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平成10年那審第57号
件名

貨物船南西丸遭難事件

事件区分
遭難事件
言渡年月日
平成13年3月28日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(花原敏朗、金城隆支、清重隆彦)

理事官
上原 直

受審人
A 職名:南西丸船長 海技免状:四級海技士(航海)

損害
スラスタ駆動装置の大歯車折損、スラスタ翼に曲損および欠損

原因
明らかにすることができない

主文

 本件遭難は、サイドスラスタ駆動装置の歯車が折損し、サイドスラスタが使用できなくなったことによって発生したものであるが、歯車の折損原因を明らかにすることができない。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成10年4月2日18時35分
 鹿児島県湯湾港

2 船舶の要目
船種船名 貨物船南西丸
総トン数 425トン
全長 66.84メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 882キロワット

3 事実の経過
 南西丸は、昭和63年7月に進水し、専ら鹿児島県奄美群島周辺の海砂採取及び砕石運搬に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で、株式会社Sが製造したSTDE−150−890型と称するサイドスラスタ(以下「スラスタ」という。)を船首に装備していた。
 スラスタは、発生推力の定格が2.2トンで、船首部の船体水線下の横方向に設けられた内径866ミリメートル(以下「ミリ」という。)長さ5,250ミリのトンネルの内部に、スラスタ駆動装置及び直径840ミリのアルミニウム青銅鋳物製の4翼固定ピッチプロペラ(以下「プロペラ」という。)が据え付けられ、J社が製造したBF6L513R型と称するディーゼル機関(以下「原動機」という。)でQ社が製造したMGN40E−2型と称する逆転減速機を介して駆動されるようになっていた。そして、前示トンネルは、異物の侵入を防止するため、両端にスリットの幅が120ミリの円形の格子が4本のボルト及びナットで船体に取り付けられていた。
 スラスタの動力伝達系統は、原動機の出力軸からの動力が、逆転減速機、中間軸、歯車継手及びスラスタ駆動装置上方に設けられた歯車箱内のかさ歯車を介し、同駆動装置を経てプロペラに伝えられるようになっていた。
 スラスタの動力伝達系統は、原動機の出力軸からの動力が、逆転減速機、中間軸、歯車継手及びスラスタ駆動装置上方に設けられた歯車箱内のかさ歯車を介し、同駆動装置を経てプロペラに伝えられるようになっていた。
 スラスタ駆動装置は、ニッケルクロム鋼製の歯車軸と炭素鋼製のプロペラ軸が組み込まれ、歯車箱内のかさ歯車からの動力を歯車軸を経てプロペラ軸に伝えるようになっていた。そして、歯車軸は、下方がかさ歯車(以下「小歯車」という。)になっていて、上方には軸継手がキーで取り付けられ、同駆動装置内上部で上下2個の軸受で支持されていた。また、プロペラ軸は、一方に前示プロペラが、他方にニッケルクロム鋼製のかさ歯車(以下「大歯車」という。)がいずれもキーで取り付けられ、同駆動装置下部で左右2個の軸受によって支持され、前示小歯車が大歯車と噛み合っていた。そして、プロペラ軸は、同駆動装置とプロペラボス部との間がロープガードで覆われていた。
 また、スラスタ駆動装置は、前示軸受及びかさ歯車の潤滑が同装置内に満たされた潤滑油によるオイルバス方式で行われ、容量が30リットルの潤滑油重力タンクを装備し、また、プロペラ軸の同駆動装置貫通部に装着されたオイルシールで潤滑油の外部への漏洩と海水の浸入を防止するようになっていた。
 一方、スラスタの遠隔操縦装置は、船橋の中央部に設けられたスラスタ用計器盤でプロペラの回転方向と回転数が操作でき、操作つまみのノッチで回転数が5段階に切り替えられ、また、警報装置として原動機の潤滑油圧力低下及びシリンダヘッド温度上昇、逆転減速機用潤滑油圧力低下並びに潤滑油重力タンク油面低下などの異状を示す警報があり、これらが一括されて装置異状として警報を発するようになっていた。
 ところで、スラスタは、プロペラに異物が当たったり、急激な負荷変動が繰り返し行われるなどして過大な衝撃荷重を受けたりすると、スラスタ駆動装置のかさ歯車に過大な面圧がかかり、また、経年劣化でかさ歯車の歯面が摩耗し、バックラッシが過大になり、歯当たりが不良になると歯が材料疲労を生じ、いずれも歯の折損に至るおそれがあった。
 A受審人は、平成4年8月に一等航海士として乗り組み、同5年2月に船長に昇格して操船のほか船体の保守管理にあたり、スラスタの保守整備について、毎年入渠時に原動機の開放整備とトンネル及びプロペラの掃除を行い、同9年7月に入渠した時にもスラスタを点検して異状を認めなかった。一方、同人は、スラスタの潤滑油が長期間更油されずに継続使用されて徐々に劣化が進行し、また、スラスタ駆動装置の歯車の歯面が次第に摩耗していたが、運転に支障はなく、原動機及びスラスタ駆動装置の点検及び整備については機関長に任せていたので、このことを知らなかった。
 また、A受審人は、スラスタを使用するにあたり、いつも試運転は行わず、空倉時には、トンネルの上方が水面上からわずかに出る状態となり、スラスタの効きが悪くなることがあり、5ノッチまで回転数を上げて使用することがあったが、操作つまみを急激に操作することは極力避けていた。
 南西丸は、A受審人ほか5人が乗り組み、空倉のまま、船首1.2メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、平成10年4月2日16時20分鹿児島県古仁屋港を発し、機関を全速力前進にかけ、11.5ノットの対地速力で進行し、同県湯湾港に向かった。
 A受審人は、湯湾港で乗組員に休暇を付与するため、同港東側の通称マイナス4メートル岸壁(以下「岸壁」という。)に接岸することとしていたが、湯湾港の入航については豊富な経験を有しており、また、岸壁付近で流木などの浮遊物を何度か目撃したことがあったものの、これまでスラスタの運転など入航作業に支障を生じたことはなかった。
 南西丸は、湯湾港内を続航し、入航にあたり、A受審人が自ら操舵操船に就き、船首に一等航海士及び甲板員1人を、船尾に機関長及び一等機関士を配置し、機関を微速力前進にかけ、針路を真方位126度として左舷前方の岸壁に41度の角度で進入し、18時30分岸壁の北北西方120メートル付近の地点で、機関を中立として右舵をわずかにとりながら惰力で進行し、同時34分前進行きあしが止まるとともに舵を中央に戻し、船首が真方位167度に向首して左舷を岸壁と15メートルの距離を離してほぼ平行になった。
 こうして、南西丸は、接岸作業に当たり、18時35分少し前A受審人が、スラスタを始動して右回頭にノッチを1から5まで徐々に増速し、原動機の回転数が毎分2,100まで上昇したところ、18時35分鹿児島県湯湾岳694メートル頂から真方位236度1.7海里の地点において、スラスタ駆動装置の大歯車の隣り合った2本の歯が折損し、スラスタが異音を発するとともに、操舵室内でスラスタの装置異状を示す警報ブザーが鳴った。
 当時、天候は曇で風力1の北西風が吹き、港内は穏やかであった。
 この結果、A受審人は、スラスタの推力が減少して効かなくなり、直ちに原動機を船橋で停止してスラスタの使用を止め、引き続き接岸作業を続行した。
 南西丸は、のち入渠して精査の結果、前示の損傷のほか、スラスタ翼に曲損及び欠損が生じていることなどが分かり、いずれも修理された。

(原因に対する考察)
 本件遭難は、スラスタ駆動装置の大歯車が折損してスラスタが使用不能になったことによって発生したものであり、大歯車の折損原因について検討し、原因を考察する。
1 海中浮遊物の翼への接触
 スラスタは、海中浮遊物が翼に接触すると、駆動装置に瞬時に過大な負荷がかかり、かさ歯車が折損することがある。本件では、翼の損傷模様から、海中浮遊物が翼に接触したことは明らかであるものの、接触が発生した日時及び浮遊物を特定することができず、翼の損傷とかさ歯車の折損の因果関係を明らかにすることができない。
2 歯車の強度の低下
 本件後の修理でかさ歯車のバックラッシが大きくなっていたこと、潤滑油が長期間更油されずに使用され、金属粉の混入による汚染及び海水の混入による劣化が見られたことなどから潤滑油の劣化が進行して潤滑阻害が生じ、かさ歯車の摩耗から強度の低下を招いたおそれがあるが、一方、折損を免れた歯面の歯当たりに異状はなかったことを勘案すれば、かさ歯車の摩耗が損耗限度を超え、著しく強度が低下していたとは考えられない。
 以上、スラスタ駆動装置の大歯車の折損原因について検討したが、いずれも折損に結びつくような確証はなく、これを特定することができず、大歯車の折損の原因を明らかにすることができない。

(原因)
 本件遭難は、湯湾港において、接岸作業中、スラスタ駆動装置の大歯車が折損し、スラスタが使用できなくなったことによって発生したものである。しかしながら、大歯車の折損原因を明らかにすることができない。

(受審人の所為)
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。 





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