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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 転覆事件一覧 >  事件





平成12年那審第37号
件名

プレジャーボート(船名なし)転覆事件

事件区分
転覆事件
言渡年月日
平成13年1月31日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(金城隆支、清重隆彦、花原敏朗)

理事官
平良玄栄

受審人
A 職名:(船名なし)船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
船外機に濡れ損、友人が誤嚥性肺炎

原因
復原性に対する配慮不十分

主文

 本件転覆は、復原性に対する配慮が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年5月4日18時45分
 沖縄県金武中城港与那原湾

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート(船名なし)
全長 3.82メートル
1.05メートル
深さ 0.20メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 1キロワット

3 事実の経過
 (船名なし、以下「ボート」という。)は、FRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、友人1人を乗せ、きす釣りの目的で、船首0.1メートル船尾0.2メートルの喫水をもって、平成12年5月4日17時15分佐敷町馬天港を発し、同時30分金武中城港馬天北防波堤灯台から103度(真方位、以下同じ。)850メートルの地点に至って機関を停止し、漂泊して釣りを行った。
 ところで、ボートは、船底から20センチメートル(以下「センチ」という。)のところに甲板が張られ、船尾端から18センチのところの前方の両舷に、甲板上からの高さが15センチ、長さ43センチ、幅105センチの物入れが設けられ、物入れにはさぶたがかぶされ、さぶた上面の高さは船底から35センチであった。
 A受審人は、友人を船首の甲板に座らせて釣りを見物させ、自らは物入れのさぶたに座って釣りを行ったが、日没近くになったことから帰港することとし、18時44分船外機の始動を始めた。
 A受審人は、さぶたの上に船尾を向いて立ち、左手でハンドルを握り、右手で長さ約55センチの始動ロープを引き、両足を踏ん張って繰り返し始動を試みているうち、船体が横揺れするようになったことに気付いた。しかし、同人は、腰を下ろして重心を下げ、横揺れが治まるまで再始動を中断するなど、復原性に対する配慮を十分に行うことなく、さぶたの上に立ったまま再始動を続けて横揺れを増大させた。
 ボートは、船尾から海水が浸入するようになって更に横揺れが増大し、18時45分金武中城港馬天北防波堤灯台から106度850メートルの地点において、船首を217度に向け、右舷側に大傾斜し、復原力を喪失して転覆した。
 当時、天候は晴で風力2の東風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
 転覆の結果、船外機に濡れ損を生じ、佐敷町馬天港に引き付けられ、A受審人と友人は海中に投げ出されたが付近の島に泳ぎ着き、友人が入院加療を要する溺水による誤嚥性肺炎を負った。

(原因)
 本件転覆は、金武中城港与那原湾において、始動ロープを使用して船外機を始動するにあたり、繰り返し始動を試みているうち、横揺れが生じた際、復原性に対する配慮が不十分で、再始動を続けて横揺れが増大し、右舷側に大傾斜して復原力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、金武中城港与那原湾において、始動ロープを使用して船外機を始動するにあたり、さぶたの上に立って繰り返し始動を試みているうち、横揺れが生じた場合、腰を下ろして重心を下げ、横揺れが治まるまで再始動を中断するなど、復原性に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、復原性に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、さぶたの上に立ったまま再始動を続け、横揺れを増大させて右舷側に大傾斜させ、復原力を喪失せしめて転覆を招き、機関に濡れ損を生じさせ、友人を負傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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