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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 死傷事件一覧 >  事件





平成12年仙審第50号
件名

漁船第三日進丸乗組員死亡事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成13年2月22日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(根岸秀幸、上野延之、藤江哲三)

理事官
山本哲也

受審人
A 職名:第三日進丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
M甲板員が行方不明のち死亡認定

原因
漁ろう作業に対する安全措置不十分

主文

 本件乗組員死亡は、漁ろう作業に対する安全措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年4月3日09時20分
 秋田県男鹿半島北西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第三日進丸
総トン数 14.77トン
登録長 14.98メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 270キロワット

3 事実の経過
 第三日進丸(以下「日進丸」という。)は、小型底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人及び甲板員Mほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首1.00メートル船尾1.20メートルの喫水をもって、平成12年4月3日02時00分秋田県椿漁港を発し、04時30分男鹿半島北西方沖合約6海里の漁場に至って操業を始め、その後付近の海域で操業を繰り返していた。
 日進丸の上甲板上は、船首端から約1.5メートルの中央にタツがあり、その後方の前部甲板に1番及び2番の魚倉ハッチを順に設け、船首端から約6.5メートルに操舵室及び機関室囲壁を兼ねた長さ約6.0メートルの甲板室の前壁があって、同甲板室の後方に長さ約6.0メートルの後部甲板が配置されており、同甲板上の船尾端から約4.2メートル前方に2台のワイヤリールが左右に設置されていた。
 ところで、上甲板の両舷側は、上甲板からの高さ約1メートルのブルワークで囲われ、タツの後方約3.5メートルの左舷側ブルワークに幅約1.4ートルの舷門が設けてあって、舷門には、就航当時からブルワークと同じ高さまで上方から差し込む方式の扉板が取り付けてあったが、いつしか、高さ約40センチメートル(以下「センチ」という。)厚さ約2センチの木製の簡易な差し板(以下「差し板」という。)1枚を挿入するようになっていた。
 また、日進丸の操業方法は、後部甲板に置かれている漁網の一方の引き綱の先端に取り付けた浮標を操業開始地点に投入し、航走しながら右舷船尾からワイヤリールを介して引き綱を繰り出し、その後菱形を描くように転舵しながら漁網及び他端の引き綱を順次繰り出し、投入した浮標地点に戻ってこれを回収し、漁網両縁に接続した引き綱で潮流に逆行する方向に20分ほど曳網したのち、舷門から揚網する方法で行われていた。
 A受審人は、各種漁船に専ら甲板長として乗船した経歴を有し、平成6年8月海技免許を取得したのち同11年9月日進丸に船長として乗り組んだもので、漁ろう長及び安全担当者も兼務して操業の指揮に当たり、日進丸には作業用救命衣が乗組員数分備え付けられていて、漁ろう作業に従事する際の安全措置として同救命衣を着用する必要があることを認めていたが、平素から、作業用救命衣を着用するよう乗組員に指導していなかった。
 09時14分A受審人は、折から北西方からの波高約1メートルの波浪があって時折波高が高起する状況下、当日5回目の操業に取り掛かることにし、そのとき、M甲板員が2番魚倉ハッチの左舷側で魚の選別作業を、他の甲板員がその船首側で魚の箱詰作業をそれぞれ行っていることを知っており、高起した波浪を受けて船体が傾斜すると作業中の乗組員が海中に転落するおそれがあったが、慣れている作業なので海中に転落することはあるまいと思い、作業用救命衣を着用するよう指示するなど、漁ろう作業に対する安全措置を十分にとることなく、機関長を引き綱用ワイヤリールの操作に就けて自らは操舵室において単独で手動操舵に当たり、入道埼灯台から344度(真方位、以下同じ。)5.9海里の地点で浮標を投入したのち、機関を対地速力7.0ノットの全速力前進にかけ、進路を西方にとって同地点を発し、引き綱を繰り出させながら転針予定地点に向けて進行した。
 こうして、日進丸は、波浪を右舷前方から受けて船体が横揺れしながら最初の転針予定地点に向けて続航し、波高が約1.5メートルに高起した波浪を右舷前方から受けて船体が左舷側に大傾斜した際、耳付防寒帽子、上下の作業服及び同雨合羽、ゴム手袋及びゴム長靴を着用したM甲板員が、右舷方に向かってしゃがんだ姿勢で作業に従事中、09時20分入道埼灯台から338度6.2海里の地点において、仰向けになるような格好に身体の平衡を失し、舷門の差し板越しに海中に転落した。
 当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、視界は良好で、海上にはやや波浪があり、水温は摂氏18度であった。
 A受審人は、右舷後方を見ていてM甲板員の海中転落を目撃しておらず、他の甲板員の報告でそのことを初めて知り、操舵室左舷側出入口から後方の海面を見たところ、見え隠れするM甲板員の頭部を認め、直ちに主機を中立として左舵一杯を取ったが、繰り出していた引き綱の揚収作業に手間取り、09時50分ようやく転落現場付近に引き返したもののM甲板員の姿が見えず、のち、来援した僚船、海上保安部の巡視船及びヘリコプターなどと共に翌々5日まで捜索を続けたが、M甲板員を発見することができなかった。
 その結果、M甲板員(昭和16年4月15日生)が行方不明となり、のち、死亡と認定された。

(原因)
 本件乗組員死亡は、秋田県男鹿半島北西方沖合において、折からの波浪を受けて船体が横揺れする状況下、甲板上で漁ろう作業を行わせる際、同作業に対する安全措置が不十分で、作業用救命衣を着用しないまま魚選別作業中の乗組員が、身体の平衡を失して海中に転落したことによって発生したものである。
 安全措置が十分でなかったのは、船長が、乗組員に甲板上で漁ろう作業を行わせるに当たり、作業用救命衣の着用を指示しなかったことと、乗組員が同救命衣を着用しなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、秋田県男鹿半島北西方沖合において、折から波浪を受けて船体が横揺れする状況下、甲板上で漁ろう作業を行わせる場合、作業用救命衣を着用するよう指示するなど同作業に対する安全措置を十分にとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、慣れている作業なので海中に転落することはあるまいと思い、漁ろう作業に対する安全措置を十分にとらなかった職務上の過失により、作業用救命衣を着用しないまま作業中の乗組員が、身体の平衡を失して海中に転落し、のち死亡と認定されるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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