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平成12年長審第16号
件名

作業船第三十七日の出丸転覆事件

事件区分
転覆事件
言渡年月日
平成13年3月29日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(平野浩三、森田秀彦、河本和夫)

理事官
弓田

受審人
A 職名:第三十七日の出丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:第二日の出号作業指揮者 

損害
沈没、濡れ損

原因
船首の振れ回りに対する配慮不十分

主文

 本件転覆は、沖出しする起重機船の揚錨作業において、起重機船の船首振れ回りにより、急激に作業船が横引き状態になったことによって発生したものである。
 作業指揮者が、起重機船の船首振れ回りに対する配慮が十分でなかったことは本件発生の原因となる。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年10月6日15時15分
 五島列島奈留瀬戸

2 船舶の要目
船種船名 作業船第三十七日の出丸
総トン数 19.0トン
全長 13.50メートル

3 事実の経過
 第三十七日の出丸(以下、「日の出丸」という。)は、鋼製作業船で、205トン吊り旋回起重機を装備する第二日の出号(以下、「起重機船」という。)の投錨及び係留における操船中の引船作業に従事する目的で、A受審人ほか1人が乗り組み、機重機船、総トン数111トンの引船第六十八日の出丸及び長さ9.5メートルの揚錨船作業船第二十八日の出丸と船団を構成し、船首1.2メートル船尾2.6メートルの喫水をもって、船団とともに平成11年10月5日12時30分長崎県福江港を発し、同日09時40分奈留瀬戸の幅員1,250メートルの最狭部の、掛リ埼鼻灯台から263度(真方位、以下同じ。)1,300メートルの地点の久賀島東岸福見地区護岸工事現場に至り、起重機船を係留した。
 ところで起重機船は、非自走式の長さ48.0メートル幅22.0メートル深さ3.5メートル、総トン数1,305トンの鋼製箱形台船で、B指定海難関係人が作業指揮者としてほか2人が乗り組み、福江港から奈留瀬戸の南部沖合まで第六十八日の出丸に曳航され、それより係留地点までは、水深や潮流の関係から小回りの利く日の出丸と第二十八日の出丸とに曳かれ、その船固めは、B指定海難関係人の指揮の下に、前示の両引船を使用して潮流が南西流のほぼ最強時約3ノットの中で行われ、船首の距岸をほぼ20メートル、船首方向を280度に向け、船尾部各舷に300メートルの錨索を有する係船機により両舷船尾端から錨索220メートルを船尾方約40度の方向にそれぞれ延出して投錨し、船首係留索を両舷船首端から陸上に係止されたが、投錨時には潮上側の右舷錨から投錨するため、潮下側の左舷係船機の錨索がドラムの巻きしろ一杯近くまで延出され、2日間の予定で護岸消波ブロックの据付工事を開始した。
 係留地点は奈留瀬戸最狭部の西岸で、作業現場から約200メートル沖合の投錨地点付近の潮流は海岸線の凹凸が大きいため、投錨地点が激流となることが海図上にも示されていたものの、B指定海難関係人は、これまで潮流が作業に支障をきたすことがなかったことから、海図を検討するなど投錨地点付近の潮流については考慮していなかった。
 翌6日08時00分B指定海難関係人は、消波ブロックの据付工事を再開し、14時30分同工事を終了して、起重機船の揚錨作業の指揮に当たり、奈留瀬戸の潮流が福江港の低潮時から約2時間後の14時頃には北西流となることを知っており、このようなところでの揚錨作業において、投錨時の両錨の間隔が約250メートルで係船機の錨索の巻きしろを考慮すれば、揚錨時において潮下側の錨が上がる直前には、もう一方の繰り出す錨索は係船機のドラムに巻きしろが少なくなり、十分に延ばすことができず、また投錨地点が瀬戸の潮流の本流に近く船体が圧流されることもあって大きな張力がかかることになり、潮下側の錨が海底から離れたときに、潮上側の強く張った錨索の反動で船体が潮上側に急激に移動することが予見できたが、このことに気付かず、係留時の船固めと同様に何事もないと思い、揚錨作業において起重機船の急激な船首振れ回りに配慮することなく、またA受審人に対しても、船尾方に障害物がない広い水域であったことから、両舷錨を揚げてから日の出丸を南西方の潮上側に曳かせる予定で、それまで特に連絡を取る必要もないと思い、同人に対して起重機船の船首の振れ回りの危険について注意を与えることなく、携帯無線機を居住区に置いたまま、離岸作業の配置に就いた。
 14時55分B指定海難関係人は、起重機船の船首端中央部からの引き綱25メートルを日の出丸のフックにかけて陸上からの船首係留索を解纜(かいらん)し、両舷の係船機にそれぞれ甲板員を配置し、左舷船尾方の錨索の延出及び右舷船尾方の錨索の巻揚げを指示して自らも左舷係船機において巻揚げドラムの錨索の整理作業に当たりながら、揚錨作業を開始した。
 14時59分A受審人は、起重機船が陸岸から約80メートルの距離になって右舷方の洗岩と余裕のある態勢となり、B指定海難関係人に合図して引き綱を50メートルに延ばしてもらって、船首をほぼ260度に向け、機関を中立として揚錨作業が終わるのを待つことにした。そのころ起重機船は、次第に潮下側の右舷錨に近付いていたが、起重機船の船首方位に大きな変化がなく、潮流の影響を受けていなかった。
 15時10分A受審人は、起重機船が陸岸から180メートル離れたころ、次第に北西に流れる瀬戸本流の影響を受け始め、起重機船の船首が右方に圧流され気味となり、船首が約290度に向いた起重機船を第六十八日の出丸が待機する瀬戸の南方に向けて曳く準備として機関を半速力前進にかけてわずかに左舵をとって、起重機船の船首方向と同方向に曳き方を開始した。
 そのころB指定海難関係人は、右舷係船機ドラムの錨索巻き取りの整理作業に没頭していたため、左舷係船機ドラムの錨索の巻きしろが少なくなって延出することができなくなったこと及び左方からの潮流の圧流とにより、左舷錨索が強く張って間もなく右舷錨が揚がったときには、船体が急激に動き始める状況となったこと並びに日の出丸が曳き方を開始したことなどに気付かず、同作業を続けていた。
 15時15分少し前A受審人は、起重機船の船首を290度の方向に向けて、日の出丸の船首と引き綱の方向に向けて機関を半速力前進で曳いていたとき、折からの約2ノットの北西流により、起重機船が潮下側に圧流されると同時に右舷錨索の巻き締めが終了したことから左舷船尾の錨索の巻きしろが少なくなり、錨索を延ばすことができずに錨索が強く張ったため、起重機船の圧流より更に左舷船尾の錨索の張力が大きくなり、右舷錨が海底から離れたとき、錨索の張力の反動で左舷船尾が左方に引き寄せられ、それと同時に急激に船首が右方に振れ回り始めたが、日の出丸を操船していて起重機船の錨索の状態を知ることができなかった。
 A受審人は、起重機船の振れ回りに気付いて直ちに携帯無線でB指定海難関係人を呼び出したが応答なく、汽笛を鳴らして注意喚起を行っただけで急激な起重機船の振れ回りに対してどうすることもできず、日の出丸の船首も右方に振られて右舷方に横引き状態となって、右舷に傾き始めた。
 折からB指定海難関係人は、起重機船の船尾において右舷係船機から左舷係船機に移動して左舷錨索の巻き取りを始めようとしていたとき、日の出丸の汽笛を聞いて異変に気付いて船首に駆けつけたが、大きく傾斜した日の出丸に対してどうすることもできず、15時15分掛リ埼鼻灯台から270度1,250メートルの地点において、日の出丸は、右舷側に転覆した。
 当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期少し前であった。
 転覆の結果、救命作業衣を着用していたA受審人は海中に投げ出されたが、まもなく起重機船に救助され、沈没した日の出丸は引き上げられ、濡れ損を生じたが、のち修理された。
 以後B指定海難関係人は、揚錨が終了するまで引船を使用しないなどの安全対策を行った。

(原因)
 本件転覆は、五島列島奈留瀬戸最狭部において、船尾両舷錨を潮流の本流に投錨して係留する起重機船を沖出しする際、起重機船が潮下側の錨を巻き揚げ中、潮流に圧流されたことと、潮上側の強く張った錨索の反動とにより起重機船船尾が潮上側に引き寄せられ、その船首が潮下側に急激に振れ回ると同時に、起重機船の船首を曳いていた作業船が横引き状態となったことによって発生したものである。
 作業指揮者が、起重機船の船首の振れ回りに対する配慮が十分でなかったことは本件発生の原因となる。

(受審人の所為)
 B指定海難関係人が、五島列島奈留瀬戸最狭部において、潮流の本流に船尾両舷錨を投下して係留する起重機船の沖出しの作業指揮をとる際、潮下側の錨が揚がったときには、潮流による圧流と潮上側の錨索が強く張り、その反動で船尾が潮上側に引き寄せられ、船首が振れ回ることが予見できたのであるから、船首方で引船作業に従事中の日の出丸を横引きすることのないよう、起重機船の振れ回りに配慮しなかったことは本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、その後、揚錨作業が終了するまで作業船を引船に使用しないなどの安全対策を講じたことに徴し、勧告しない。
 A受審人の所為は本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。 





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