日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成12年長審第48号
件名

漁船大秀丸漁船大豪丸衝突事件
二審請求者〔補佐人白仁美全〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年3月30日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(亀井龍雄、森田秀彦、平野浩三)

理事官
喜多 保

受審人
A 職名:大秀丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:大豪丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
C 職名:大豪丸同乗者 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
大秀丸・・・船尾部が破損、A受審人が外傷性頸部症候群、A受審人の妻が頭部、頸部打撲傷
大豪丸・・・船首部に破口

原因
大豪丸・・・見張り不十分、追い越しの航法(避航動作)不遵守(主因)
大秀丸・・・見張り不十分、警告信号不履行(一因)

主文

 本件衝突は、大秀丸を追い越す大豪丸が、見張り不十分で、大秀丸の進路を避けなかったことによって発生したが、大秀丸が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Cを戒告する。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成10年10月7日19時10分
 有明海北部沿岸

2 船舶の要目
船種船名 漁船大秀丸 漁船大豪丸
総トン数 4.97トン 4.2トン
登録長 12.24メートル 12.36メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 50 50

3 事実の経過
 大秀丸は、FRP製漁船で、広江漁業協同組合組合員であるA受審人が妻と2人で乗り組み、海苔(のり)養殖作業の目的で、船首0.3メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、平成10年10月7日10時30分佐賀県広江漁港を発し、同港港外の海苔養殖施設に向かった。
 広江漁港は、有明海北部に流入する八田江川にある河川港で、河口から2.2キロメートルほど上流にある八田江防潮水門の下流両岸に物揚場、係留施設等があり、左岸側は広江漁業協同組合所属組合員の漁船が、右岸側は東与賀漁業協同組合所属組合員の漁船が利用していた。両漁協所属組合員のほとんどは海苔養殖業に従事しており、使用漁船は220から230隻であった。同港は、有明海特有の大きな潮高差のため干潮ころには係留施設付近も航行不能となり、干潮時の2.5から3時間後に航行可能となる状況であった。
 広江漁港から有明海に出る水路は、八田江川河口部から沖合にかけて展開する干出浜を、199度(真方位、以下同じ。)方向に長さ6キロメートル、幅90メートルほど掘り下げたものが1本あるだけで、入出港には必ずこの水路を通行しなければならなかった。また、水路中央線の延長上の陸岸には、澪標(みおつくし)の役目をする照明灯が、水路の方向に向けて設置されていた。同照明灯は暗くなると自動点灯し、やや黄色味のかかった白色の指向性のある明るい不動光を水路に向けて照射するもので、水路沖側の遠方からも十分視認可能であった。
 海苔養殖施設は有明海区海苔養殖施設と称し、水路の両側一帯の干出浜に設けられており、各養殖区画に至る船通しも干潮時には航行できず、航行可能となるのは、干潮の2.5から3時間後であり、次の干潮の2.5から3時間前までが航行可能時間帯であった。
 10月初旬は、海苔の種付け時期で一斉に同じ作業を行うので、200隻以上の漁船が種付け作業に出ており、7日の干潮時刻は16時36分で19時前後に航行可能となるため、この時刻から1時間ほどの時間帯に全船が一斉に帰港し、水路は広江漁港に向かう漁船で非常に輻輳する状況であった。また、水路は西側に行くに従って深く掘り下げられており、潮候から可航幅は西側約60メートルとなっていた。
 A受審人は、10時50分自分の養殖区画に到着して作業を開始し、15時ころ作業を終えた後、貝の採取を行って潮待ちをし、18時59分住ノ江港灯浮標(以下、「灯浮標」という。)から068度1.25海里の地点を発進し、航行中の動力船の灯火を掲げ、帰途についた。
 A受審人は水路に入り、19時00分灯浮標から063度1.25海里の地点で針路を019度に定め、機関を半速力前進にかけて7.0ノットの対地速力で手動操舵により、前方照明灯を船首目標とし、多数の漁船が連なって帰港中の水路の中央付近を進行した。
 A受審人は、ほとんどの漁船が自船より速い速力で帰港中で、何隻かの漁船が自船を追い越して行くのを認めたが、自船の係留地の水深から早く到着しても係留できないのでゆっくり行くこととし、7.0ノットの速力のまま、前方に多数の漁船の船尾灯を視認しながら進行した。
 19時09分45秒A受審人は、後方からくる船のうち、大豪丸がほぼ正船尾100メートルに接近し、自船に向首したまま更に接近する状況となったが、追い越す船が自船を避けるものと思い、後方に対する見張りを行っていなかったのでこの状況に気付かず、作業灯を後方に向けて照射するなど注意喚起信号を行わないまま続航中、19時10分灯浮標から042度2.27海里の地点において、大豪丸の船首が、大秀丸の右舷船尾に後方から10度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好であった。
 また、大豪丸は、FRP製漁船で、広江漁業協同組合組合員であるB受審人が1人で乗り組み、同組合員であるC受審人を乗せ、海苔養殖作業の目的で、船首0.35メートル船尾0.60メートルの喫水をもって、同日14時15分広江漁港を発し、同港港外の海苔養殖施設に向かった。
 B受審人は、14時30分自分の養殖区画に到着して作業を開始し、一方、C受審人もその隣の自分の区画で同じ作業にあたり、両人とも1時間ほど作業に従事したのち貝の採取を行って潮待ちをした。
 B受審人は、19時ころC受審人に操船させて帰途につくこととしたが、既に帰港を開始した漁船が前方水路を連続して通過するのでしばらく待ち、通過する漁船がとぎれた同時04分灯浮標から072度1.07海里の地点を発進して水路に出て、航行中の動力船の灯火を掲げ、C受審人が操舵室右舷側の操縦席に腰掛けて手動操舵にあたり、その左隣にB受審人が立って見張りをしながら進行した。
 19時05分C受審人は、灯浮標から073度1.08海里の地点で針路を019度に定め、前方照明灯を船首目標として徐々に増速しながら進行し、0.125マイルレンジにしたレーダーで多数の漁船が、50から100メートルの間の様々な距離を置き、密なところでは15メートルほどの間隔で連なって帰港する映像をB受審人と一緒に認め、同時07分わずか前灯浮標から059度1.37海里の地点に達したとき、機関を全速力前進として20.0ノットの対地速力で、主として肉眼による見張りを行いながら水路の中央部付近を続航した。
 B及びC両受審人は、前方に胡麻(ごま)をふったように点々と存在する漁船の船尾灯を視認し、同船尾灯が照明灯の光の中にたまたま入ると数秒間見えなくなることも認めた。また、後方からも多数の漁船が来るのを認め、どの船も自船とほぼ同じような速力で進行しているものと思いながら続航した。
 19時09分45秒B及びC両受審人は、前方の漁船のうち最後部にいた大秀丸に100メートルに接近し、なお同船に向首したまま追い越す態勢で接近する状況となったが、どの船も自船と同じような速力で帰港しているので前路の船に接近することはないものと思い、レーダーを利用する等前路の見張りを十分に行っていなかったのでこの状況に気付かず、転舵したり、減速するなどして同船の進路を避けることなく進行し、同時10分わずか前B受審人が船首至近の船尾灯に気付き、とっさに右舵一杯として船首が029度を向いたとき、原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、大秀丸は船尾部を破損し、操舵室が衝撃で海没し、大豪丸は船首部に破口を生じ、のちそれぞれ修理され、A受審人が外傷性頸部症候群等を、同人の妻が海中に投げ出され、頭部、頸部打撲傷等を負った。

(原因)
 本件衝突は、夜間、有明海北部沿岸海苔養殖施設内の水路において、多数の同業漁船がほぼ同一針路で一斉に帰港中、大秀丸を追い越す大豪丸が、見張り不十分で、大秀丸の進路を避けなかったことによって発生したが、大秀丸が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は、夜間、有明海北部沿岸海苔養殖施設内の水路において、多数の同業漁船と共にほぼ同一針路で一斉に帰港する場合、前方には水路を照らす明るい照明灯があって前方の漁船の船尾灯が見えにくい状況であったから、前路を航行中の大秀丸を見落とさないよう、レーダーを利用するなど前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、どの船も自船と同じような速力で進行しているので前路の船に接近することはないものと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、大秀丸を追い越す態勢で接近していることに気付かず、同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き、大秀丸の船尾部を破損させ、更に操舵室を海没させ、大豪丸の船首部に破口を生じさせたうえ、A受審人に外傷性頸部症候群等を、同人の妻を海中に投げ出し、頭部、頸部打撲傷等を負わせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は、夜間、有明海北部沿岸海苔養殖施設内の水路において、多数の同業漁船と共にほぼ同一針路で一斉に帰港する場合、前方には水路を照らす明るい照明灯があって前方の漁船の船尾灯が見えにくい状況であったから、前路を航行中の大秀丸を見落とさないよう、レーダーを利用するなど前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、どの船も自船と同じような速力で進行しているので前路の船に接近することはないものと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、大秀丸を追い越す態勢で接近していることに気付かず、同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、夜間、有明海北部沿岸海苔養殖施設内の水路において、多数の同業漁船がほぼ同一針路で一斉に帰港中、他の船より遅い速力で航行する場合、後方から接近する他船を見落とさないよう、後方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、追越船が自船を避けるものと思い、後方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、自船を追い越す態勢で接近する大豪丸に気付かず、注意喚起信号を行わないまま進行して衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:103KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION