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平成12年門審第48号
件名

油送船第五新住吉プレジャーボート明進丸ほか2隻衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年3月23日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(相田尚武、原 清澄、米原健一)

理事官
畑中美秀

受審人
A 職名:第五新住吉船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:第五新住吉機関長 海技免状:六級海技士(機関)(機関限定)(旧就業範囲)

損害
新住吉・・・船首部に擦過傷
明進丸・・・右舷前部ブルワークに破口
日昇丸・・・両舷前部ブルワークに亀裂
美照丸・・・右舷前部ブルワークに亀裂

原因
新住吉・・・主機の整備・点検・取扱不良

主文

 本件衝突は、第五新住吉が、主機遠隔操縦装置の整備が不十分で、逆転減速機が後進への切替え不能となったこと、及び投錨準備が不十分で、行きあしを止めることができないまま、係留中の明進丸ほか2隻に向けて進行したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成10年5月28日14時00分
 関門港

2 船舶の要目
船種船名 油送船第五新住吉 プレジャーボート明進丸
総トン数 90トン  
登録長 29.33メートル 10.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 250キロワット 128キロワット

船種船名 遊漁船日昇丸 漁船第三美照丸
総トン数   4.84トン
登録長 10.30メートル 11.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 25キロワット  
漁船法馬力数   90

