日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 死傷事件一覧 >  事件





平成12年函審第69号
件名

漁船第十八宝来丸漁船第二十一正徳丸潜水者負傷事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成13年2月27日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(織戸孝治、大石義朗、大山繁樹)

理事官
東 晴二

受審人
A 職名:第十八宝来丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第二十一正徳丸甲板員 海技免状:一級小型船舶操縦士
指定海難関係人
C 職名:潜水者

損害
C指定海難関係人が左踵骨開放骨折及び左アキレス腱不全断裂

原因
上方水面に対する安全確認不十分

主文

 本件潜水者負傷は、第十八宝来丸が、漂泊して潜水器漁業に従事中の第二十一正徳丸を航過する際の航過距離が十分でなかったことによって発生したが、第二十一正徳丸が、第十八宝来丸に対して接近しないよう合図を行わなかったことも一因をなすものである。
 潜水者が、上方水面に対する安全確認が不十分で、第十八宝来丸の通過を待つことなく浮上したことは、本件発生の原因となる。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年7月9日10時00分
 北海道相泊漁港北方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第十八宝来丸 漁船第二十一正徳丸
総トン数 0.9トン 1.6トン
登録長 6.57メートル 7.62メートル
機関の種類 電気点火機関 電気点火機関
漁船法馬力数 30 30

3 事実の経過
 第十八宝来丸(以下「宝来丸」という。)は、なまこ潜水器漁業に従事する、船外機1基と船体後部に舵輪を備えたFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、平成11年7月9日07時00分A旗の信号板を掲揚したまま北海道目梨郡羅臼町にある相泊漁港を発し、同漁港北北東方2.5海里ばかりの観音岩付近の漁場に向かい、なまこ約100キログラムを漁獲したところで、荒天模様となったため、操業を中止し、帰途に就くため、09時46分相泊港南防波堤灯台から030度(真方位、以下同じ。)2.42海里の地点を発進した。
 ところで、なまこ潜水器漁の操業方法は、2人一組となって1人が自給器式水中呼吸器を装備して海中に潜ってなまこを採取してなまこ袋に貯蔵し、なまこ袋を揚収するため同袋に結索されたロープの端に結び付けられた浮体を海面上に浮上させたのち、水面下約3メートルの地点で約1分間の減圧措置待機を行ってから船上に上がり、一方、他の1人は、潜水作業中、船上で周囲の見張りや潜水者の発する気泡の確認に当たるなどして船舶及び潜水者の安全を確保しながらなまこ袋の揚収などの船上作業を行うという操業形態であった。
 A受審人は、発進時から操舵操船に当たって知床半島東岸に沿って南下し、09時54分相泊港南防波堤灯台から026度2.01海里の地点に達したとき、船首少し左600メートルばかりのところに、A旗の信号板を掲揚して、陸岸から延びる定置網とその東方沖側のこんぶ養殖施設との間の可航幅約50メートルの水路内の同定置網の東端付近で、北方を向首して漂泊している第二十一正徳丸(以下「正徳丸」という。)を初認した。
 初認時A受審人は、同業船は常時A旗の信号板を掲揚していること、正徳丸が定置網の側で漂泊していること、また、潜水器漁業は休憩時間が必要であること、更には、同人が漁場に向かう際に沖合で同船が操業中であったことを認めていたことから、同船は休息のために漂泊しており、同船の付近に潜水者はいないものと思い、潜水者が操業中であることを予測して、同人に接触しないよう、同船と十分な船間間隔を保つことなく、同船の右舷側を約5メートル離し、挨拶をして航過することとして徐々に左転を開始した。
 09時55分A受審人は、相泊港南防波堤灯台から026度1.95海里の地点で、針路を186度に定め、3.3ノットの対地速力で進行したとき、潜水中のC指定海難関係人の頭上に向かう態勢となり、同時57分前路に長さ約20センチメートル(以下「センチ」という。)、直径約6センチの円筒形のそれぞれが白及び赤色に塗装された2個の浮体が水面上に浮き上がったが、前示のとおり正徳丸の付近には潜水者はいないものと思っていたこと、また、水面上に白波が立っていたことから、同浮体に気付かず、正徳丸の操舵室内にB受審人を認めて挨拶のため手を振りながら続航中、10時00分相泊港南防波堤灯台から028度1.71海里の地点で、宝来丸は、原針路、原速力のまま、その船底及び推進器翼が浮上してきたC指定海難関係人に接触した。
 当時、天候は曇で風力3の南風が吹いて白波が立ち、潮候は上げ潮の中央期であった。
 A受審人は、10時00分少し過ぎ叫び声を聞いて正徳丸を振り返ったところ、異常事態を認めて同船に接近し、初めてC指定海難関係人との接触に気付き、救助措置に当たった。
 また、正徳丸は、なまこ潜水器漁業に従事する、汽笛及び信号灯を装備しない、船外機1基と船体前部に操舵室を備えたFRP製漁船で、C指定海難関係人が船長としてB受審人と乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、同日07時00分A旗の信号板を掲揚したまま相泊漁港を発し、同時15分ごろから観音岩南方の漁場を移動しながら、C指定海難関係人とB受審人とが交互に潜水しながら操業に当たった。
 09時40分前示発生地点付近で、正徳丸は、北方を向首して機関中立状態で、B受審人が船上作業に当たり、C指定海難関係人がなまこ袋2個を所持して潜水を開始した。
 B受審人は、船上から潜水中のC指定海難関係人の発する気泡の監視、周囲の見張り及びなまこ袋の揚収に当たっていたところ、09時57分正徳丸の右方約5メートルのところに2つ目のなまこ袋に結索されたロープの端に結び付けられた浮体が水面上に浮上したのを認め、同時に船首少し右300メートルばかりのところに宝来丸を初認した。
 その後B受審人は、宝来丸が接近するにつれて同船とC指定海難関係人との接触の危険を感じたが、手を振るなどの身振り等で同船に対して接近しないよう合図を行うことなく、操舵室に行き同人が浮上するのを待ち受けた。
 一方、C指定海難関係人は、2つ目のなまこ袋に結索されたロープの端に結び付けられた浮体を浮上させたあと同袋に石を重し替わりに入れて海底に置き、正徳丸船上に上がるため、09時59分少し前同ロープを伝って水面下約3メートルのところまで浮上し、減圧措置待機をした。
 C指定海難関係人は、待機中、宝来丸の推進器音を聞き、その音の方向は判別できなかったものの、頭上付近に正徳丸の船底を認めていたこと、また、付近を航行する船舶は正徳丸が潜水器漁業を行っていることを知っているので、まさか自分の上方水面を航行する他船はいないものと思い、上方水面に対する安全確認が不十分で、同推進器音が遠ざかるのを待つことなく、10時00分少し前減圧措置待機時間が過ぎたので、ロープを伝って浮上したところ、前示のとおり宝来丸に接触した。
 その結果、C指定海難関係人は、左踵骨開放骨折及び左アキレス腱不全断裂を負った。

