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平成12年神審第80号
件名

貨物船ニッコウ6遭難事件

事件区分
遭難事件
言渡年月日
平成13年1月18日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(西林 眞、須貝壽榮、小須田敏)

理事官
杉崎忠志

受審人
A 職名:ニッコウ6機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)

損害
海水出口管及び海水吸入管に亀裂

原因
冷却海水管系の点検不十分

主文

 本件遭難は、発電機原動機の冷却海水管系の点検が不十分で、こし器本体から海水入口管が切損、離脱し、多量の海水が機関室に浸入したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年3月17日00時50分
 播磨灘

2 船舶の要目
船種船名 貨物船ニッコウ6
総トン数 497トン
全長 75.94メートル
13.50メートル
深さ 6.17メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット

3 事実の経過
 ニッコウ6は、航行区域を沿海区域とし、主としてコンテナの国内輸送に従事する、昭和63年7月に進水した船尾機関室型の鋼製貨物船で、上甲板下には、船首から順に甲板長倉庫、貨物倉、長さ10.4メートルの機関室及び操舵機室、機関室船尾寄り上部に設けられた船尾楼に居住区及び操舵室をそれぞれ配置していた。
 機関室は、上下二段に分かれ、下段中央に主機を据え付け、同機の右舷側上段及び左舷側下段に電圧445ボルト容量225キロボルトアンペアの三相交流発電機を駆動する、昭和精機工業株式会社製の6KHL−STN型と称する定格出力198キロワット同回転数毎分1,200の過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関(以下、右舷機を「1号補機」、左舷機を「2号補機」という。)をそれぞれ装備していた。また、同室下段には前部に消防兼雑用水ポンプ、主機冷却海水ポンプ及びビルジバラストポンプなどを、右舷後部に油水分離器ビルジポンプ(以下「ビルジポンプ」という。)を備え、上段右舷前部に機関監視室を設けていた。
 一方、機関室の船底部は、主機直下に潤滑油サンプタンクを、右舷側前部に船底からの高さ1.9メートルの5番右舷燃料油タンク及び油水分離器ドレンタンクを、反対舷に同高さの5番左舷燃料油タンク及びスラッジタンクをそれぞれ備えていたものの、そのほかにタンク類などはなく、各燃料油タンクに隣接して設けられた両舷シーチェストを除き、船底のほぼ全体がビルジだめとなっており、中間軸の右舷側にビルジポンプ用のビルジ吸入弁を、同軸の左舷側及び同室前方両舷にビルジバラストポンプ用の同吸入弁を設けていたが、ビルジ高位警報装置は設置されていなかった。
 1号補機の冷却海水管系は、主機前部右舷側にある、同機単独の呼び径50ミリメートル(以下「ミリ」という。)の海水吸入弁、海水吸入管、単式S形こし器(以下「こし器」という。)及び中間弁を経て直結の冷却海水ポンプにより吸引加圧された海水が、清水冷却器及び潤滑油冷却器などを冷却したのち、右舷側の船外吐出弁から船外に排出されるようになっていたほか、直結ポンプ系統が使用不能となった際などに、ビルジバラストポンプ及び消防兼雑用水ポンプなどから送水できる経路を有していた。
 ところで、1号補機のこし器は、海水吸入弁より約1メートル船尾寄りの床板下にあり、こし器本体から長さ約50ミリの出・入口管の両端に、呼び圧力5キログラム毎平方センチメートル、呼び径50ミリの各フランジを有し、海水吸入弁からの、及び中間弁に至る各海水吸入管がフランジ接続されていたが、同本体底部に据付け台などが取り付けられておらず、そのうえ同本体を保持、防振するための支持バンドも設けられていなかったことから、海水の腐食作用や船体振動などの影響を受け、同本体の海水出・入口管付根部に亀裂を生じやすい状況にあった。
 A受審人は、平成8年11月から一等機関士として乗り組んだのち、同11年7月に機関長に昇格して機関の運転と保守管理に当たり、補機のこし器の開放掃除は、冷却海水圧力や船外排出弁からの排出量に異常がなかったことから、入渠時以外に行うことはなかったものの、翌8月の臨時検査工事において、破孔を生じた2号補機の海水吸入管などを取り替えたとき、経年による腐食の進行により同管の肉厚が著しく衰耗しているのを認めていた。
 ところが、A受審人は、ビルジ量が増加したときに調査すれば大丈夫と思い、その後の運転中、定期的に1号補機の冷却海水管系を点検することなく、運航を続けていたので、いつしか同補機のこし器本体と海水出・入口管との付根部に亀裂が生じ、これが進展する状況となっていることに気付かなかった。
 こうして、ニッコウ6は、A受審人ほか4人が乗り組み、コンテナ16個を積載し、船首1.7メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、同12年3月16日09時00分関門港門司区を発し、主機を回転数毎分240の全速力前進にかけ、2号補機を運転して神戸港に向かった。
 その後、本船は、備讃瀬戸東航路を経て少し船体動揺を繰り返しながら播磨灘を航行中、亀裂を生じていた1号補機のこし器海水入口管が付根部で切損して同器本体から離脱し、多量の海水が機関室に浸入するうち、折から機関当直中であったA受審人が、機関監視室から見回りに出たところで、主機フライホイールが海水を激しく巻き上げているのを発見し、翌17日00時50分江井港西防波堤灯台から真方位303度5.7海里の地点において、直ちに主機を停止した。
 当時、天候は雨で風力4の西北西風が吹き、海上はしけ気味であった。
 A受審人は、機関室の後部床板の高さまで水位が上昇しているのを認め、両補機の冷却海水管系以外のシーチェスト付各海水吸入弁及び各船外排出弁を閉弁したものの、水位の上昇が止まらず、運転中の2号補機にも浸水が及ぶものと懸念し、船内動力電源を確保するため1号補機を始動して同電源を切り替え、2号補機の海水吸入弁及び船外排出弁を閉弁したのち、事態を船長に報告して救助を要請した。
 ニッコウ6は、来援した引船により神戸港に引き付けられ、コンテナをすべて陸揚げしたのち、入渠のうえ検査した結果、1号補機のこし器本体から海水入口管が離脱するとともに、同本体と海水出口管との付根部及び中間弁出口側の海水吸入管に亀裂を生じていることが判明し、主機クランク室、潤滑油サンプタンク及び中間軸受が浸水したほか、主機予備潤滑油ポンプ及びビルジポンプなどの電動機器に濡損が生じたが、のち損傷部は修理された。

(原因)
 本件遭難は、経年による腐食の進行により冷却海水管の肉厚が衰耗するようになった際、1号補機の冷却海水管系の点検が不十分で、こし器の海水出・入口管付根部に生じた亀裂が放置されたままとなり、こし器本体から海水入口管が切損、離脱し、多量の海水が機関室に浸入したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、破孔を生じた2号補機の海水吸入管などを取り替えた際、経年による腐食の進行により同管の肉厚が衰耗しているのを認めた場合、1号補機の冷却海水管系も衰耗して破孔を生じるおそれがあったから、定期的に同管系を点検すべき注意義務があった。ところが、同人は、ビルジ量が増加したときに調査すれば大丈夫と思い、定期的に同管系を点検しなかった職務上の過失により、こし器本体と海水出・入口管との付根部に亀裂が生じ、これが進展する状況となっていることに気付かず、同器海水入口管が切損、離脱して多量の海水を機関室に浸入させ、主機のほか、予備潤滑油ポンプ及びビルジポンプなどの電気機器に濡損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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