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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 死傷事件一覧 >  事件





平成12年長審第27号
件名

旅客船第二神集島号旅客負傷事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成13年1月19日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(平野浩三、森田秀彦、河本和夫)

理事官
喜多 保

受審人
A 職名:第二神集島号船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
船体及び護岸は損傷なし、旅客1人が右肩関節捻挫

原因
操船不適切

主文

 本件旅客負傷は、浮き桟橋に着桟操船中、前方護岸との距離の確認が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年1月7日14時38分
 佐賀県神集島漁港

2 船舶の要目
船種船名 旅客船第二神集島号
総トン数 14トン
全長 13.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 264キロワット

3 事実の経過
 第二神集島号は、佐賀県の唐津港、湊浜漁港及び神集島漁港間を定期に就航するFRP製旅客船で、A受審人ほか1人が乗り組み、旅客22人を乗せ、船首1.0メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成11年1月7日14時30分湊浜漁港を発し、神集島漁港に向かった。
 ところで、神集島漁港は、南西方に防波堤入口を持つ内及び外防波堤を有し、南西方以外は陸地で囲まれているため風の影響が少なく、第二神集島号の発着場付近には、内防波堤入口から北東方75メートルのところにコンクリート製護岸があり、同護岸からほぼ直角の220度(真方位、以下同じ。)の方向に長さ30メートル幅13メートルの突堤が設けられ、その北西側中央部に突堤と平行に長さ13メートル幅約4メートルの浮き桟橋(以下「桟橋」という。)が設置され、桟橋北東端から護岸までの距離が約6メートル、突堤と桟橋間が約3メートルで、その間に幅約1メートルのアルミ製の渡し板が掛けられ、第二神集島号は桟橋西側に入船右舷付けで着桟するようになっており、係留索は同船の乗組員が桟橋に移乗して取っていた。
 14時35分A受審人は、神集島港防波堤灯台から044度470メートルの地点において、内防波堤突端を通過し、桟橋に対して約15度の角度で右舷付けに着桟する態勢で機関を極微速前進にかけ、約3ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
 14時36分半少し前A受審人は、桟橋先端から約10メートルの距離で機関を中立にし、惰力で同態勢のまま進行し、同時37分船首が桟橋から約0.5メートルの距離になったとき、乗組員が桟橋に移乗したが、船尾が桟橋から約1メートル離れていたので係留索を取ることが出来ず、船尾を桟橋に引きつけようとしてわずかに機関を後進にかけたところ、船首が桟橋から離れ、船体が桟橋から約1メートルのところで桟橋に平行な状態で停止したため、再度機関を使用することとし、客室出口付近に立っていた旅客に対して着桟が終わるまで着席しているよう注意を与えた。
 ところでA受審人は、着桟直前に桟橋からの係留索を船首に係止したのち機関を前進にかけて船尾を桟橋に寄せると、桟橋が0.5メートル程度船とともに移動し、その際突堤にかけた渡し板のローラが突堤からずれ落ちることがあるので、桟橋に下りた乗組員が先に桟橋の係留索を船尾に係止してから船体を桟橋に引き寄せることにしていた。
 こうしたことからA受審人は、桟橋から1メートル離れて平行な状態から船尾を桟橋に寄せようとして舵と機関を種々使用しているうち、14時38分わずか前船体が桟橋から約2メートル離れたところで桟橋とほぼ平行となって船首端が桟橋から2メートル程度はみだし、船首と護岸との距離が4メートルばかりとなって著しく接近した状態において、機関を操作する前に護岸との距離を確認することなく、早く着桟させようとして船尾を先に桟橋に寄せることに気を取られ、左舵を取り機関をわずかに前進にかけたところ、14時38分神集島防波堤灯台から043度490メートルの地点において、第二神集島号は、約1.0ノットの行きあしで、船首を040度に向けて護岸にほぼ直角に衝突し、旅客が衝撃を受けた。
 当時、天候は晴で港外では風力4の西風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
 その結果、船体及び護岸に損傷はなかったが、旅客の1人が右肩関節捻挫を負った。

(原因)
 本件旅客負傷は、佐賀県神集島漁港において、護岸間近に設置された浮き桟橋に着桟する際、前方護岸との距離の確認が不十分で、船首が護岸に著しく接近した状態から機関を操作して前進行きあしをつけたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、佐賀県神集島漁港において、護岸間近に設置された浮き桟橋に着桟する場合、着桟直前に船首が護岸に著しく接近していたのであるから、機関を操作する前に護岸との距離を十分に確認すべき注意義務があった。しかしながら同人は船尾を先に桟橋に寄せることに気を取られ、護岸との距離を十分に確認しなかった職務上の過失により、左舵を取って機関をわずかに前進にかけ、行きあしをつけて護岸と衝突し、その衝撃で旅客の負傷を招き、旅客1人に右肩関節捻挫を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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