終え、素潜りによる潜水漁を行うこととし、12時26分定置網を発し、針路を193度に定め、機関を半速力前進に掛け、9.0ノットの対地速力で、船尾右舷側に座り、船外機のレバーを左手で持ち、岡波島北方のさんご礁へ向かって進行した。
 ところで、A受審人は、岡波島北方のさんご礁付近では素潜りによる潜水漁業がよく行われていて、潜水者は発泡スチロール製のいけすを兼ねた浮きを引き、その浮きの至近で素潜り漁を行っていることを知っていた。
 A受審人は、12時29分防波堤灯台から235度1,340メートルの地点に達したとき、正船首280メートルのところに、國丸から300メートばかり離れて素潜り漁を行っているB指定海難関係人の存在を示す浮きを視認できる状況であったが、右舷船首約20度500メートルのところに國丸を認めていたことから、同指定海難関係人が同船の付近で素潜り漁を行っているものと思い、引き続き同船の付近の海面を見ていて、潜水者やその浮きを見落とすことのないよう、ほぼ正船首方の見張りを十分に行わなかった。
 大城丸は、A受審人がB指定海難関係人の存在を示す浮きに気付かないまま、これを避けずに同じ針路及び速力で続航し、12時30分防波堤灯台から229度1,550メートルの地点において、その推進器翼と浮上中のB指定海難関係人が右手に持っていた水中銃とが接触した。
 当時、天候は晴で風力3の南風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
 A受審人は、衝撃を感じて後方を振り返り、浮きと海上に浮上したB指定海難関係人を初めて認め、急いで同人を船上に収容し、与根漁港に帰港して救急車により病院に搬送するなど事後の措置に当たった。
 また、B指定海難関係人は、同人が所有する総トン数1.53トンのFRP製漁船國丸に単独で乗り組み、貝養殖漁業及び素潜りによる潜水漁業を行う目的で、同日10時00分与根漁港を発し、同漁港西方1,600メートルばかりのところで貝養殖漁業に従事したのち、同時40分素潜り漁を行うため岡波島北方のさんご礁に向かった。
 B指定海難関係人は、10時45分防波堤灯台から236度1,700メートルの地点に國丸を錨泊させ、薄茶色のテープを張った縦50センチメートル横40センチメートル高さ25センチメートルの発泡スチロール製で、いけすを兼ねた浮きに、長さ10メートルの合成繊維製索を付けてこれを引き、素潜り漁を始めた。
 そして、B指定海難関係人は、水深数メートルのさんご礁外縁に沿って國丸から離れて北東方に移動しながら漁を続け、12時30分いけすを兼ねた浮きの至近で浮上中、前示のとおり接触した。
 その結果、大城丸は推進器翼に欠損を生じ、B指定海難関係人が右多発性肋骨骨折等を負った。

(原因)
 本件潜水者負傷は、与根漁港沖合のさんご礁付近において、大城丸が、右舷前方に潜水者が使用する船を認めて航行する際、見張り不十分で、正船首方で浮上中の潜水者を避けなかったことによって発生したものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、与根漁港沖合のさんご礁付近において、右舷前方にB指定海難関係人が使用する國丸を認めて航行する場合、同さんご礁付近で素潜りによる潜水漁業が行われていることを知っていたのであるから、潜水者が自己の存在を示す浮きを見落とすことのないよう、ほぼ正船首方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、右舷前方に國丸を認め、同船の付近で素潜り漁を行っているものと思い、引き続きその方を見ていて、ほぼ正船首方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、正船首方に存在していた同指定海難関係人の存在を示す浮きに気付かず、浮上中の同指定海難関係人を避けずに進行して推進器翼と同指定海難関係人が持つ水中銃との接触を招き、大城丸の推進器翼に欠損を生じさせ、同指定海難関係人に右多発性肋骨骨折等を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人の所為は本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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