3 事実の経過
 第五新住吉(以下「新住吉」という。)は、昭和59年10月に進水した、船舶に燃料油などの供給業務に従事する鋼製油送船で、機関室に、主機として、G株式会社が製造した6M−HT型と呼称するディーゼル機関と、油圧クラッチ内蔵の逆転減速機(以下「逆転機」という。)を組み合わせて装備し、操舵室に、ガバナハンドルとクラッチハンドルで構成された主機の遠隔操縦装置を備えていた。
 逆転機は、一定方向に回転する主機の入力を受け、前進用クラッチまたは後進用クラッチを選択してプロペラ軸の回転方向を切り替えるもので、クラッチ選択のための前後進切替弁の軸を、中立位置から前進側または後進側に回転させて切り替えるようになっていた。
 クラッチの遠隔制御(以下「クラッチリモコン」という。)は、操舵室の操縦スタンドに付設されたクラッチハンドルの操作を、静油圧式の油圧回路を通して前後進切替弁に伝えるもので、クラッチハンドルを取り付けた起動部、前後進切替弁に接続された受動部及び起動部と受動部の両シリンダ出口の前進側と後進側とを相互につなぐ2本の油圧配管で構成され、起動、受動両部ともピストンを有し、ラックアンドピニオン機構で動作を変換するようになっていた。
 起動部は、クラッチハンドルを中立位置から前後進両側に最大24度ずつ回転させ、ピストンを動かして作動油を移動させるもので、本体ピニオン上部が作動油タンクとなっており、ピストン中央部には同タンクとの補給穴と逆止め弁を設け、後進側油圧配管が負圧となると自動的に作動油が補給されるようになっていた。
 受動部は、油圧配管内を移動してきた作動油をピストンで受け、その動きを出力軸の回転運動に変換し、前後進切替弁を回転させるもので、同軸にはレバー(以下「逆転機付レバー」という。)が取り付けられていた。
 静油圧式の油圧装置は、油圧系統からの漏油、同系統周囲の温度変化、同系統内への空気の侵入などにより、起動部と受動部のピストン位置のずれや圧力の伝達不能による作動障害を生ずることがあり、クラッチリモコンのハンドルや逆転機付レバーに遊びが生じたときは、空気抜きを行う必要があった。
 ところで、住吉石油株式会社は、若松航路に面した北湊泊地北岸の北湊2号物揚場岸壁に、運航しなくなった新住吉の僚船を浮桟橋(以下「浮桟橋」という。)として係留し、新住吉の定係地としていた。また、同浮桟橋の西側約3メートル離れた水域は遊漁船などの係船場となっており、同桟橋側から順に明進丸、日昇丸及び第三美照丸(以下「美照丸」という。)ほか4隻が、それぞれ船尾からアンカーブロックに係留索をとり、船首をほぼ北方に向け、船首付けで岸壁に係留されていた。
 B受審人は、昭和59年10月から機関長として新住吉と僚船の第二新住吉とに交互に乗り組み、新住吉に乗船中は主機遠隔操縦装置の保守管理に当たっていたところ、いつしかクラッチリモコン後進側油圧配管の接合部に緩みが生じたかして、クラッチハンドルが操作されるたびに作動油が漏洩し、また空気が侵入するようになり、逆転機付レバーに遊びが生じると、受動部給油口からポンプで作動油を補給しながら空気抜きを行っていた。
 新住吉は、クラッチリモコン油圧系統の漏油が続き、B受審人により油圧配管が点検されたが、作動油が透明に近いこともあって漏洩箇所が発見されないまま、同系統内に空気が侵入し、前示レバーに遊びが生じると、その都度、作動油の補給と空気抜きが行われ、運航が続けられていた。
 新住吉は、A受審人及びB受審人が2人で乗り組み、E重油100キロリットル及びC重油44キロリットルを積載し、燃料油供給の目的で、船首1.5メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、平成10年5月28日13時00分関門港小倉区の石油桟橋を発し、同港若松区第4区の岸壁に係留中の内航船に向かった。
 B受審人は、航行中、機関室において、クラッチリモコン油圧系統内に空気が侵入して逆転機付レバーの遊びが増大していることを認め、同リモコン油圧系統に多量の空気が侵入すると、同リモコンが後進不能となって逆転機が切り替わらなくなるおそれがあったが、内航船に燃料油供給を行うための接舷時、逆転機の作動に支障がなかったことから、定係地に戻ってから作動油の補給と空気抜きを行えばよいものと思い、接舷中、速やかに同リモコン油圧系統の空気抜きを行うことなく、13時40分からE重油の送油作業に当たった。
 A受審人は、燃料油の供給を終えたのち、13時50分前示の内航船から離れ、クラッチハンドルを前進側に操作したところ、漏油箇所から空気が後進側油圧配管内にさらに侵入し、起動部の後進側への操作が受動部に伝達されにくくなり、逆転機の後進切替えが不能な状態となったが、このことに気付かないまま帰途に就き、同時53分若松航路第13号灯浮標(以下「13号灯浮標」という。)から273度(真方位、以下同じ。)210メートルの地点に達したとき、針路を北湊泊地入口中央部に向かう279度に定め、主機を回転数毎分500にかけ、5.5ノットの対地速力で進行した。
 13時55分A受審人は、13号灯浮標から276度590メートルの地点に至り、針路を浮桟橋の南東端に向首する298度に転じ、着桟に備えてB受審人を船首配置に就かせたが、今まで逆転機が後進への切替え不能となる事態がなかったことから必要ないものと思い、揚錨機に覆いをかけたまま、投錨準備をすることなく、主機を微速力前進の2.0ノットに減じ、同時56分半同桟橋南東端に195メートルに接近したとき、クラッチハンドルを中立として続航した。
 A受審人は、13時58分少し過ぎ浮桟橋南東端から95メートルのところで、クラッチハンドルを後進に操作したところ、逆転機が後進に切り替わらず、投錨して行きあしを止めることができないまま、前進惰力で直進した。
 こうして、新住吉は、14時00分若松航路第13号灯浮標から283度925メートルの地点において、約1ノットの行きあしで、船首部が明進丸の右舷前部に後方から60度の角度で衝突し、その衝撃で明進丸が日昇丸に、さらに日昇丸が美照丸に、次々に衝突したのち、岸壁に衝突した。
 当時、天候は曇で風力3の東南東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
 また、明進丸は、FRP製プレジャーボートで、船首0.5メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、無人のまま北湊2号物揚場岸壁に船首付けで係留していたところ、前示のとおり衝突した。
 さらに、日昇丸は、木製遊漁船で、無人のまま前示岸壁の明進丸の西方に船首付けで係留していたところ、前示のとおり衝突した。
 加えて、美照丸は、FRP製漁船で、無人のまま前示岸壁の日昇丸の西方に船首付けで係留していたところ、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、新住吉は、船首部に擦過傷を、明進丸は、右舷前部ブルワークに破口を、日昇丸は、両舷前部ブルワークに亀裂を、美照丸は、右舷前部ブルワークに亀裂をそれぞれ生じ、また、岸壁に設置されたはしごなどに損傷を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件衝突は、新住吉が、主機遠隔操縦装置の油圧系統の整備が不十分で、油圧系統内に空気が侵入したまま運航され、逆転機が後進に切り替わらない状態となったこと、及び関門港若松区の定係地に着桟するにあたり、投錨準備が不十分で、行きあしを止めることができないまま、係留中の明進丸ほか2隻に向けて進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、関門港若松区の定係地に着桟する場合、逆転機が後進に切り替わらない事態となったときに備えて、投錨準備をするべき注意義務があった。しかるに、同人は、今まで逆転機が後進への切替え不能となる事態がなかったことから必要ないものと思い、投錨準備をしなかった職務上の過失により、行きあしを止めることができないまま直進し、係留中の明進丸ほか2隻との衝突を招き、新住吉の船首部に擦過傷を、明進丸の右舷前部ブルワークに破口を、日昇丸の両舷前部ブルワークに亀裂を、美照丸の右舷前部ブルワークに亀裂をそれぞれ生じさせ、岸壁設置のはしごなどを損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、燃料油を供給するため内航船に向かう航行中、逆転機付レバーの遊びが増大していることを認めた場合、クラッチリモコンの油圧系統に多量の空気が侵入すると、同リモコンが後進不能となって逆転機が切り替わらなくなるおそれがあったから、内航船に接舷中、速やかに同リモコン油圧系統の空気抜きを行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、燃料油供給を行う接舷時に逆転機の作動に支障がなかったことから、定係地に戻ってから作動油の補給と空気抜きを行えばよいものと思い、接舷中、速やかに同リモコン油圧系統の空気抜きを行わなかった職務上の過失により、同系統内に空気を侵入させた状態で運航を続け、逆転機が後進に切り替わらず、行きあしを止めることができないまま直進し、係留中の明進丸ほか2隻との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:41KB)





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