(原因)
 本件潜水者負傷は、相泊漁港北方沖合において、宝来丸が、漁場から帰航中、漂泊して潜水器漁業に従事中の正徳丸を航過する際、同船との航過距離が十分でなく、同船至近の水面に浮上中の潜水者に向首進行して、宝来丸の船底及び推進器翼を同人に接触させたことによって発生したが、正徳丸が、宝来丸に対して接近しないよう合図を行わなかったことも一因をなすものである。
 正徳丸の潜水者が、浮上のため海面下において減圧措置待機中、接近する宝来丸の推進器音を聞いた際、上方水面に対する安全確認が不十分で、同船の通過を待つことなく浮上したことは、本件発生の原因となる。

(受審人の所為)
 A受審人は、相泊漁港北方沖合において、漁場から帰航中、前路にA旗の信号板を掲揚して漂泊中の正徳丸を認めた場合、同船が潜水器漁業に従事中であることを予測して、同船の潜水者に接触しないよう、同船との航過距離を十分にとるべき注意義務があった。しかるに同受審人は、同業船は常時A旗の信号板を掲揚していること、正徳丸が定置網の側で漂泊していること、また、潜水器漁業は休憩時間が必要であること、更には、同人が漁場に向かう際に沖合で同船が操業中であったことを認めていたことから、同船は休息のために漂泊しており、同船の付近には潜水者はいないものと思い、同船との航過距離を十分にとらなかった職務上の過失により、同船至近の水面に浮上中のC指定海難関係人に向首進行して接触を招き、同人に左踵骨開放骨折及び左アキレス腱不全断裂を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、相泊漁港北方沖合において、漂泊して潜水器漁業中の正徳丸船上で、自船及び潜水者の安全確保を行う業務に従事中、接近する宝来丸を認めた場合、正徳丸至近の水面にC指定海難関係人が浮上中であったから、手を振るなどの身振り等で同船に対して接近しないよう合図を行うべき注意義務があった。しかるにB受審人は、C指定海難関係人と宝来丸との接触の危険を感じたが、操舵室で同人が浮上するのを待ち受けるのみで、同船に対して接近しないよう合図を行わなかった職務上の過失により、C指定海難関係人と宝来丸との接触を招き、同人を前示のとおり負傷させるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C指定海難関係人が、相泊漁港北方沖合において、正徳丸至近の水面に浮上するため、水面下において減圧措置待機中、接近する宝来丸の推進器音を聞いた際、上方水面に対する安全確認を行わなかったことは本件発生の原因となる。
 C指定海難関係人に対しては、勧告するまでもない。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION