日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 死傷事件一覧 >  事件





平成12年函審第71号
件名

漁船第28昭盛丸乗組員負傷事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成13年2月16日

審判庁区分
函館地方海難審判庁

審判官
大石義朗

副理事官
堀川康基

受審人
A 職名:第28昭盛丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:第28昭盛丸甲板員

損害
B指定海難関係人は右足前部切断の重傷(約3箇月の入院加療)

原因
浮標樽回収作業の安全に対する配慮不十分

裁決主文

 本件乗組員負傷は、かけ回し式底引き網漁に従事中、浮標樽回収作業の安全に対する配慮が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年5月21日12時30分
 北海道釧路港南南東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第28昭盛丸
総トン数 14.95トン
全長 19.05メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 496キロワット

3 事実の経過
 第28昭盛丸(以下「昭盛丸」という。)は、小型機船底引き網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか2人が乗り組み、かけ回し式底引き網漁の目的をもって、船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水で、平成12年5月20日23時00分北海道釧路港を発し、翌21日02時ごろ同港の南南西方14海里ばかりの漁場に至って操業を開始した。
 昭盛丸は、船首楼に巡らせたブルワーク上縁に鋼製のハンドレールを巡らせ、上甲板上は、船首から順に、船首楼空所、前部甲板、船橋、これに接して機関室囲壁、同囲壁内後部が賄室及び後部甲板となっており、前部甲板には、船丈に大小2個の魚倉ハッチを設けてさぶたを被せ、船橋前面から機関室囲壁後面の間の両舷側を通路とし、機関室囲壁屋根の後部にラインホーラーを設置し、両舷通路上に突出してはさみドラムを各1個設け、後部甲板前部にトロールウインチを装備し、上甲板下は、船首から順に、魚倉、機関室、船員室及び舵機室となっていた。
 ところで、昭盛丸における右回しのかけ回し式底引き網漁の操業方法は、旗竿の標識を連結した浮標樽と引き綱の連結用ロープに右舷側引き綱の先端を結んで同樽を投下したのち、全速力で引き綱を延出し、約2,200メートル延出したところで肩折りと称して90度右転して微速力に減じ、約100メートル延出したところで投網したのち、左舷側の引き綱を約100メートル延出して再び肩折りして針路を初めの針路の反方位とし、先に延出した右舷側引き綱と並行に約200メートルの間隔をあけて全速力で約1,600メートル延出したのち、同樽に向かい、約100メートルに接近したとき機関を微速力に減じ、これを回収して網を底引きしたのち、揚網するというものであった。
 浮標樽回収作業は、右舷側で行われ、甲板員1人が船首楼甲板右舷側で、直径約15ミリメートル(以下「ミリ」という。)長さ約2メートルの鉄パイプの先端にかぎ4本を、後端に直径約12ミリ長さ約5メートルのロープをそれぞれ取り付けたかぎ竿の同ロープを同甲板右舷側のハンドレールに結び、同竿を持って標識と浮標樽を右舷側に見て接近し、頃合いを見計らって同甲板員が同竿を投下して標識と浮標樽の連結用ロープに引っ掛け、行き足で浮標樽が舷側まで寄ったのち、機関室囲壁横の通路に待機している甲板員2人が標識と浮標樽の、及び同樽と引き綱の連結用ロープにそれぞれ連結した浮標樽回収用ロープに手かぎを引っ掛けて揚げ、ラインホーラーのはさみドラムで巻き揚げて回収するものであるが、同竿投下にあたっては、足元を確認しないと、同竿のロープのコイル部に足を踏み入れたまま投下して緊張した同ロープに足を緊縛されるおそれがあった。
 A受審人は、操業開始時から操舵室で操業の指揮に当たり、5回の投揚網でかれい約100キログラムを獲たのち、6回目の投網を行うこととし、21日12時11分釧路埼灯台から158度(真方位、以下同じ。)18.3海里の地点において浮標樽を投下し、機関を全速力前進にかけ、針路を090度に定め、9.5ノットの対地速力で引き綱を延出しながら進行した。
 A受審人は、12時18分半、釧路埼灯台から155度18.8海里の地点に達したとき肩折りして針路を180度に転じ、機関を微速力前進に減じて3.0ノットの対地速力で引き綱約100メートルを延出して投網したのち、左舷側の引き綱約100メートルを延出し、同時21分再び肩折りして針路を270度に転じ、機関を全速力前進にかけて9.5ノットの対地速力で引き綱を延出しながら進行し、同時26分半同灯台から157度18.5海里の地点に達したとき、針路を浮標樽にほぼ向首する290度に転じた。
 針路を290度に転じたとき、A受審人は、船首配置のB指定海難関係人が船首楼右舷側でヘルメットを被り、上下のかっぱを着てゴム長靴を履いて作業用救命衣を着け、浮標樽回収作業のためかぎ竿の投下準備をしているのを認めた。しかし、同受審人は、浮標樽回収作業の安全に対する配慮が不十分で、同指定海難関係人が同作業に慣れているからかぎ竿のロープのコイル部に足を踏み入れることはあるまいと思い、同竿を投下するときには足元を確認するよう指示することなく続航し、浮標樽の手前約100メートルに接近したとき、機関を微速力前進に減じて3.0ノットの対地速力で、同樽をわずか右方に見ながら進行した。
 B指定海難関係人は、針路が290度となったとき、船首楼甲板右舷側で浮標樽回収作業のためかぎ竿の投下準備をしていたが、慣れていることから、同作業の安全に対する配慮を十分に行わず、足元を確認しなかったので、同かぎ竿のロープの一部がコイルし、そこに右足を踏み入れていることに気付かず、同竿投下の頃合いを見計らっていると、12時30分わずか前、同樽が手頃の位置に接近したので、同竿を投下したところ、12時30分釧路埼灯台から158度18.3海里の地点において、標識と浮標樽の連結用ロープに引っ掛かって緊張した同竿のロープに足先を緊縛された。
 A受審人は、B指定海難関係人が浮標樽を船側に寄せるためのかぎ竿を投下したのを見て、機関のクラッチを切り、船橋右舷側の窓から顔を出して同樽の方を見ていたところ、突然同人のゴースタンという叫び声を聞いて振り向き、同人の右足に同かぎ竿のロープが絡んでいるのを認め、直ちに機関のクラッチを後進としたところ、標識と浮標樽の、同樽と引き綱の連結用ロープにそれぞれ連結した浮標樽回収用ロープがプロペラ羽根に絡んで機関が停止したので、所属漁業協同組合に事故の発生を通報し救助を要請した。
 当時、天候は晴で風力1の東風が吹き、海上は平穏であった。
 その結果、B指定海難関係人は、右足前部切断の重傷を負い、約3箇月の入院加療を受けた。

(原因)
 本件乗組員負傷は、北海道釧路港南南東方沖合の漁場において、かけ回し式底引き網漁に従事中、浮標樽回収作業を行う際、同作業の安全に対する配慮が不十分で、船首楼ブルワーク右舷側のハンドレールに結んだ同樽を船側に寄せるためのかぎ竿のロープのコイル部に足を踏み入れたまま同竿が投下され、同ロープの緊張により足先を緊縛されたことによって発生したものである。
 安全に対する配慮が十分でなかったのは、操業指揮者の船長が、船首配置の甲板員に対し、浮標樽を船側に寄せるためのかぎ竿を投下するときは足元の確認をするよう指示しなかったことと、同甲板員が、同竿を投下するとき、足元を確認しなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、北海道釧路港南南東方沖合の漁場において、かけ回し式底引き網漁に従事中、船首配置の甲板員にロープの付いたかぎ竿を投下して浮標樽の回収作業を行わせる場合、同竿のロープのコイル部に足を踏み入れたまま同竿を投下して同ロープの緊張により足先を緊縛されるおそれがあったから、同人に対し、同竿を投下するときには足元の確認をするよう指示すべき注意義務があった。しかし、同受審人は、浮標樽回収作業の安全に対する配慮が不十分で、同甲板員が慣れていることからかぎ竿のロープのコイル部に足を踏み入れることはあるまいと思い、同人に対し、同竿を投下するときには足元の確認をするよう指示しなかった職務上の過失により、同竿のロープのコイル部に足を踏み入れていることに気付かないまま同竿が投下され、同ロープの緊張により足先を緊縛される事態を招き、右足前部切断の重傷を負わせるに至った。
 B指定海難関係人が、浮標樽を船側に寄せるためのかぎ竿を投下する際、足元を確認しなかったことは本件発生の原因となる。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION