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平成10年門審第92号
件名

漁船第八明神丸乗組員死亡事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成13年2月27日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(相田尚武、原 清澄、西山烝一)

理事官
千手末年

受審人
A 職名:第八明神丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:第八明神丸漁ろう長

損害
K甲板員が溺死

原因
投網作業時の安全措置不十分

主文

 本件乗組員死亡は、投網作業時の安全措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成10年5月17日03時50分
 福岡県大島港北方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第八明神丸
総トン数 135トン
全長 43.20メートル
7.60メートル
深さ 3.05メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 860キロワット

3 事実の経過
 第八明神丸(以下「明神丸」という。)は、昭和60年3月に進水した、大中型まき網漁業に従事する鋼製網船で、上甲板上の船体中央部左舷寄りに機関室囲壁を配置し、同囲壁上部の船首側に操舵室を設け、同囲壁の船首側を前部甲板、船尾側を後部甲板とし、後部甲板を漁網置場に、同甲板後部をブルワークの高さまでスロープを設けて隆起させた船尾甲板としていた。
 明神丸の漁ろう設備は、前部甲板に環巻ウインチ及びパースダビットなどを、後部甲板に大手巻ウインチ及びクレーンとパワーブロックで構成される網さばき機を、船尾甲板にネットホーラーなどをそれぞれ設置したほか、同甲板船尾端に伝馬船をストッパーとフックにより係止していた。
 明神丸は、山陰沖合から東シナ海に至る海域であじ、さば漁に、三陸沖合海域でかつお漁に周年従事し、あじ、さば漁時の漁具は、身網及び袖網を併せた長さ約1,000メートル、身網の丈約270メートルの合成繊維製漁網で、その上辺に浮子(あば)及び浮子綱が、下辺に沈子(ちんし)、沈子環及び環綱ワイヤーなどがそれぞれ取り付けられていた。そして、漁網を収納する際は、網さばき機を使用して浮子を後部甲板の左舷側に、沈子を右舷側として、船首側の高さを約2メートルとし、船尾方に向かうに従って徐々に低くなるように8区分して山状にして置いていた。
 ところで、投網する際は、漁網の一端の浮子綱に結ばれた大手ロープと環綱ワイヤーを固縛した伝馬船を船尾端から降下させ、明神丸が右回頭しながら漁網を走出させて環状に魚群を包囲したのち、伝馬船から大手ロープと環綱ワイヤーを受け取り、同ワイヤーを巻き締めて揚網を行うもので、投網作業に4分ないし5分を要していたが、夜間、あじ、さば漁を行うときには、投下された海面上の漁網の位置や状態を把握するため、浮子綱のほぼ中間に、乾電池を電源とする浮標灯(以下「浮子灯」という。)を長さ約8メートルの細索(以下「浮子灯付ロープ」という。)によって取り付けていた。
 A受審人は、平成2年9月から船長として明神丸に乗り組み、同9年10月に安全担当者を兼務して操業に従事していたところ、投網作業を行う際、後部甲板で浮子綱に前示の浮子灯を取り付ける作業を行う甲板員川上剛一が、走出する漁網や浮子に同灯付ロープが絡まないよう、漁網上で同ロープをさばいていることを知っていたが、同業の他船でも同様の方法で行っており、同甲板員が慣れているから注意するまでもあるまいと思い、投網作業中に漁網上で作業を行わないよう同甲板員に指示することなく、放置していた。
 明神丸は、A受審人、B指定海難関係人及びK甲板員ほか20人が乗り組み、あじ、さば漁の目的で、船首2.3メートル船尾4.4メートルの喫水をもって、同10年5月11日08時30分僚船4隻とともに長崎県奈摩漁港を発し、17時ごろ山口県角島西方沖合の漁場に至って操業を続け、越えて16日天候悪化の兆しがあったので、乗組員の休養を兼ねて06時30分同県下関漁港に入港し、16時00分同港を発して18時30分ごろ福岡県大島港北方沖合の漁場に至り、魚群探索を開始した。
 B指定海難関係人は、平成5年から通信士兼副漁ろう長として明神丸に乗り組んだのち、同7年5月から漁ろう長として操業の総指揮に当たっていたもので、同10年5月17日03時46分ごろ投網準備開始をA受審人にベルで合図させ、乗組員を各配置に就かせて自らは操舵室右舷側の自席に着き、投網を開始することにしたが、後部甲板の配置に就いたK甲板員が浮子灯及び同灯付ロープを持った状態で漁網に乗っていることに気付かず、漁網上に乗組員が立ち入っていないかどうか、十分な確認をしないまま、投網の態勢に入った。
 こうして、明神丸は、A受審人が操舵操船に当たり、船首を風上の南西に向け、03時48分B指定海難関係人が投網を令して伝馬船を降下し、約9ノットの速力で右回頭しながら投網作業中、03時50分筑前大島灯台から真方位008度11.7海里の地点において、漁網上で浮子灯付ロープをさばいていたK甲板員が、走出する漁網に足を絡まれて転倒し、海中に転落した。
 当時、天候は晴で風力4の南西風が吹き、海上には白波があった。
 B指定海難関係人は、K甲板員が海中に転落したとの報告を受け、探索船など僚船を転落現場付近に急行させて捜索にあたらせる一方、A受審人は、投網作業を終えたのち、直ちに環綱ワイヤーを巻き締めて揚網作業にかかり、05時25分ごろ引き揚げられた漁網の魚捕部で同甲板員を発見した。
 その結果、K甲板員(昭和15年3月15日生)は、通報により来援した海上保安部の巡視船及び救急車で病院に急送されたが、のち溺死と検案された。

(原因)
 本件乗組員死亡は、夜間、福岡県大島港北方沖合において、まき網漁に従事中、投網作業時の安全措置が不十分で、漁網に甲板員が乗った状態で投網が開始され、走出する漁網に足を絡められた同甲板員が海中に転落したことによって発生したものである。
 投網作業時の安全措置が不十分であったのは、船長が、甲板員に漁網上で作業を行わないよう指示しなかったことと、漁ろう長が、投網開始時、漁網上に乗組員が立ち入っていないかどうか、十分に確認しなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、夜間、投網作業を行うにあたり、浮子綱に浮子灯を取り付ける作業を行う甲板員が同灯付ロープを漁網上でさばいていることを知った場合、走出する漁網に足を絡まれて海中転落するおそれがあったから、同甲板員に漁網上で作業を行わないよう指示すべき注意義務があった、しかるに、同受審人は、同甲板員が慣れているから注意するまでもあるまいと思い、同甲板員に漁網上で作業を行わないよう指示しなかった職務上の過失により、走出する漁網に足を絡ませた同甲板員を海中に転落させる事態を招き、死亡させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、夜間、福岡県大島港北方沖合において、乗組員が各配置に就いて投網態勢に入った際、漁網上に乗組員が立ち入っていないかどうか、十分に確認をしなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、その後、乗組員を漁網に乗せないよう、投網時の作業方法を改善した点に徴し、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。





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