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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 転覆事件一覧 >  事件





平成12年仙審第35号
件名

作業船第八飛龍丸転覆事件

事件区分
転覆事件
言渡年月日
平成13年3月15日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(上野延之、根岸秀幸、藤江哲三)

理事官
保田 稔

受審人
A 職名:第八飛龍丸船長 海技免状:三級海技士(航海)

損害
転覆、のち廃船

原因
発航準備不良

主文

 本件転覆は、発航前の乾舷の確認が不十分で、排水口から大量の海水が船内に流入し、復原力を喪失したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年12月27日08時40分
 釜石港

2 船舶の要目
船種船名 作業船第八飛龍丸
総トン数 39.27トン
全長 22.67メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 441キロワット

3 事実の経過
 第八飛龍丸(以下「飛龍丸」という。)は、昭和53年7月に船体中央部に操舵室を有する船首楼付一層甲板型の小型漁船として進水し、有限会社Rが平成4年10月に購入し、魚倉を貨物倉に改造した鋼製作業船で、専ら釜石港周辺の港湾築造工事現場に生コンクリートを運搬する業務(以下「運搬業務」という。)に従事していた。
 飛龍丸の甲板下には、船首から後方に順次船首タンク、属具や予備係船索などを格納する倉庫(以下「倉庫」という。)、第1貨物倉、第2貨物倉、空所、機関室及び船尾倉庫がそれぞれ配置され、甲板上には、船首から後方に順次船首楼、倉庫ハッチ、第1貨物倉ハッチ、第2貨物倉ハッチ及び機関室囲壁の上部に設けられた操舵室と同囲壁に続く船員室がそれぞれ配置され、船首楼後壁から倉庫ハッチの後端までグレーチングが取り付けられていた。
 ところで、高さ約1メートルの両舷ブルワークには、船体中央から前方約1.6メートルに長さ約60センチメートル(以下「センチ」という。)高さ約20センチの排水口があり、同排水口から船員室後端まで約9.0メートルの間に、約0.8ないし1.4メートルの間隔で排水口が片舷に各6箇所設けられていた。
 倉庫ハッチは、長さ約90センチ幅約1.2メートルで、高さ約10センチのハッチコーミングが設けられており、同コーミング上には、鋼板製でパッキンがない非水密の落とし蓋(以下「倉庫の落とし蓋」という。)がかぶせられ、また、第1及び第2各貨物倉(以下「両貨物倉」という。)各ハッチは、いずれも長さ幅ともに約2.8メートルで、高さ約60センチのハッチコーミングがそれぞれ設けられ、高さ2.4メートルの生コンクリート専用バケット(以下「バケット」という。)を積むときには、バケットの上部がハッチコーミングより上方に出るので、ハッチカバーを陸揚げしてハッチを開放していた。
 飛龍丸は、岩手県両石湾奥に約2箇月間係留していたところ、釜石港内の釜石漁港改修工事現場(以下「工事現場」という。)への運搬業務に従事することとなり、同11年12月27日07時00分係留地を発し、08時10分釜石港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から192度(真方位、以下同じ。)580メートルの釜石港須賀公共埠頭(以下「公共埠頭」という。)に入船右舷付けした。
 ところで、倉庫内には、平素、A受審人が、荷役中に生コンクリートが甲板上に飛び散るので、ホースの先端を船首楼後壁に向け、グレーチングと甲板との間に差し込んで常時海水を同壁に射水し、跳ね返る海水で両舷甲板上を洗い流していたことと、係留中に2ないし3日ごとに甲板上の構造物を洗浄していたことから、長期間にわたって倉庫の落とし蓋とハッチコーミングとの隙間から海水が浸入し、係留地を発航するときには、3.5トンほどの海水がたまっていた。
 08時30分少し前A受審人は、生コンクリート用ミキサー車から両貨物倉のバケットに各々11.5トンの生コンクリートを積み終えたとき、倉庫内の海水と生コンクリートとの重量によって船首トリムになるとともに船体が沈下し、中央部甲板が海面にほぼ達する状況となり、このまま発航すると排水口から海水が船内に流入するおそれがあったが、平素と同じ量の生コンクリートを積載したので大丈夫と思い、発航する前に乾舷の確認を十分に行うことなく、船体中央部甲板が海面にほぼ達していることも船首トリムであることにも気付かなかった。
 こうして、飛龍丸は、A受審人ほか2人が乗り組み、作業員2人を乗せ、揚荷の目的で、船首2.27メートル船尾2.11メートルの喫水をもって、08時30分公共埠頭を発し、工事現場に向かった。
 離岸後、A受審人は、機関を後進にかけて後退しながら公共埠頭の東端を替わした後、機関を前進として右回頭し、08時34分北防波堤灯台から182度590メートルの地点で、針路を052度に定め、機関を半速力前進にかけ、6.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で手動操舵により進行した。
 定針したとき、A受審人は、ふと甲板上を見ると排水口から海水が流入して船首方向へ流れているのを認め、作業員に急ぎ機関室内を点検するよう指示して続航した。
 08時36分A受審人は、北防波堤灯台から145度450メートルの地点に達し、機関室内に浸水がない旨の報告を受けたとき、排水口から流入する海水の量が増加するとともに倉庫付近の甲板上に大量の海水がたまっているのを認めて危険を感じ、海岸付近の浅所に乗り揚げようと針路を084度に転じ、その後徐々に船首が沈下して舵効きが悪くなる状況で進行中、同時40分少し前保針のため右舵20度をとったとき、船体が左傾斜してブルワークが水没し、08時40分北防波堤灯台から108度1,050メートルの地点において、飛龍丸は、復原力を喪失して左舷側から転覆した。
 当時、天候は曇で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の初期であった。
 転覆の結果、飛龍丸は、他の作業船によって工事現場に引きつけられたが、のち廃船とされ、乗組員及び作業員は、全員船外に投げ出されたものの、付近の他船に救助された。

(原因)
 本件転覆は、釜石港須賀公共埠頭において、生コンクリートを積載して発航する際、乾舷の確認が不十分で、排水口から大量の海水が船内に流入し、復原力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、釜石港須賀公共埠頭において、生コンクリートを積載して発航する場合、乾舷の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、平素と同じ量の生コンクリートを積載したので大丈夫と思い、乾舷の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、排水口から大量の海水が船内に流入し、復原力を喪失して転覆を招き、全損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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